第45話  博多の娘!

「ふーん、なんか、ドラマみたいだね!」


 それが、僕の2回の離婚話を聞いた八田の感想だった。


「いやいや、こんなお粗末なドラマは無いで」

「でも、包丁を振り回したり、7ヶ月で4回も浮気したり、信じられないことばかりだから」

「僕も信じたくなかったわ! でも、全部現実やねん。僕は離婚して大阪に帰って来たんや。でも、良かった。八田さんと出会えたから」

「あ、私、下の名前を教えてなかったね。私、貴理子」

「ええ名前やんか」

「ありがとう。でも、要するに、崔君って女運が悪いんだね」

「一言で片付けないでほしいんやけど」

「素敵な女性は、今までにいなかったの?」

「おったよ、素敵な女性達、何人もおったわ。せやけど、何故か結婚相手はハズレやったんや。結婚と恋愛は違うからなぁ。恋愛のご縁と、結婚のご縁は違うみたいや」

「ねえ、初体験はいつだったの?」

「18歳」

「ふーん、普通じゃん」

「いやいや、19歳になる直前やったわ。初体験は18歳! と言いたくて、慌てて風俗店に行ったんやで」

「あ、最初は風俗だったんだぁ」

「うん、恥ずかしながら」

「最初の彼女は?」

「風俗嬢」

「え? 誰?」

「だから、僕の初体験の相手。同棲したわ」

「最初の彼女が風俗嬢? 何それ? そんなことあるの?」

「あるよ。あったがな。あったから同棲できたんや」

「なんか、崔君の女性遍歴に興味が湧いてきた。もっと話してくれる?」

「ええけど、また長くなるで。僕は明日は休みやけど、そっちはええの?」

「うん、遅番だから。ねえ、もっと聞かせてよ」


「……ということで、現在に至る」

「……ふーん、スゴイ経験をして来たんだね」

「別にスゴくはないよ、ただ、運命に翻弄されただけやから」

「いや、スゴイよ、崔君。聞いていて、ドラマとか映画みたいだった。崔君はスゴイね、話しててスゴくおもしろい!」

「まあ、退屈されるよりはええけど」

「明日、また電話してもいいかな?」

「勿論、大歓迎! 今度は貴理子さんのことを聞かせてよ」

「うん、わかった」



「はい、崔君、約束通り電話かけたよ」

「ありがとう、嬉しいわ」

「今日は私に聞きたいことがあるんでしょ?」

「うん、そやなぁ、ほな、まずは初体験から聞かせてや」

「17歳」

「くそ! 僕よりも早い。それで相手は?」

「当時、付き合ってた同級生」

「ああ、その同級生が羨ましい。貴理子さんの処女を奪うなんて」

「でも、高校を出て就職したら別れた」

「じゃあ、社会人になってからは?」

「会社の上司と付き合ってた」

「もしかして……不倫?」

「そう、不倫だった。私のこと、悪い女だと思う?」

「いや、男の方に問題があると思う」

「そう、私を責めないのね」

「責めへんけど、当時、貴理子さんは18歳とか19歳?」

「うん、付き合い始めたのはそのくらい」

「うわー! 羨ましい! 18歳とか19歳の貴理子さんと遊べるなんて」

「最初は一途だった。いつか、奥さんと別れて私と結婚してくれると思ってた。でも、3年くらい経っても奥さんと別れる素振りが無いから、私も彼氏を作ったの」

「彼氏? どんな人達?」

「普通の人。2,3人と付き合った。けど、上司とは別れられなかった。結局、その会社に10年勤めたけど、上司は最後まで私を遊び相手としか見ていなかった」

「それで? なんで会社を辞めたん?」

「結婚したから。私は家庭におさまって普通の家庭を築くつもりだった」

「築けなかったの?」

「うん」

「なんで?」

「旦那に借金があったから、それを返済するまで私もまた働かないといけなくなったのよ、だからまた働き始めたの」

「ヒドイ旦那やな、っていうか、僕の2人目の嫁と似てるなぁ」

「うん、だから、崔君の奥さんの借金のショックはよくわかる。でも、ウチは私が1人娘で、婿養子しか結婚できなかったから、あんまり選べなかったのよ」

「それも悲しいなぁ、そうか、婿養子に来てくれる人じゃないと結婚できなかったのかぁ、なんていうか、悲しいね」

「そう、それで、やっと借金を返し終えたと思ったら!」

「思ったら?」

「また、旦那が借金してた」

「アカンやーん!」

「それで、離婚。厳密には、まだ届けは出してないのよ。自己破産の手続き中だから。勿論、自己破産が認められたら離婚届けを出すけどね。お互いのサインの入った離婚届けの用紙は私が持ってるし。だからね、もう指輪もしてないの。事実上、離婚してるから」

「そうか、良かった。僕は不倫はしない主義やけど、離婚が決まってるなら付き合える。なあ、僕と付き合ってや、っていうか、とりあえず1回はデートしてほしい」

「今度の土曜は?」

「会いに行こうか? 会えるなら行くで」

「じゃあ、来て!」

「うん、行く!」



「崔君、土曜日、どこか行きたいところはある?」

「貴理子さんと一緒にいられるなら、どこでもええけど」

「せっかく大阪から来るんだから、どこに行くか? 崔君が決めてよ」

「僕に決めさせたら、行き先はホテルになってしまうで」

「うーん……うん、それでもいいよ」

「ほな、ラブホテルじゃなくて、ちょっといい普通のホテルのダブルの部屋を予約しといてくれへん?」

「うん、いいよ。予約しとく。駅から近いところがあるから」

「土曜日は何時に待ち合わせる? 場所は駅でいいよね? 僕、土地勘が無いから」

「駅でいいよ、一緒にランチしようよ」

「ほな、12時は混んでるから13時にしよか?」

「それでいいよ」

「ほな、それで決定」

「私、土曜の夜は帰らないといけないんだけど、日曜は遅番で午前中は会えるから」

「少しでも会えるなら行くで。楽しみやわ」

「私も楽しみ! っていうと、私がHみたいだけど。正直でいいよね?」

「うん、別にHやと思わへんし。女性にも性欲があるのはわかってるし」

「恥ずかしいけど、もう旦那とはずっとしてないからね。私、欲求不満かも」

「ええやんか、ええやんか、僕も欲求不満やし。でも、久しぶりに好きな女性を抱ける。なんか、嬉しい。好きな女性を抱くのが1番幸せやからね」



「あ、言ってなかったけど、私、38歳。もうすぐ39歳だよ」







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