013 サイド:聖女ティア
私は笑いながら拳を突き合わせる2人を見て、ちょっとだけ嫉妬した。だって、アルスはいつもサイガとばっかりいる。男同士の友情も大事だと思うし、私だって大好物だ。びーえる? その手の漫画をこっそり持ってたりする。
けど、好きな相手を独占したいと思うのは、おかしいことかしら? ………アルスの恋人でもない私が独占したいとは思わない。けど、もう少し構ってほしいと思う。白に近い銀髪を短く切り揃えた碧眼の美青年を見ていると、つい、そう思ってしまう。
「ん? 何、こっちをじろじろと見てるんだ、ティア?」
「………別に(アンタじゃないわよ)。相変わらず仲がいいなと思っていただけよ。アルス、みんな準備できたみたいよ」
「ありがとう、ティア。サイガ、そろそろ出発しようか?」
「わかった、『レッツゴー』だな」
サイガがまた訳の分からない言葉を言って、大量の荷物を括った背負子の方へ歩いていった。アイツの加護って本当に微妙だと思う。全てを知っているわけではないし、質問しないと答えてもくれない。知識の内容も過去の人から得たもので俗世的なものが多い。ほぼ、今回の旅でも役に立っていない。ある時、アイツに質問したことがある。
「あなたは『知識の神の加護』のこと、どう思ってるの? 頭を使うのが苦手なあなたに必要?」
「何気にひどいことを言うな。まぁ、いいけど、事実だしな。加護は必要だろ? 別世界の修行方法や面白い言葉なんか色々と教えてくれるぜ。あとお薦めの漫画とかな」
「けど、今回の討伐でも大して役にたってないじゃない。魔族に関する知識もあまり持ってないようだし。別の加護が良かったとか思わないの?」
「うーん、思わん! 役に立つ、立たないは、正直、どうでもいい。俺は今の『加護』が好きだ。それだけで十分だろ?」
仲間たちの先頭をアルスとサイガが歩いている。何を話しているか分からないが、アルスは笑っている。物凄い量の荷物を軽々と背負い、軽快に歩いているサイガ。彼の特等席を独占するアイツ。私がアイツの背中に『爆ぜろ』と別世界の呪文を投げかけると、躓きそうになる。ニヤリと笑うと、アルスが慌ててアイツを支えるのを見て、更に嫉妬してしまう。
正直、サイガが悪いわけじゃない。いいヤツだと思う。繊細な彼には単細胞なアイツの単純明快な考えが新鮮に感じるのだろうか……悶々と色々と考えているうちに野営地に着いた。
アルスが補給部隊の隊員にてきぱきと指示を出してテントを組み立てている。サイガは馬車から降ろされる食料や医療品など補給物資を黙々と受け取って運んでいく。他のみんなも各々に割り当てられた仕事をこなしている。
私も割り当てられた仕事をするため加護を使う。私を中心にした情景が頭の中に浮かぶ。その情景が凄い速さで変わっていく……太陽が昇り夕日に変わる……星は輝き月は隠れる……雨が降り注ぎ日が差し込む。私は【天気の神の加護】で野営地一帯の天気を知る。これからの天気を伝えるためにアルスのところに向かった。
「アルス、今日、明日は天気が良いみたいよ。3日後から雨が降りだし始めるわ。討伐を決行するなら、3日目以降がいいでしょうね」
「ありがとう、ティア。了解だ。みんなにも話して作戦を考えよう。まずはサイガに相談してみるよ」
アルスが私に感謝を言うと、また、嬉しそうにアイツの名前を出した。
「…………」
「うん、どうしたんだい? ティア」
「いいえ、何でもないの。ただ、どうして、いつもサイガばかり頼るのかなと思って」
「え〜と、サイガは同じ国の出身で平民同士で話しやすいし、冒険者からの叩き上げだから経験も豊富。なにより『知識の神の加護』持ちじゃないか」
彼は早口で言い訳めいたことを言う。彼自身も分かっている。サイガが同郷でなく身分に差があろうが、未経験の新米で加護持ちではなくても……アイツとの関係はかわらない。
「じゃあ、ティア。本当にありがとう。いつも助けてくれて!」
私の不機嫌な視線に気づいた彼は、お礼を言うと逃げるようにサイガの方に歩いていった。私は黙々と荷下ろしをしているサイガと笑顔で声をかけるアルスを見つめた。
「別に逃げなくてもいいじゃない……アルスのバカ。………やっぱり、サイガ、爆ぜろ!」
私は両手をアイツに向けて怨嗟の呪文を唱えた。
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