028 最初の村
ごめんなさい、テンテンさん。だって、理解が追いつかなかったんだもん。【知識の神の加護】に聞いても、答えてくれないし。小麦畑で働く大きなテントウムシ、その後ろでスキップする無数のヒマワリ……やばい、夢に出そう。
丘を振り返るとテンテンさんが手を振っていた……すごく良心が痛む。よし! 厚顔無恥に笑顔で手を振り、さよならだ!
道に戻り旅を再開する。北へ向かって道を進めるが、変わり映えしない景色に飽きてくる。日差しも傾き陽が落ちようとしている。遠くを見ると建物が集まっているのが分かった。今日の目的地まで、あと少しだ。
目的の村に近づくにつれて道の周りに田畑が増えてきた。牧場もあり牛も十数頭いる。人族と変わらない生活を送っているようだ。
門の前に着くと魔人の女性に呼び止められた。
「ちょっと、待って。この村に何か用かしら?」
「ん? ああ、日も暮れてきたし、ここで1泊したい」
「そう。じゃあ、何か身分が分かるものを出して」
「…………。ちょっとだけ、待ってほしい」
魔人の女性が疑わしい表情でこっちを見ている。そういえば、何か身分を証明するような物ってあったか? 頂いていないような、頂いたような……思い出せないな。うん、こういう時は、あれだな。
【知識の神の加護】さん、よろしくお願いします。
《………身分を保証するものはあります。魔人メイから渡された短刀です》
短刀? そんなの道具の中にあったか? まぁ、とりあえず背嚢の中を確認しよう。
背負っている背嚢を下すと、ドスンと大きな音がした。魔人の女性を見ると、顔が引きつっていた。魔人の女性からの視線を無視して背嚢の中に短刀がないか探す。探すが見つからない。もしかして忘れてきちゃったとか。とりあえず、全部だしてみる。
鍋、方位計、地図、携帯食、水筒、鉈、綱……と地面に置いていく。
「!!!! ちょっと待って、その短刀を見せて!」
「短刀? 短刀ってどれだ?」
「それよ、それ!」
魔人の女性は地面に置いてある鉈を指差した。これは短刀なのか、鉈ではないのか。こんな分厚い短刀があるのだろうか。とりあえず、地面に置いてある短刀を拾い、魔人の女性に手渡した。
魔人の女性はじっくりと短刀を確認し始めた。縦に持ったり、横にしたりと丹念に見ている。
「ねぇ、鞘から抜いてもいいかしら?」
「ああ、かまわない」
魔人の女性は鞘から短刀を抜くと、切先を立て刃先や刃文をまじまじと見ている。少し恍惚とした表情をしているのは気のせいか。
「ありがとう。堪能させてもらったわ。確かに本物ね」
「堪能? まぁ、いい。これで俺の身分は問題ないってことでいいのか?」
「ええ、問題ないわ。それにしてもすごいわね。オテギネ様から、こんな名刀を下賜されるなんて」
「ん? オテギネさんから貰ったって、どうして分かるんだ?」
魔人の女性が信じられないといった表情で、こちらを見ている。そんな表情で見ないでほしい……だって、知らないものは知らないし。
「………ほら、ここに紋があるでしょ。オテギネ様から下賜された品にはどこかに必ずこの紋が刻印がされているのよ」
おお、確かに鞘に紋が刻印されている。ただの意匠だと思っていたが、意味があったのか。しかも名刀って、他の宝石や貴金属より価値があるのかも。さりげなく、こんな高価なものをくれるとは、オテギネさん、かっこいい!
「なるほど、確かに。それで俺は村に入ってもいいのかな?」
「ええ、大丈夫よ。あと、宿は1軒しかないから。早めに受付を済ませた方が良いわよ。場所は中央の広場に面した一番大きな建物よ」
「ありがとう、教えてくれて。ちなみにあんたの名は?」
「オウカよ。あなたは?」
「サイガだ、手間をかけたな。それじゃ、失礼するよ」
地面に置いた道具を背嚢に入れ直し、オウカさんと別れて村へ入った。
村といったが、小さな町ぐらい賑わっていた。中央の広場と入口を結ぶ大きな通りには、雑貨屋や武器屋など人族でも馴染みある店から、何を取り扱っているのか全然分からない店などが並んでいる。
お上りさんのように、周りをキョロキョロと見ながら歩いていると中央の広場に着いた。
広場を見渡すと大きな建物を見つけることができた。あれが宿屋で間違いないだろう。俺はさっそく宿に入ることにした。村に1軒だけの宿屋ということで多くの魔族がいたが、ほとんどが魔人のようだ。1階は食堂となっており、お酒も飲めるようだ。ここも人族と同じだ。
手続きを済ませるために受付を探す。建物の中をぐるりと見渡すと、すぐに見つかった。窓口の前には2人の魔人の女性が立っていた。2人とも、とても若く見える。さっそく手続きを済ませようと一人に声をかける。
「すまないが、1泊したい。部屋は空いているか?」
「はい、空いてますよ。相部屋と1人部屋のどちらが良いですか?」
「どちらでも良いが、まずは宿代を教えてくれ」
「相部屋は4人共有で6ララです。一人部屋は15ララですね。どちらも前払いでお願いします」
「わかった、1人部屋で頼む。あと食事はどうするば良い?」
「食事は別料金です。1階の食堂で食べれますよ。部屋への食事の持ち込みはできませんので、気を付けてくださいね」
「こちらも了解した。では手続きを頼む」
手続きを済ませると、番号が焼印された木札を渡された。木札には複数の切れ目があった。全ての木札で切れ目の数や位置が異なり、扉にある挿し口に差し込むと開くということだった。俺は魔族独自の技術に感動した。
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