第37話:棺の英雄 王都・ワーンエンデへ

 アーロン達は数日間歩き続け、王都・ワーンエンデへ辿り着いた。


 既に他国の王達も来ている。

 だからか、ワーンエンデでは祭りの様に、民達が各国の王達を出迎えていた。


「おぉ! 今度は西の王だぞ!」


「ロギアン王!!」


 民達は道を開けながらも、大きな歓声でアーロン達を出迎える。

 そんな光景にサツキは気圧されてしまった。


「うわぁ……なんか凄いです」


 まるで凱旋だと、サツキはアーロンの隅に隠れたが緊張してしまう。

 

 それを見てアーロンとロウは笑いながら、騎士達と共に平然と歩いていた。


「気にするな。いつもの事だ」


「そうそう。無駄に派手なのが中央だぜ、サツキ」


「そ、それでも……これは……」


 周囲からの歓声が止むことがない。

 サツキはその凄さに驚いていたが、アーロンとロウは何度も経験して慣れていた。


 これでロギアン王の護衛は何度目だったか、それすら忘れている程に。


「まっ、無駄に騒がしいのは同感だ。けどサツキ……よぉ~く聞いてみろ? 何か聞こえないか?」


「えっ? なんですか……?」


 楽しそうに笑うロウの言葉に、サツキも歓声に耳を傾けた。

 そしてよ~く聞いてみると、ある言葉が聞こえてきた。


様!!」


「えいゆ~う!!」


「お前等、よく見とけ。あれが棺の英雄……救出屋の伝説だ」


「すげぇ、本当に棺を担いでるのか……!」


 歓声の中に混じる言葉。

 それにサツキは気付き、ロウの顔を見ると彼も笑っていた。


 そして師匠であるアーロンを見ながら、ニヤニヤと笑うのだった。


「大人気ですね、師匠」


「うるさい」


「師匠、凄い人気ですね。そんなに師匠の名声が響いてるなんて……」


 サツキは驚いた。

 救出屋といえども、中には冒険者と一括りする者もいる。


 そんな中でアーロンと言えど、ここまで歓声を浴びるなんてと。

 しかも声を掛けている者は同業者――救出屋や市民が多い。


――そして特に子供達からの声が大きかった。


「子供の声が多いですね」


「……そうらしいな」


 サツキの言葉にアーロンはぶっきらぼうに答えた。

 分かっているからだ。何故、子供人気があるのかが。


「良く見てみろサツキ。子供らの手にある物を」


「えっ……あれって?」


 ロウの言葉を聞いてサツキは気付いた。

 こちらに手を振る子供達、親子連れの手にある絵本の存在に。


「そう。うちの師匠は絵本になってんだよ。棺の英雄ってね」


「うるさい」


 先程からアーロンは同じ言葉しか言わなかった。

 照れてるのだ。勝手に絵本になっているわ、歌は出来るわで彼も恥ずかしさがあった。


「ひつぎを担いでやってくるぅ~棺の英雄やってくるぅ~」


「クククッ……歌われてますよ、師匠」


 子供たちが歌を歌い始めると、ロウは腹と口を抱えて笑いを堪えた。


「減給」


「あっ、ひでぇ!?」


 アーロンからの言葉にロウは叫ぶ。

 そんな二人を見てサツキは笑っていたが、同時に疑問があった。


「ですけど、だれが絵本なんて描いてるんですか? 師匠じゃないですもんね」


「当たり前だ」


「確か……女神ライフを祀る蒼月教会そうげつきょうかいの聖女様が描いてる筈だ。聖女様が描いてのもあって、しかも内容も面白いときて子供達に大人気だ」


「……迷惑な話だ」


 アーロンはぶっきらぼうにそう言い続ける。

 やっぱり恥ずかしく、照れくさいからだ。


「まぁまぁ、良いじゃないかアーロン。手でも振ってあげれば良いじゃないか?」


 話を聞いていたロギアンがそう言った。

 だがアーロンは首を横へ振る。


「俺は絵本の勇者じゃない……」


「やれやれ、頑固だな君も」


 ロギアンはそう言っておかしそうに笑った。

 アーロンらしいと。そして手を振るアーロンが少し見たかったなと思って。


 そんな風な会話を楽しみながら、アーロン達は中央の城へと入って行く。

 

 だが彼等は聞いていなかったが、皆が彼等を歓迎している訳ではなかった。

 

 貴族街から離れて見ていた貴族たち。

 彼等は西の王――否、東西南北の王達を見下していた。

 

「フンッ! 西の王め……食料を多く作っているからと良い気になりおって」


「護衛が冒険者崩れとは、王として恥ではないか」


「まぁ、所詮は仮初の王達です。我々、中央貴族とは違うのですよ」


「陛下も、いつまで<五王制>を続けるつもりなのか」


「中央が全てを決めているのだ。必要ないだろうに」


 中央の膿。腐敗の象徴――中央貴族達。

 彼等は見下しながらアーロン達が城に入るの見続けるのだった。


♦♦♦♦


 ワーンエンデ城に入ったアーロン達。

 彼等の次の仕事は――待つ事だった。


 今、ロギアンを含めた東西南北の王。

 そして中央王――<ゼウン・オールワン>の五人の会議が行われているのだ。


 それが終わるのを、他の護衛と共に待つ。

 今のアーロン達の仕事がそれであった。


 その時間はとても静かで、とても長い時間に感じられた。

 そんな時にサツキが不意に口にした。


「中央王って、どんな方なんですか?」


 サツキはアーロン達へそう聞いた。

 

――中央王・ゼウン。


 賢王と呼ぶ者もいる。

 だが近年の<勇者徴兵>を始め、中央貴族の暴走によって評価はあまりに揺れている。


 賢王、腐敗の王。呼び方は色々だ。

 良い意味でも、悪い意味でも。


「……愚者ではない。だが過ちも平然と選択する」


「まぁ……まともな普通、だな。」


 アーロンは思った事をただ口にし、ロウは絞り出した感じで言った。


「まともでもあるんだけどなぁ、いかんせん中央貴族や中央騎士共の行いもあるしなぁ……それからの<勇者徴兵>だ。乱心したって意見もあるわな」


 ロウは何とも言えない表情でそう答えた。

 別にゼウン王が悪い訳でもないが、彼の責任は間違いなくある。


 だからロウはそう言った。

 周囲の意見。それらを合わさった言葉を。


「この会議だって、どれだけ東西南北の王の意見が通るやら」


「どうでも良い内容なら通るだろうが、中央が損する議題なら即却下だろうな」

 

 ロウの言葉にアーロンはそう言った。

 それが当たり前になっているからだ。


 どれだけ東西南北の王が言おうが、中央が損する内容は中央貴族が許さない。

 

 だから何かあれば中央ではなく、東西南北で協力し合うのが普通なのだ。

 そんな事をアーロン達が堂々と言っていた時だった。


 彼等に近付く騎士がいた。


「勝手な事ばかり言う。一応、ここは中央の城なのだぞ?」


「……メアリか」


 それは中央騎士――メアリであった。

 

「あっ、あの時の中央騎士!」


「……へぇ~あんたが例の。以前、うちの師匠が世話になったらしいな」


 メアリの登場にサツキが威嚇する様に睨み、ロウも警戒感を露骨に出した。

 するとメアリは、少し間を開けた後に頭を下げた。


「……その節はすまなかった」


「終わったことだ」


 彼女からの謝罪。

 それを見てサツキは驚き、ロウも懐疑的な顔をする。

 だが、アーロンはそれだけ言って過去の因縁を終わらせた。


「終わったこと……でも私にも思う事がある。弟の件――恩人への礼と謝罪を今一度」


「……終わった事だ。それに中央騎士がここに来る事が普通ではない。――用があるのだろ?」


 アーロンは分かっていた。

 本来、中央騎士は会議の時に王の傍を離れない。


 だがこうして自分達の下に来た理由。

 それは何か要件があるからだと、アーロンは察していた。


 そしてアーロンの言葉通りなのだろう。

 メアリは小さく頷き、静かに言った。


「ゼウン王が貴殿に会いたいとの事だ。棺の英雄よ」


「それが本題か……会議にしては短い筈だ」


 扉の奥から聞こえてくる、席から立つ音や声。

 それを聞けば会議が終わったかは分かる。


 開始1時間も経っていない。

 なのに会議は終わり、そしてメアリは自身の下に来る。

 

 それでアーロンは完全に理解した。

 この会議は適当な理由付け。本当の目的は自身にあるのだと。


「師匠……」


「……大丈夫なんすか?」


 サツキとロウが心配した表情でアーロンを見た。

 

「問題ない。先にロギアンと宿へ戻っていろ。――案内しろ、メアリ」


「う、うむ……付いて来てくれ」 

 

 まさかすんなり来ると思ってなかったから、メアリは少し驚いていた。

 だが付いてくるなら問題ない。


 メアリはそう言ってアーロンを案内し、彼もその後に付いて行くのだった。

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