第13話  初めまして!

「あなた、崔さんね。私、五十嵐真帆!」

「崔梨遙です。こんにちは。夕方やから、こんばんはかもしれへんけど」

「飲みに行こうよ! 昨日の続き! 営業とは何か? 語り合おうよ!」

「ええけど、今の僕は、昨日のテンションとちゃうで」

「え! なんで?」

「電話で言うたやんか、君に会ったら惚れてしまうって」

「え! それじゃあ、もしかして私に……」

「うん、予想通り、惚れてしもたわ」

「嘘-! 崔さん、女だったら誰でもいいとか?」

「そんなわけ無いやろ」

「じゃあ、私だから?」

「うん、五十嵐さん美人やし。でも、美人は周りにもいるんやけど、五十嵐さんは僕の好みのタイプやねん。世の中には美人も多く存在するやろうけど、こんなに好みのタイプの美人は珍しい。僕のストライクゾーンのど真ん中やねん」

「その気持ちは嬉しいけど、せっかくやから語ろうよ」

「うん、まあ、ええけど。崔さんって、“さん”付けで呼ばなくてもええで。僕は、“真帆”って呼んでもいい?」

「いきなり馴れ馴れしいなぁ!」

「あれ? アカン? ええやろ?」

「まあいいけど。じゃあ、私は崔君って呼ぶから」

「梨遙やから、“りーちゃん”でもええで」

「ダサイわ、崔君でいいよ」

「じゃあ、どの店に行く?」

「崔君のオススメは無いの?」

「岡山は詳しくないからなぁ。まあ、1軒だけあるけど」

「じゃあ、そこにしよう」

「ほな、車に乗ってくれ」



「こんな店があったのね、知らなかった」

「大阪にも、こんな感じの店があるねん。だから、同じ様な店を探して、やっと見つけた」

「明かりは全て蝋燭なのね。カーテンで仕切られて、すごくムードがある」

「まあ、飲み食いしながら営業について語ろうや、僕、元〇〇〇〇(社名)やから」

「それ、スゴイよね! ねえ、どんな営業をしてきたか? 教えてよ」

「最初は、〇〇〇〇の代理店に入社したんや。ほな、飛び込みで、1日に100社、100人、100枚以上の名刺をもらってこいって言われたわ」

「100枚って、きつくない?」

「きついよ、僕は初日は96枚やったわ」

「スゴイじゃん」

「ノルマを果たさずに帰ってくるな! って1時間半も上司に詰められたわ」

「えー! 厳しいね」

「翌日は146枚もらってきた。上司がビックリしてた」

「それからは、求人広告屋だったから、企業の人事や採用の責任者にアポを取って商談してた。僕等は、リストも自分達で用意してたんやで。リストを用意してもらえる真帆達が羨ましいわ。リストを作るだけでも時間がかかるから」

「確かに。私達はリストを買ってるからね。リスト代、結構高いんだけど」

「ええリストやんか。まさか独身寮の固定電話の番号がリストに載ってるとは思わんかったわ。その情報屋、なかなかやり手やんか」

「まあ、正直、独身寮の番号は助かってるのよ、お客さんも独身寮の人が多いから」

「女っ気が無くて、モテなくて、女性を欲しがってる連中やろ? そりゃあ、真帆とお茶したり食事したら、イベントに参加して宝石でもなんでも買うやろな」

「そういう言い方、やめてよ」

「いや、否定はせえへんよ。むしろ、狙いは良いと思う。売り上げに貢献するのは、そういう男達やろうから。戦略としては間違ってない。僕も、“その手があったか!”って思ったもん。この戦略を考えた人はやり手やな。男達も良い夢が見られてええやんか」

「男性には女性が、女性には男性が営業するの」

「そやろなぁ、普通、そうするやろ。ところがなぁ、僕はそれで困ったことがあったんや。色気のある若い女性のテレアポさんがアポをとったから行け! と言われて行ったら、“え! あの娘(こ)じゃないの?”って。猛烈な罵声を浴びたわ」

「災難だったね」

「女性がアポを取ったら女性が、男性がアポを取ったら男性が営業に行った方がいい」

「そうね、ウチの男性の営業は女性に電話をかけて、会ってるけど」

「そやろなぁ、売り上げを伸ばすには、その方法が1番ええやろう」

「昨日はやたら私の言うことを否定したのに、今日は優しいのね」

「昨日は好きな女性がいなかった。女性にも困っていなかった。今日は好きな女性が出来た。好きな女性には優しくなるやろ?」

「周りに、どんな女性がいるの?」

「テレクラで知り合ったセ〇レとか、風俗嬢の女友達とか」

「派手に遊ぶねー! テレクラ? キャバクラじゃなくて?」

「うん、キャバクラではない」

「風俗嬢の女友達って、どういうこと?」

「指名してたら仲良くなった。プライベートで遊ぶことがある。結構美人やで。真帆ほどではないけど」

「私のこと好きになったら、その娘達はどうするの?」

「全部、縁を切る。本気で惚れられる女性に出会えたら、ケジメはつける」


 僕は携帯を真帆に渡した。


「どうして渡すの?」

「電話帳に気になる番号があったら、全部消してもええよ」

「えー! マジ? 簡単に携帯を渡せるってスゴイね。えー! 電話帳を見るの?」

「うん、じゃあ、見るね」

「……これは?」

「元カノ」

「消すね」

「どうぞ」

「……これは?」

「女友達」

「……消すね」


「電話帳、だいぶんスッキリしたなぁ」

「消して、後悔してない? 私、まだ崔君と付き合うなんて言ってないけど」

「大丈夫、真帆は僕と付き合うことになるから」

「どうして? どうしてそんなに自信満々なの?」

「僕が本気で口説くから。これから、僕は真帆をお姫様扱いするから」

「崔君がお姫様扱いしたらどうなるの?」

「他の男性ではもの足りなくなる」


 そこで、僕は真帆を抱き寄せた。ソッと唇を重ねる。真帆は拒まない。


「ということで、ホテルに行こうか?」

「ホテルには行かない」

「ほな、今日は諦めようかな。でも、真帆は必ず僕のものにするけど」

「ホテルには行かないけど、抱かれたくないとは言ってないよ」

「え?」



「私の部屋に来る?」







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