010 反省と探索

「……………。なんてこった、やっちまった」


自然破壊よろしく。辺り一帯は林だった面影はなく、隕石が衝突したかのように自分を中心に沢山の木々がなぎ倒されている。周りをよく見ると、物陰に隠れてサルやウサギ、シカ(の魔獣)が恐怖の眼差しで、こちらの様子を伺っていた。


そちらに視線を向けると、一目散に逃げていく。


……………………

………………

………


「ソギャン、ニゲンデモヨカタイ」


魔族に恐れられる魔族……あまりのショックに別世界の言葉が出てしまった。【知識の神の加護】に教えてもらった別世界の古い言葉だ。『キュウシュウベーン』って言うらしい。確か天下の大将軍・バテーンアラカワが一騎当千の活躍で敵の大将を討ち取った時に放った言葉だったような……全然違うような……。


軽く現実逃避をしてみたが、もちろん、事態が良くなることはなかった。


ここに住む魔族たちに対する罪悪感が半端ない。周りを見渡しても既にみんな逃げてしまったようで、辺りは静まり返っている…。


(ソギャン、ニゲンデモヨカタイ(泣))


静寂が重く圧し掛かってくるような、孤独で押し潰されるような、嫌な雰囲気だ。この森、こんなに静かだったっけ?


反省の意味を込めて、しばらく正座して、この自然破壊について考えてみる。まずは、謝罪が必要だと思う、だが、誰に? この森に言葉が通じる相手がいるだろうか? もし、いるのなら謝罪して許してもらいたい。


ただ、これだけ暴れても魔獣、魔蟲はもちろん魔物すら近寄ってこない。なら、こちらから探すしかないか。目的が決まれば即行動だ。


さっそく、行動を開始しようと立ち上がったとき、俺は重大なことに気づいてしまった。気づいてしまったのだ!


「俺って、フルチンじゃん!!!」 


森の中に響く「フルチンジャン」。別世界の調味料にあったような……なかったような……。はい、すいません、ありません。ここでも別世界の言葉が役に立った。『フルチン』……今の俺を表すぴったりの言葉だ。別の言葉『スッポンポーン』でも良かったとは思うが……。


謝罪する相手が見つかったとして、今の俺の姿では不味いだろう。服を着ていない魔人なんて記憶にない。とりあえず腰回りだけでも隠した方が良いだろう。相手が女性(魔人)だったら、大変失礼だ。謝罪どころではなくなる。


周りを見渡し適当なものはないかと探すが、倒木以外にないようだ。倒木の葉っぱを集めて腰巻を作ろうかと思ったが諦めた。そんなに器用ではないと自覚している。他に何かないかと歩き回っていると、良いアイデアを思いついた。


まず、自分の胴回りと同じぐらいの太さの幹を探すと、すぐに見つかった。倒れた幹を立たせるために、両手で抱え地面に突き刺した。まっすぐ立った幹の前に立ち構えをとる……手刀一閃。手刀は抵抗することなく幹に吸い込まれる……返す刀で更に手刀を打ち込んだ。


直立に立ったままの幹を軽く押すと、地面に吸い込まれるように倒れた。3つに切り離された幹が地面に転がる。綺麗な円筒になった部分を取り上げ、樹皮の部分が破れないように丁寧に剥いだ。


腰からひざ下の長さの樹皮を腰に巻き、その上から樹皮が落ちないように蔦で結んだ。人間だったときに着ていた道着を思い出す……とりあえず、準備は整った。


森の主なるものが存在するかどうか、俺は探索を開始した。

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