第36話 僕と麻紀!
正月休み、僕と沙耶は麻紀に連れられて、親戚回りをさせられた。まだ、最初の浮気の前だったのでマシだったが、既に沙耶の借金の督促状は届き始めていたので、僕は乗り気ではなかった。だが、沙耶は親戚の前になると張り切る。僕にベタベタする。腕を組んだり、横から抱きついたりする。僕はずっと座っていて、微動だにしなかった。沙耶にベタベタされるまま、受け入れることも拒むこともなく座っていた。
すると、麻紀に叱られた。
「崔君、人前でベタベタするのはやめなさい、見苦しい」
僕はカチンときた。
「どこを見てるんですか? ベタベタしてくるのは沙耶ですよ。僕は座ってるだけです。その件で叱るなら、沙耶を叱ってくださいよ。僕も恥ずかしいんです」
「あんたから沙耶に注意をすればいいじゃないの」
「注意はしました。でも、沙耶は親戚の前になると張り切るんです。僕も恥ずかしくて困ってるんです。麻紀さんがなんとかしてくださいよ」
その時が、始めて麻紀に反抗した時だった。それから、麻紀とは少し話しにくくなった。“だいたい、こっちは沙耶の借金でムカついてるんですよ!”という言葉だけは飲み込んだ。夫婦になった以上、これは僕と沙耶、夫婦の問題だと思っていたからだ。麻紀に話しておけば良かった。後悔した。
そして親戚回りをしていると、沙耶が張り切って麻紀の手伝いをする。料理を作ったり、料理を運んだり、後片付けをしたり。沙耶には病後の姉とキレイな妹がいるのだが、動いていたのは沙耶ばかりだった。
帰りの車で、なんとなく沙耶に言った。
「3姉妹やのに、動いてるの沙耶だけやねんな」
「それ、ママに言ってちょうだいよ」
「麻紀さんに? 何を言うの?」
「私ばかりこき使わないようにって」
「なんで、そんなこと言わなアカンの? そんなこと言ったら、僕と麻紀さんが喧嘩になるで。お前はそれでもええんか?」
「大丈夫、ママに電話してよ」
「マジで喧嘩になると思うで。沙耶の借金問題で僕はだいぶん冷めたから、沙耶や麻紀さんと喧嘩になっても、どうでもええけど」
「どうでもいいなら、電話してよ」
「……もしもし、麻紀さん? あの……今日とか、沙耶ばっかり手伝いをしているように見えたんですけど」
「あ、はい、スグに行きます」
「ママは、なんて?」
「家に来いって言われた。こりゃあ、マジで喧嘩やな」
「崔君、あんた、ウチの事情を知ってから言わないとダメよ」
「はあ、事情と言いますと?」
「お姉ちゃんは、癌やったけど、やっと治ったところで病み上がりなのよ。無理させられないでしょう? 妹は、ずっと働いてるから疲れてるの。沙耶だけなのよ、疲れてないのは。沙耶は専業主婦をさせてもらって、日頃、ゴロゴロしてるだけでしょ? だから沙耶に手伝ってもらってるの」
「はい、沙耶はゴロゴロしてるだけです。食事も作りませんから。外食ばかりです」
「沙耶、あんた、料理も作らずに何をしてるの?」
「洗濯とか」
「そんなもん、スグに終わるじゃないの! ということで崔君、ウチのことには口を出さないで! わかった?」
「いやぁ、僕は最初からどうでもいいんですよ。沙耶が、麻紀さんに言ってくれって言うから電話しただけですので」
「そうなの? 沙耶、あんたは崔君に何をさせてるの? あんたが1番悪いじゃないの! あんたは何がしたいの?」
何故か、沙耶はニコニコヘラヘラしていた。しばらく、麻紀さんと妹さんが沙耶と話していたが、僕はもうどうでも良かった。しばらく、麻紀さんのお説教があって、お説教が終わるのを待って僕が言った。
「沙耶に、働くように言ってもらえませんか? 仕事を探す素振りも無いんですよ。でも、返済してる借金の分だけは働いてほしいんですよね」
「沙耶、あんた借金なんかあるんか?」
言ってやった。でも、何故か沙耶はヘラヘラしていた。その態度には、沙耶の妹も呆れていた。姉妹にも呆れられるのか? 沙耶はやっぱりお荷物だ。
そんなこんながあって、僕は以前よりも麻紀とは話しにくくなっていた。そして、沙耶の最初の浮気へと話は繋がっていくのだ。僕は沙耶の浮気のことを麻紀に相談したかったが、麻紀とは話しにくくなっていたし、これは夫婦の問題だと思ってずっと言わずに堪えていた。本当は麻紀に相談したかったのだけれど。
会社では、昼飯時に先輩からよくからかわれた。
「崔、以前は毎日弁当を作ってもらってたのに、もう弁当は作ってもらえないのか?」
「はい、もう作ってもらえませんわ」
「新婚なのに、今からそんなことでどうするんだよ」
「はあ……もう笑うしかないですね」
「崔さん」
「ああ、天野さん。調子はどうですか?」
「一時期、彼女がいたんだよ」
「あら、いつの間に?」
「崔さんが結婚した後」
「それで、今は?」
「もう別れたけどね」
「早いっすね! まあ、こっちも離婚寸前ですけど」
「何かあったの?」
「いろいろあるんですよ。話せば長くなるので、話しませんけど」
「こっちもいろいろあったよ」
「どんなことがあったんですか?」
「お尻を経験した。崔さんも言ってただろ? “お尻は出口で、入口じゃないって”。それを確かめたくて、経験したんだけどね」
「さすが天野さん、鬼畜ですね。それで、どうでした?」
「あれは出口だ。確かに入口じゃない」
「他に何か良い思い出は無いんですか?」
「試したいプレイは全部試したよ、だから、別れても後悔は無い」
「ますます鬼畜ですね、ほんじゃあ、早く次の相手を見つけないとダメですね」
「そうだね、まあ、またゆっくり探してみるよ」
「幸運をお祈りします」
麻紀は言っていた。
「結婚式とか披露宴は特にしなくてもいいと思う。ウエディングドレス姿だけ、写真に撮って残しておけばいいじゃないの」
ところが、或る日、麻紀から電話がかかって来た。
「はい、崔ですけど」
「あ、崔君? やっぱり式と披露宴をやろうよー!」
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