第37話  式と披露宴?

「崔君、やっぱり式と披露宴をしようよ!」

「麻紀さん、結婚前にお話ししたことと、随分話が違うじゃないですか」

「うん、私もね、写真だけでいいと思ったんだけど、やっぱり式と披露宴はしといた方がいいかなぁって、気が変わったのよ」


 “おいおい、お祝い集めがしたいのか?”僕は悪意として受け取るようになっていた。沙耶の借金と浮気のせいいで。


「でも、僕、お金が心配なんですよ。沙耶は食費を15万渡しても20万渡しても、半月で“お金が足りない”ってお金をねだってくる娘(こ)なんですよ、沙耶と同居してから、僕は毎月、大幅な赤字で苦しんでる状態なんです。こんな状態で、まとまったお金を使いたくありません。沙耶の借金も、どれだけあるのか? わからない状況ですしね」

「大丈夫、式と披露宴をやった方が儲かるから」

「儲かる?」

「ウチは親戚が多いからねぇ、集めた方が崔君にとってもいいはずよ」

「でも、沙耶と結婚してから予算外出費が多すぎるんですよ。今、大きなお金を動かしたくないんですよね。この気持ち、わかってもらえませんか?」

「会場も考えてるよ。ウチの親戚の店。この前の店じゃないよ。大きなパーティーが出来る店なのよね」

「でも、お金がかかるでしょ?」

「大丈夫、お祝いでお釣りが来るから。ねえ、式と披露宴をした方が儲かるって!」

「でもなぁ……」

「一度、ウチに2人でおいでよ、パンフレットもあるし、予算の計算もしてるから」



 僕と沙耶は沙耶の実家にお邪魔した。


「見て、この会場で披露宴をした親戚の写真。こんな感じなんだけどね」

「人数が多いですね、何人ですか?」

「この時は、80人」

「僕の時は、50人でしたわ」

「雰囲気はわかってもらえた?」

「はい、雰囲気は。で、料金はどのくらいですか?」


 麻紀が電卓を手にする。


「このくらい」

「おお、思っていた通りの金額ですね、思っていたより高くもなく安くもない」

「なんで? 違うよ。ワンランクアップした料理が出るわよ」

「ああ、それはありがたいですけど」

「ねえ、沙耶に式と披露宴をさせてあげてよ、一生に1回のことなんだから」

「麻紀さん、以前と言ってることが全然違うんですけど」

「そうだっけ? でも、沙耶も式と披露宴はしたいよね?」

「うん、したい」

「沙耶、元はといえば、お前の金遣いの荒さと借金のせいで悩まないとアカンのやぞ。お前が普通に食費を使ってくれて、借金が無かったら、僕も“はい! 式も披露宴もします!”って即答出来るんや。沙耶のことが不安やし、沙耶のことでお金も使ってるから悩むんやないか」

「だって……」

「崔君、そんなに怒らないで。沙耶の借金くらいは返せるくらいに儲かるから」

「でも、借金があることを隠してたし、20万渡しても、半月で“足りない”って、お金をせびるんですよ。サラリーマンの嫁で、こんな娘いませんよ! その20万、食費のみですよ!」

「まあまあ、崔君、落ち着いて」

「落ち着いてたら、沙耶はどんどんつけ上がりますよ。沙耶はサラリーマンと結婚しない方がいいですよ。どこかのお金持ちを狙うべきです。まあ、沙耶のこのビジュアルで、セレブになれるとは思えませんけどね」

「崔君が怒るのは仕方ないと思うけど、ここは堪えてあげてよ」

「僕、麻紀さんに話せていないことが沢山あるんですよ、沙耶は最低の嫁であり、最低の女性です。麻紀さんには言いたくないから話していないこと、沢山あるんですよ! 式、披露宴どころか、僕は離婚も考えているんです。とても前向きな話は出来ませんよ!」

「まあまあ、ちょっと怒りを鎮めてよ。披露宴の会場が〇〇〇万円で、お祝い1人あたり〇万としたら……見て! 崔君、これだけ儲かるのよ!」


 沙耶にまた電卓を見せられたが、僕のテンションは低かった。


「では、こうしてください。儲かった分は、全部、沙耶と麻紀さんに差し上げます。僕は1円も要りません。でも、マイナスになった時は、沙耶と麻紀さんが全部被ってください。僕は1円も出しません。もし、それでいいなら、僕も式や披露宴をしても構いません。それでも、やりますか?」

「沙耶、どうする?」

「やる、やりたい」

「よし、やろう!」

「でも、ドレスの手配とか、招待状の作成とか、どうするんですか?」

「親戚が利用したブライダルプランナーのところに行きなさい。これ、そこの名刺」

「わかりました。どうなっても知りませんよ!」



 ブライダルプランナーのところへ沙耶と行った。感じの良いお姉さんが担当になってくれた。沙耶よりも遙かに美人だ。だが、もう、どうでもいい。


「ウエディングドレスは仕立てますか? 一生、持っておくことが出来ますけど」

「崔君、ウエディングドレス、仕立ててもいいかな? 記念に持っておきたい」

「ええよ、沙耶と麻紀さんが料金を払ってくれるなら。僕は1円も出さないから」

「……すみません、レンタルにします」

「式場はお決まりなんですね? 披露宴も」

「はい、電話で話した通りです。ここです」

「では、こちらから連絡を取って、会場と連携して動くようにしますので」

「今後、どういう流れなんですか?」

「そうですね、引き出物を決めていただいたり、レンタルのドレスを決めていただいたり、もう少ししたら招待状の準備もしましょうか?」

「ウエディングドレス、早く選びたいです」

「では、こちらへどうぞ」


 沙耶が連れて行かれた。僕は早く帰りたかった。


「崔君、これどう?」

「サイズが合ってないやんか」

「しょうがないでしょ、仕立てられないんだから」

「仕立てたらええやんか、沙耶と麻紀さんで。麻紀さんに電話するわ。……もしもし、麻紀さんですか? 沙耶がウエディングドレスを仕立てたいと言っています。レンタルでは嫌らしいです。お話した通り、僕は1円も出しませんから、麻紀さんと沙耶で話し合ってください。沙耶に代わります」


「麻紀さんは、なんて言ってた?」

「贅沢を言うなって叱られた」

「そうか、ほな、しゃあないなぁ」

「サイズが合うのは、私の好みじゃないのよね」

「しゃあないやんか、沙耶はスタイルが悪いんやから」

「会社の人達は、私のことなんて言ってる?」

「ケツが垂れ下がってるって有名や」



 沙耶は烈火の如く怒った。でも、みんながそう言うのだから仕方ない。







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