呪術と魔法は脳筋に ～魔族から人間に戻りたいのに、なかなか戻れません～

005 呪術と遭遇

「呪術とはなんだ？」

俺が人族から魔族に生まれ変わった原因を探るためには避けては通れない言葉……「呪術」とは一体なんなのか。そして、俺は人間に戻れるのか。

《呪術とは魔族が魔素を使用することで発動させる超常現象です。自然・物理法則を無視した非科学的な事象を起こす方術です》

魔素を使い超常現象を起こすとは、魔法とは違い、かなりぶっ飛んだモノのようだ……確かに俺にかかっている呪術「二進外法」も、短い時間で肉体を再構築（進化）するという、とんでもないものだった。

一部とはいえ、こんな異常な力を使う魔族がいることに身震いする。俺に呪術をかけた魔族も相当な力をもった魔族だったのだろう……なんで、こんな呪術をかけたかは、分からないが。

もう、さすがに情報過多で脳みそがパンクしそうだ。ただ、最後にこれだけは確認しないといけない。

「魔族は魔素に干渉できないと言ったはずだ。なぜ、魔素を使って呪術を使うことができる？」

《魔族は体外にある魔素に干渉することはできません。魔族は体内に魔素を取り込み、操作・変換することができます。呪術は体内に取り込んだ魔素を操作・変換することで使用します》

……そういうことだったのか。俺にかかっている呪術「二進外法」が、あの時、なぜ急に発動したのか、ようやく分かった。たまたまリンゴの中にいた魔蟲を食べたことで、呪術を発動するために必要な魔素を体内に吸収したからだ。

……………。

…………。

あっぶねー！　思わず吐いちゃうところだったよ！　俺のポジティブなシンキングに感謝だな。

吐いてたら、きっと、芋虫のまま魔物や魔族に捕食されていたかもしれないし、生き残れたとしても、徐々に魔蟲の生活に慣れてきて、一生、魔蟲のままだったかもしれない……いやー、よかった。OK、OK、結果オーライだ。

もうこれ以上考えるのは本当に無理だ。情報を整理するためにも一旦、眠ることにする。人間だった頃から、頭脳労働は苦手だった。

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かなり眠っていたのだろう、昇り始めていた太陽もかなり低くなっていた。起きる度に思うが、ここの魔族や魔物たちはなぜ襲ってこないのだろうか。まぁ、こちらとしてはゆっくり眠れたのでいいのだが、これからも襲ってこない保証はない。今はとりあえず大きな問題ではないと置いておく。

【知識の神の加護】から教えてほしいことは、だいたい聞いたので今後の方針を考えないといけない。第一目標はとにかく生き抜くこと、これは変わらない。死んだら人間に戻ることもできない。

第二目標も決まっている、強くなること！　とにかく強くなること！　もう一度言う、できる限り強くなること！　以上！　だって、弱いと生き残れないじゃん、俺に呪術をかけた魔族にだって会えないし。会っても呪術を解いてくれるか、解けても人間に戻れるか分からないけどね。

あとは、俺の格闘家としての血が騒ぐわけですよ。拳が語りかけてくるわけです、最強を目指せ！とね。実際、右手には口がついてるけどね（笑）

では、どのように強くなるかを考えないといけないが、すでに方法は思いついている。眠って頭がすっきりしたのか、情報が整理されたのか、起きてすぐに閃いた。閃いてしまったのだ！

そう、相手の呪術を利用するのだ！　呪術「二進外法」は、魔素を取り込むことで進化すると言っていた。進化とは強化ということになるのではないだろうか！　今よりも強い身体に進化（変化）していけば、きっと生き残れるはずだ！

進化しすぎて、人間からかけ離れたバケモノになってしまい、人間に戻れなくなってしまう可能性もあるが、ヤバいと思ったらそこで止めれば良いのだ！　きっと！　多分！　大丈夫！　考えるな！　感じるんだ！

早速、行動開始だ。まずは、昨日のリンゴの林へ、魔蟲の採取に向かった。

二足歩行に感動しながら進んでいくと、茂みの中から小さな人影が飛び出してきた。一瞬、昨日見たサルの魔獣かと思い身構える。距離をとり警戒しながら人影を見ると既知感を覚える……ゴブリンだ！

人間だったときも良く狩っていた魔物だ。基本的に集団で行動する魔物で、単独で襲ってくることは滅多になかったはずだ。容姿が少し記憶とは違うような……頭頂部に少し髪が生えて額に角のようなものが生えている。目も黄土色ではなく赤色だ。大きく発達した犬歯は鋭く牙といってよい。だが、耳が長く鷲鼻の醜悪な容貌に緑色の肌はゴブリンで間違いないはずだ。

どんな理由で単独で居るのかは分からないが、こちらとしては都合が良い。今の自分がどれほど戦えるのか確認するにちょうど良い相手だ。集団で襲われていたら実力が分からない今の状況では逃げの一択しかなかった。

他に仲間がいないか慎重に周りを警戒しながら、三本しかない指を握り込み拳を作る。ゴブリンもいつでも襲えるように錆びた剣の切っ先をこちらに向ける。素手と剣、こちらがリーチが短く、不利な状況と分かっているのか、ゴブリンは顔を歪ませ笑う。

一瞬、怒りで頭が熱くなるのを抑える。気持ちを落ち着かせるため大きく息を吐いた。最初の一撃が分水嶺だ。この一撃でそれなりの損傷を与えられなかったら、勝つことはほぼ不可能、俺の死が確定する。既に覚悟が出来ている……息を吐き終わると同時に一気にゴブリンに向かって走り出す。

想像を超える速さで近づいてくる俺に驚きの表情を見せるが、反射的に剣を振り上げ、こちらの攻撃に合わせてきた。ゴブリンとは思えない鋭い斬撃だ。

しまった！　やられる！

カウンターを狙った剣が近づいてくる。だが、勢いに乗った拳と加速する突進はどちらとも止められそうにない……ならば、進むだけだ。俺は更に加速して拳を強く握り、大きく踏み込んで渾身の正拳突きを放つ！

ボゴンッ！

目の前をゴブリンの錆びた剣が通り過ぎていく……と同時に俺の拳がゴブリンの胸に深々と突き刺さった。ゴブリンは口から青色の血をまき散らしながら吹っ飛び、地面を転がりながら樹木に衝突した。

白目をむき口から血を流しピクリとも動かなくなったゴブリンを見る。既にこときれたようだ。念のため、横たわるゴブリンに警戒しながら近づき脈をとる……本当に死んでいるようだ。

何とか倒すことができた……。ゴブリンを相手に何とか勝利できた。頭の中に色んな感情や思いが湧いてくるが、とりあえず、安全を確保するため、その場を離れた。