015 サイド:占星術士マヤ(上)
サイガの後ろを苦笑しながらフォルが歩いている。2人とも背が高く赤と黒の髪は珍しいので嫌でも目に留まる。金髪や茶髪が多い人族の中で特に黒髪は珍しく、サイガと同じ黒髪である私も好奇な目で見られることはしばしばあった。
2人の背中を見ながら、そんなことを考える。そういえば、2人はどこに向かっているのだろうか? すごく気になります。
補給部隊の隊長に今後の行動についてアドバイスをしていた私の視界にサイガの姿が入ってきて、一瞬、何を指示しようとしたのか内容が飛びそうになる。誰にもばれないように極めて冷静を装い指示を続ける。
「このまま補給線を維持するのは危険な気がします。北のルートから東回りのルートに変更できないか検討してください。補給基地は現在地のままで問題ありません。では、引き続きよろしくお願いします」
私は早口にならないよう、ゆっくりとした口調で指示を出して打ち合わせを終了させた。皆が席を離れて誰もいなくなったことを確認する。ゆっくりと立ち上がりテントの外に出る。
サイガとフォンが近くにいないか周りを見渡すが、既にここから離れてしまったようだ。いなくなったのは仕方がないが、少し残念な気もする……特に用事があったわけではない。少し話したかっただけだ。
そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「マヤ、補給部隊との打ち合わせは終わったのかな?」
「アルスですか……。はい、ついさっき終了しました」
「そうか、いつもアドバイスありがとう。こうして安心して補給が受けられるのもマヤのおかげだよ」
「アルス、いつも言っていますが、感謝は不要ですよ。自らの役割を全うしているだけです」
アルスの気持ちは有難いが、私は当たり前の事をしているだけで感謝される必要はない。無用な気遣いで隊長である彼に負担をかけたくない。
「マヤ、そんな言い方しないの。アルスは繊細なのよ。どこかの単細胞とは違うの」
「ティア、私、傷つけるような言い方しましたか?」
「まぁ、まぁ、僕はなんとも思ってないし、傷ついてもいない。ティアもマヤをからかわない」
「は~い、ごめんね、マヤ」
私は黙ってうなずく。
どうしていつも上手に話せないのか、悩んでしまう。ゆっくり丁寧に話している。何がいけないのか、わからない。と、悩んでいたときもあったけど、もう、諦めました。だって、分からないことは分からないんだもん。仕方ないです。
仲良く話している2人(特にティア)に悪いので、邪魔者はいなくなるとする。
「少し疲れました……申し訳ありませんが、テントに戻ります」
「そうだね、引き止めてごめん。ゆっくり休んでほしい」
「マヤ、疲れが抜けないようなら、ちゃんと言ってね。魔法で治すから」
「……ありがとうございます、それでは失礼します」
私はゆっくりと頭を下げ、その場を後にする。割り当てられたテントに向うふりをして、サイガを見つけるために歩き始める。歩きながら周りを見渡す。ふと、嬉しそうに話すティアの顔を思い出す……アルスとうまくいってほしいと思う。けど、先に付き合ってほしくないと思う。
しばらく歩いていると、サイガとフォルが向かい合い何か話しているのを見つけた。フォルは槍を構えながら、サイガのアドバイスを聞いている。
「なるほど、柄も意識して戦うことは大事だな」
「そうだな、どうしても突きが多くなるから避けやすく読みやすい。柄で払うことを意識されると俺は嫌だな」
「お二人とも勉強熱心ですね。頭脳労働は苦手ですのに」
難しい顔で真剣に話す2人が心配で声をかけたが、フォルが少し嫌そうな顔をした。なぜでしょう?
「げっ! マヤ、見てたのかよ!」
「フォル、私が見ていたらダメなことでもあるのですか? もしやお二人は付き合っているとか?」
「そんなわけないだろ! サイガ、悪い。あとは任せた!」
フォルが慌てて槍を背負い、この場から逃げていった。逃げ出すフォルをぼうと眺めているサイガ、この場所には私と彼の2人だけとなった。
私も逃げるフォルを一緒に眺める………昔、フォルを見た彼が『ヤンキー』と呟いたことを思い出した。
フォルの無様な姿を眺めていると彼が振り向き話しかけてきた。
「マヤ、仕事の方は大丈夫か? 兵站は一番重要だからな」
「大丈夫です。大量に食料を消費する人もいるので抜かりはありません」
「うん。本当に助かる。毎日、美味しいメシが食べられる。マヤに感謝だ」
「………。美味しい食事は糧食班のおかげです。私に感謝は不要です」
「そうか、でも俺が感謝したいと思ったんだ、それは俺の勝手だろ? ありがとうな、マヤ」
彼は思いっきりの笑顔で私に感謝を伝えてきた。
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好き、大好き!
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