第48話  エピローグ!

「貴理子さん、3件ともイマイチやったみたいやね」

「うん、ごめんね。ちょっと、夢を見たくて。どうせなら、素敵なマンションに住んで見たいの。ほら、私、生まれた時からずっと実家だから、マンション暮らしって憧れだったのよ。だから、つい選んでしまうの」

「ええよ、ええよ、今回の引っ越しの主役は貴理子さんや。今回は、貴理子さんが気に入った部屋にするって決めてるから。納得できるまで探そうや」

「ありがとう、崔君。じゃあ、贅沢を言わせてもらうね」

「お兄さん、今、オススメの注目物件ってあるんですか?」

「あります! 家賃が8万なんですけどね。行きますか?」

「行きます!」


「こちらです!」

「おお! すげえ! 何階建てなんですか?」

「12階建てです。今、お申し込みが多くて、今、空いてるのは3階と2階です」

「新しいですね」

「はい、新築です。〇月〇日から入居していただけます」

「じゃあ、オススメの部屋は?」

「3階なんですけど、まだ工事中ですので同じ間取りの2階をお見せしますね」


「こちらです」

「おお、広い!」

「12畳のワンルームですが、実はデザイナーズマンションなんです。出窓があったり、風呂場にテレビがあったり、お洒落ですよ。ここ、本当は8万じゃないんです。今だけ8万なんですよ。しかも、敷金礼金40万円のところ、今でしたら10万でいいんです。更に、書類上は40万円を支払っていただけたことになりますので、退去時に20万が返って来ます。その20万を、退去時のリフォーム代に回せるので、お得だと思います」

「崔君、キッチンを見てよ」

「おお、お兄さん、キッチンは電気ですか?」

「全て電気です。家賃の中に水道代も含まれています。ガスはありません。ガス代も要りません。必要なのは電気代だけです」

「崔君、見て! このクローゼット、超広い」

「ほんまや、風呂とトイレも別、独立洗面台あり、全体的に広いなぁ」

「崔君、ここで2人で住んでもいい?」

「お兄さん、ここはカップル用ですか?」

「そうなんです。入居予定者のほとんどがカップルなんです」

「他の部屋って、見れますか?」

「どうぞ、見てください。ですが、オススメはしません。角部屋はキレイな四角形じゃなくて、いびつな間取りなんですよ。ほら、ご覧ください」

「あ、ほんまや。これはアカンわ」

「崔君、私もこの角部屋は嫌」

「さっきの部屋がいいよね?」

「うん、正直、さっきの部屋は気に入った! お兄さん、私達が住むのは3階なんですよね? 本当に、この間取りと全く一緒なんですか?」

「全く一緒です」

「崔君、じゃあ、3階に住もうよ。私、ここが気に入った。家賃が予算オーバーだけど、いいかなぁ?」

「ええよ、8万やったら。それより、貴理子さん、本当にここが気に入ったの? 妥協してない? 今回、決めるのは貴理子さんやで」

「うん、私、ここがいい。これこそ、私の理想のマンション。憧れの都会のマンション暮らし! 崔君、ありがとう」

「家具はあまり置きたくないけど、食器棚とかベッドとか、ローテーブルは必要やね。買いに行こうか?」

「うん、一緒に買いに行こう!」

「お兄さん、この物件に決めました!」

「ありがとうございます。では、事務所に戻って手続きをお願いします」

「わかりました、貴理子さん、行こう」

「うん!」



 翌日は、家具を買いに行った。家具も貴理子に選ばせる。貴理子には、理想のマンション暮らしをさせてあげたい。ということで、まずはベッド。貴理子は、折りたためばソファーになるソファーベッドを選んだ。そして、洋服箪笥、食器棚。ローテーブル。最低限、必要なものだけにした。家具が多いと部屋が狭くなるからだ。必要なものが出てくれば、また買い足せばいい。勿論、テレビとテレビ台も買った。


「入居可能日に、家具とかは運び込むから」

「うん、ごめんね、その日は手伝えなくて」

「ええよ、僕は先に入居して待ってるから。貴理子さんが来てくれると信じて待ってるからね! お母さんとよく話し合ってね」

「うん、わかった」



 次のデートも大阪だった。家具は運び込まれていた。


「早く、この部屋に来てみたかったの」

「どう? 良い感じ?」

「うん、良い感じ。じゃあ、早速、結ばれようか?」

「いきなりやな、僕はええけど」

「新居で抱かれてみたかったの。私が選んだこのベッドで」


「どう? 新居で抱かれてみて」

「私は、もう夫婦気分。新婚気分よ」

「実は、僕も」

「今日は泊まるからね。この部屋で、このベッドで、崔君と一緒に朝を迎えたいの」

「食事に行く? 近所に美味しいハンバーグの店があるけど」

「うん、行く」



「何これ? めっちゃ美味しいじゃん」

「地元では有名な店なんや」

「へえ、この前、この近くで串カツを食べたよね?」

「うん、ここら辺は、美味しい物が多いねん」

「ミナミにも近いしね」

「買い物に行くのも近いし、飲んでて終電を逃しても歩いて帰れるからなぁ」

「交通の便がいいもんね」

「そやろ。早くこっちに来たくなってるやろ?」

「確かに。この街に住んでみたい」

「住んだらええねん! 貴理子さんが、あの部屋に引っ越してくれるのをずっと待ってるんやで」

「うん、もう少し時間をちょうだい。必ず、来るから。私も崔君と一緒に暮らしたいのよ。だから、私を信じて待っててね」


 それから数日後、ハイテンションの貴理子から電話があった。


「崔君、お母さんのOKをもらえたよ。私、大阪で崔君と暮らせるから! そっちに行くよ! そっちに行くからね!」



 沙耶の悪夢からようやく完全に目覚めることが出来たという気がした。沙耶との離婚は本当に悪夢で、僕はバツ2になってしまったが、僕はまだ30歳。これからが、僕の本当の人生のスタートだ! 貴理子と一緒に!



 ※【社会人編:第3部】に続きます。それでは、また。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

浪速区紳士録【社会人編:烈風】2度目の離婚を中心に書きます! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画