第18話:いざ救出へ

 メアリへ弟の生存が限りなくゼロに近いと伝えたアーロンは、鎧に教会で使われる聖なる蠟燭を、サツキに手伝ってもらいながら教会内で塗っていた。


 これを鎧に塗るだけで、結界の様に作用するからだ。

 それだけで実体の無い幽霊系の魔物。それらとの戦いやすさが全く違ってくる。


 奴等は魔法や銀の武器、または教会で祈りを貰った武器や、アーロンのクロスライフの様な十字架のある武器じゃないと捉えられない。

 

 そんな幽霊系――その上位種も大量にいる巨大な地下洞窟。


 嘗て、不気味な魔導士の集団が、その場所で闇の儀式に失敗してダンジョン化した場所こそが『死霊の夢』だった。


 当初、そこが誕生してから間もなくは、墓荒らしの様に冒険者達が入って行ったが、そこに亡霊達に多くが殺された。


 アーロンも覚えている限り、師匠と共にそこに救出した人数は百を優に超えていた。

 死者や行方不明者等の、間に合わなかった者を含めれば三百も超える。


 更に亡霊達や、穢れたマナの影響で精神にも異常を来す事もあって、彼の師匠の<レイヴン・ジャックロー>が進入禁忌に指定したのだ。


――進入禁忌指定。それは文字通り、進入を禁忌とする場所を示す。


 それは救出屋ですら救出を拒否できる程の場所で、一度入れば自己責任しかない。

 

 アーロンですら引き継いでからは、入口の確認の為にしか行ってない程のダンジョンだ。

 そこに彼は数年ぶりに挑もうとしていたのだ。


「……サツキ。分かっていると思うが」


「はい。今回も町で待機します」


「……すまんな」


 迷いなく、力強くそう言って頷くサツキへアーロンは謝った。

 彼女を弟子にしてから、実践での救出へ連れて行ってない事に、彼は罪悪感があった。


 だがどうしても連れていけないのだ。

 それだけ危険で、彼女が命を落とす可能性のあるダンジョンばかりだからだ。


「救出に関しては師匠に従います。――ですが、あれは良いんですか?」


 どこか納得しているサツキ。

 そんな彼女が複雑な表情で見ている場所には、教会の机で突っ伏したまま動かないメアリの姿があった。


 流石に気の毒に見える彼女に、神父様やシスターが相手をしてくれていた。

 だが、アーロンはすぐに視線を逸らした。


「……あぁ、俺達にはどうしようもできまい」


 万に一つもない、その奇跡を祈れ。

――現実が見えているアーロンには、言えたとしてもこれしかない。 


 だが1歳ならば悪しき事が出来るとは思えない。

 きっと女神ライフの加護があり、肉体は無事の筈だとアーロンは確信しており、一通り蝋を塗り終えると立ち上がった。


「もう良いんですか?」


「あぁ、留守を頼むぞサツキ。――あと奴に伝えとけ。報酬は帰ってから決めると」


「はい!」


 アーロンはサツキへそう言うと、神父様とも目を合わせて互いに頷き合う。

 後は頼むと、神父様にもアイコンタクトで伝えたアーロンは、目の前にゲートを開いた。

 

 そして『死霊の夢』の入口へと繋ぎ、その中へと入ってくのだった。


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