第6話  急展開と急展開!

「ホテル? なんでホテルなん?」

「いけませんか?」

「いやいや、急だから。まだ、ちょっとしか話もしてないやんか、僕とホテルに行ってもええの? 天野さんならわかるけど。僕より天野さんの方がイケメンやと思うから」

「私は、崔さんくらい大人の方がいいんです」

「大人って言うても、僕、まだ20代やで」

「天野さんは若いから、あまり興味は無いんです」

「で、いきなりホテル?」

「はい、ダメですか?」


 僕は考えた。今の僕には彼女がいない。でも、梓を彼女にしたいとは思わない。しかし、僕にも性欲はある。性欲を満たすだけなら、梓でもいい。だから、正直に言った。


「僕は、君を彼女にはせえへんで」

「それでもいいですよ、私は」

「それでええんやったら、ホテル行こか」

「じゃあ、明日の夕方に会いましょう。何時だったらいいですか?」

「どこまで迎えに行ったらええの?」

「昨日の駐車場でいいですよ」

「だったら、6時半か7時」

「6時半で。食事してからホテルでいいですか?」

「うん、ええよ」



 翌日の夕方6時半。僕は梓と合流した。昨日のファミレスに行って食事して、予定通りホテルへ。



 まずは2人でお風呂。梓の裸を見ると、思っていたよりもスタイルが良かった。胸の形がいい。これは楽しめそうだ。


「崔さん、経験人数は何人ですか?」

「ご想像にお任せするわ」

「崔さんの過去の女達と比べて、私はどうですか?」


 “比べものにならねえよ!”と言ってやりたかったが、そんな失礼なことは言わない。言えるわけがない。僕は梓の機嫌をとることにした。


「いい線いってるで。梓はかわいいし、スタイルがいいから」

「私、かわいいですか?」


 “かわいいって言うほど特別かわいくはねえよ!”と思ったが、ここは我慢して言った。


「うん、かわいいよ」

「私、スタイルいいですか?」

「うん、スタイルいいよ」

「良かった。自信が持てました」

「何カップ?」

「当ててください」

「D!」

「正解! スゴイ! 見ただけでわかるんですね。沢山の女性を見てきたからですか?」

「いやぁ、カップって、結構わかるやんか」

「崔さん、やっぱり大人って感じですね」

「いやいや、まだまだ20代やで。でも、てっきり梓は天野さんの方に行くと思ってたけどなぁ。天野さん、あんまり喋らへんけど、かなりのイケメンやろ?」

「イケメンですけど、私と同い年じゃないですか、まだまだ若いですよ」

「まあ、梓を抱けるなら、僕はそれでええんやけど」

「お風呂から上がって、ベッドに行きましょうよ」


「満足できた?」

「満足です。すみません、しばらくグッタリさせてください」

「ゆっくり休んだらええやんか。動けるようになったら帰ろうや、送るから」

「崔さん、私、朝まで一緒にいたいです」

「ええけど、平日やから明日は会社やで。僕、朝早く起きるけど起きれる?」

「大丈夫です、朝に強いんで」

「それなら、今日は泊まろうか?」

「はい、このまま腕枕してください」

「お安い御用や」



「朝やで」

「朝ですね」

「仕事があるから、もうホテルを出るで」

「はい、お仕事の邪魔はしません」

「待ち合わせた駐車場まで送ったらええの?」

「はい、すみません」



「ほな、また今度」

「はい、また近い内に。また連絡しますね」

「崔さん!」

「ん? 何?」

「私と奥さん、どっちがいいですか?」

「奥さん? 奥さんなんかおらんよ」

「またまた-!」

「いやいや、嫁がいないから独身寮に住んでるわけやし」

「はいはい、そういうことにしておきます」


 “変なことを言う娘(こ)だなぁ”と思ったが、特に深く考えずにその場を去った。



 数日、梓から連絡が無かった。僕から電話することも無い。あまりこちらから誘うのは気がひける。確かに、僕は女性を求めている。精神的にも、肉体的にも。だが、精神的には梓を求めていない。肉体的に求めているだけだ。僕は身体だけの付き合いと思っている。そんな状態で積極的にはなれない。



 いきなり、妙子から電話がかかってきた。何だろう?


「はい、崔です」

「あ、崔さん? 妙子です」

「何? 天野さんと間違えて電話した?」

「違います。梓を知りませんか?」

「月曜に会ったよ。火曜の朝まで一緒やったわ」

「月曜に会ったのは知ってます、聞いていたから。その後、今、どこにいるか知りませんか? 探してるんっです」

「いや、知らない。どないしたん?」」

「私の家のお金と金目の物を持って、どこかに行ったんです。メールしても、電話してもダメなんです。電話にも出ないし、メールも返信が無いし」

「え! マジ? 梓って、とんでもない爆弾娘やったんやな」

「崔さんも知りませんか、じゃあ、もう、諦めるしかないですね」

「警察に届けたら?」

「なるべく警察沙汰にはしたくなかったんですけど、仕方ないですね、そうします」

「うん、多分、捕まると思うで。日本の警察は優秀やから」

「崔さんは大丈夫だったんですか?」

「何も盗まれてないよ、朝まで起きてたし」

「そうじゃなくて、家庭の方です」

「梓も言ってたけど、僕、独身やで。バツイチ、子供はいない」

「あれ? 日曜にスーパーで、家族連れの崔さんを見たって梓が言ってましたよ」

「絶対に人違いや」

「それで、“崔さんを奥さんから奪ってやる”って言って、月曜に崔さんと会ったんですよ」

「そうなん? 目的はそれ?」

「そうです、“崔さんの家庭を崩壊させてやる”って言ってました」

「それで梓は僕を誘ったのか」

「梓の勘違いでしたね。連絡があったら気をつけてください、あの娘は悪魔です」


 僕は、梓と連絡先を交換した時に、“あくま”と打ち間違えて入力したことを思い出した。偶然だったのだろうか?


「教えてくれてありがとう、梓には気をつけるわ、まあ、もう連絡は無いやろうけど」



「崔さん、私もホテルに行きたいです」







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