第43話  離婚届!

 しかし、調停員はみんな僕の味方だった。


「崔さん、戦いましょう! 裁判でも絶対に勝てますから」

「崔さん、この金額は崔さんがもらうべき金額なんですよ」

「相手に常識が無さ過ぎます。相手に常識というものを教えましょう」

「崔さん、悪い人間には罰が必要だと思いますよ」

「そうです、戦いましょう、崔さん!」

「戦いましょう、崔さん!」


 何があったのだろう? 沙耶はよほど態度が悪かったのだろうか? 沙耶は調停員を敵に回していた。調停員は、みんな沙耶に怒っていた。まあ、調停員のこの態度を見ただけでも、やはり沙耶の方が非常識だったのだと確信できる。どうせ、沙耶はまた非常識な言動をしたのだろう。しかし、ここまで調停員を怒らせるとは、なかなか出来ないぞ。流石、沙耶。


 でも、僕は言った。


「僕、ストレスで体調が悪いんです。早く離婚を成立させたいんです」

「そうですか……では、崔さんの言う通りにします」

「残念です。悪人を裁けなくて」

「僕だって、裁きたいです。でも、これ以上は僕の身体がもたないんです」

「わかりました」

「残念です」


 金額にビビったのだろうか? 沙耶が離婚届けにサインとハンコをくれた。ようやく、僕は解放された。長い戦いだった。



 僕は忙しかった。退職の手続き、退居の手続き、引っ越しがあった。これだけは、父に迷惑がかかるのでしたくなかったが、僕は大阪の実家に一時撤退することになった。父には父の生活がある。僕は早く実家を出るつもりでいた。


 幸い、転職先は決まっていた。以前、勤めていた会社の元上司が独立して会社を立ち上げていて、


「来ないか?」


と、声をかけてもらえていたのだ。退職と同時に就職できる。これはラッキーだった。出来たばかりの会社だったから、給料は安かったが、歩合がある。要するに、売れば良いのだ。



 大阪に戻って、営業の仕事を始めた。3年のブランクがあるし、扱う商品も少し変わったけれど、慣れた仕事だ。戸惑いも無かった。僕は再び、人生をやり直すことになった。


 “女性で傷ついた心は、女性じゃないと癒やせない”、平日は必死で仕事をしたが、僕は自分の心の傷を癒やすため、土日は風俗とテレクラに通った。


 テレクラは調子が良かった。さすが、大阪のテレクラ。テレクラが出会い系サイトを相手に苦戦していたとはいえ、都会のテレクラはかかってくる電話の数が違う。


 早速、美人のバツイチ女性とご縁があった。まあまあ美人、名前は、みどり。みどりは車で迎えに来てくれた。これが、大阪に戻って初めての女性経験だった。僕達はスグにホテルに行って燃えた。沙耶につけられた心の傷にしみる。女性に溺れるって、なんと心地よいのだろう? だが、沙耶が僕に与えた傷は簡単に癒やせるものではなかった。僕は、みどりと会いながら、まだテレクラに行ったり、風俗に行ったりしていた。みどりも、僕1人に縛られることなく、何人かのセ〇レがいるとのことだった。それに、みどりではもの足りない。もっと素敵な女性を求めてしまう。



 風俗では、出逢いがあった。その時、久しぶりに大阪の風俗街をウロウロしていた。贔屓にしていた店が無くなっていて、どの店がいいのかわからなくて、ウロウロしていたのだ。まるで迷子のように。すると、素敵なお姉さんが僕の前を通った。僕の好みだった。背は高くないが、スラッとしている。歳は30代の後半か40歳くらいだと思う。一目で惹かれた。僕は声をかけた。


「お姉さん、今から事務所ですか? 待機所ですか?」

「一度、事務所に戻るねん」

「ほな、僕、お姉さんをこれから指名しますわ。事務所に連れて行ってください」

「あら、指名してくれるの? まあ、嬉しい」

「お姉さん、お名前は?」

「美穂」


 僕は美穂を指名した。無難に90分コースを選んだ。美穂はスタイル抜群だった。楽しい90分を過ごすことが出来た。美穂は、間を空けずに何回か指名して通ったら、飲みに誘われた。飲んで食って、電車の無くなる時間を過ぎた。


「家、どこ? タクシーで送るけど」

「家はスグ近くやで。歩いて帰れるマンション。崔君も来る?」

「ええの? 行くに決まってるやんか!」


「ほんまに近いんやな」

「職場に近い方がええやろ? 月に1回は地元に帰るけど」

「地元ってどこ?」

「教えない」

「そのくらい教えてくれてもええやんか」

「新潟」

「なんで? めっちゃ関西弁やんか」

「こっちに出て来てから長いからね、自然に関西弁が身についた」

「なんで帰るの?」

「息子がいるから。いつも生理休暇の時に帰ってるねん」

「ふーん、なんか、いろいろ事情がありそうやね」

「そう、いろいろあるねん。じゃあ、そろそろしようか?」

「え! ええの?」

「そのつもりで来たくせに。お店では本番が出来ないけど、今なら出来るで。今は私のプライベートタイムやから」

「ほな、お言葉に甘えます」

「私、明日は休みやから、ゆっくりしてくれたらええよ」

「それは、ラッキーやな」

「そうやで、崔君はラッキーやで」



 朝になった。


「おはよ」

「おはよう」

「コーヒー飲もうか?」

「うん、飲む」


「はい」

「どうも。でも、なんで僕を選んでくれたんですか? お客さんなら、他にも沢山いるでしょう? イケメンも金持ちもいると思うけど」

「崔君は優しいから。それから、なんかカワイイ。母性本能をくすぐられるねん」

「そうなんや。ところで、今日の予定は?」

「せっかくの休みなんやから、家でゴロゴロイチャイチャしようや。お腹が空いたらピザでも注文したらええねん」

「美穂さんが、それでいいなら」



 僕にはラッキーなことが続いた。沙耶との結婚で苦しんでいたのが嘘みたいだ。人生が楽しい。僕は、自分の人生にようやく久しぶりに希望を見いだした。仕事も順調、女性関係も順調、そう、僕の人生はこれからだ。僕はまだ30歳なのだから!







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