083 アサリリ対カミニシ

相変わらずクズノセは良く分からない奴だ。俺が鍬刀くわがたなを殺して戻ると、いきなり「領地に帰るから後はよろしく」と言って、シノジを連れて野営地から出て行ってしまった。


まぁ、アイツは人族領への侵攻にも積極的では無かったし、ジュウカン領に執着がないのも仕方がないか……要は俺が勝ち残れば問題ない。それにジュウカンには、既に人族に怨みを持つ魔族を呼び集まってきている。俺は、とりあえず目の前にいるダチョウの魔鳥アサリリを殺して決勝に進むことにしよう。


「アサリリ様、カミニシ様、準備はよろしいでしょうか?」


俺とアサリリに挟まれるように立つカイが戦いを始めてよいか確認する。


「問題ない、始めてくれ」


俺は言葉で伝え、アサリリは意思を送ってカイに答えた。俺たちを交互に見たカイは頷き戦いの開始を宣言する。


「それでは、準決勝第2戦、開始します!」


開始と同時にアサリリが、俺の頭を目掛けて鋭く嘴で突いてきた。俺は余裕を持って躱し、細剣を抜きアサリリの首に斬りかかると、横薙ぎに放たれた斬撃をアサリリは頭を後ろに大きく反らして躱す。


互いに初撃を躱され一旦、仕切り直すため距離を取る。さすがは準決勝まで残っただけはあり、かなりの曲者だ……離れながらも虎視眈々と次の攻撃する機会を狙っている。


俺は次の一手もアサリリに譲るため、悠然と構えて様子を見る。アサリリも俺の余裕ある態度に警戒心を強くして、円を描くようにゆっくりと俺の周りを歩く。俺はなかなか攻撃をしてこないアサリリに若干焦れてきた時、意思が伝わってきた。


<呪術:一角尖金 (イッカクセンキン)>


呪術が発動すると、アサリリの目の前に巨大な金属で出来た錐が現れる。良く見ると螺旋状の刃が付いており、削岩する工具のような形をしている。呪術で現れた巨大な錐は、俺に狙いを定めるとゆっくりと回転し始めた。



カミニシとアサリリの戦いは、互いの実力を確かめるような攻撃から始まった。鋭い刺突を放ったアサリリに対して、空気を切り裂くような斬撃を繰り出したカミニシ。正直、どちらの技量も素晴らしく、俺には優劣を決めることが出来なかった。


『凄いわね、2人とも。サイガはどっちが上だと思う?』

「気が早いな、リン。まだ、一撃だけだ。分かるわけないだろ」


カミニシたちから視線を外さず、リンと話しているとアサリリが呪術を発動した。第3戦で見せた呪術で、これで相手を倒したとリンから説明を受ける。


アサリリの前に螺旋状の刃が付いた巨大な錐が現れ回転し始める……確か別世界で『ドリル』と呼ばれる工具に似ている。魔法が発達した人族では見ない道具だ。


カミニシが油断なく構え様子を見ていると、猛然とアサリリが突っ込む。前方に巨大な錐が迫り、カミニシが大きく横に飛んで避けると、アサリリも避けられることは想定済みだったらしく、そのまま走り抜け反転して、再びカミニシに突っ込んでいく。


アサリリが何度も突撃をするが、カミニシを捉えることが出来ない。だが、それでもアサリリは諦めずにしつこく突撃を繰り返す。そして、かなりの時間が経った今も、巨大な錐は消えることなく回転し続けている。


『アサリリって、凄い魔素を保有しているのね。まだ、呪術を発動し続けるなんて。まぁ、遠くに飛ばす訳でもなく、前面に発現させているだけだから、実はそんなに魔素を消費しない呪術って可能性もあるけど』


確かにあれだけの巨大な『ドリル』を発現させ回転し続けるには、相当の魔素が必要な気がする。だが、いくら強力な呪術でも当たらなければ意味はないが……。


リンの言葉を聞きながらも戦いを注視していると、カミニシも呪術を発動するのが分かった。魔素感知に集中して呪術の事象を確認すると、カミニシの細剣の周りに魔素が渦巻き、鋭い斬撃となってアサリリを襲った。


カミニシの呪術に気付いていないのか、迫りくる斬撃を無視して突っ込むアサリリ。高速で飛ぶ斬撃と巨大な錐がぶつかると、大きな衝撃音が会場に鳴り響いた。



しつこく攻撃し続けるアサリリを少し面倒に感じた俺は、呪術を発動する。


「呪術:瞬風帯刀 (シュンプウタイトウ)」


俺が呪いの言葉を呟くと細剣の周りに風が巻き起こり、そのままアサリリを目掛けて斬りつける。高速で飛ぶ風刃とアサリリの巨大な錐がぶつかると、ガキンと大きな衝撃音がして風刃は巨大な錐に弾かれ砕け散った。


予想外に強力な呪術に驚き、一瞬固まってしまうと、その隙を突いてアサリリが、猛然と突っ込んでくる。俺は身体を大きく捻り躱そうとするが、強大な錐が脇腹をかすめ少し肉を持っていかれた。


俺は次の突撃が来る前に態勢を立て直し距離を取ると同時に呪術を発動する。


「呪術:駿封逮踏 (シュンプウタイトウ)」


俺が呪術を発動したことに気付いたかどうか分からないが、アサリリは再び突っ込んでくるのが分かり、俺は今までと違い最小限の動きで避けるため、ギリギリまでアサリリを引き付ける。


目の前に迫る巨大な錐はなかなかに迫力があり、俺でも少し恐怖を感じる。だが、厄介な呪術を破るためには仕方がない……愚痴りたくなる気持ちを抑えて覚悟を決める。


俺は顔面すれすれを通り過ぎる巨大な錐に冷や汗を流しながら、上体を反らして視線を落とし、アサリリの足を踏みつける。物凄い速さで突っ込んできたアサリリがまるで時間が停止したかのように慣性を無視してピタリと止まり、一切動かなくなる。


俺の第2段階の呪術:駿封逮踏シュンプウタイトウは相手の一部を踏みつけることで動きを封じ、その場に捕らえる。踏まれている間は一切の動くことはできず、その状態のまま捕らえ続ける。


いまだに呪術を発動し続けるアサリリに感心するが、回転が止まった巨大な錐に何の意味があるか分からないし、興味もない。俺は冷めた目でアサリリを見ると、呪術を発動する。


「呪術:瞬風帯刀 (シュンプウタイトウ)」


俺は細剣を振り下ろし風刃を放つと、アサリリの首を斬り飛ばした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る