第36話:いざ中央へ

 ロギアン王からの依頼を受けたアーロンは数日後、弟子達と共にロギアン王の護衛の列にいた。

――と、言っても大した規模の護衛ではない。


大きな馬車三台に、騎士も総勢で10人程度だ。

それにアーロン達が合わさり、護衛は13人でしかない。


「思ったより護衛は少ないんですね?」


「まぁね、ロギアン王の意向もあるけど、我々を襲う物好きな夜盗とかいないからね。いたとしても、ちょっとした魔物ぐらいだけど、彼等も馬車の音にビックリして襲ってこないよ」


「そんな感じなんですね」


 サツキは他の騎士達と歩きながら話し、楽しそうにしている。

 

 サツキは護衛団の紅一点だ。

 サツキは周りの騎士達にチヤホヤされ、アーロンはそれを見て小さく笑うだけだだった。

 

 それと正反対なのはロウだ。

 何もなく、平和そのものに退屈し、ずっと欠伸ばかりしている。

 

 最終的には馬車の後続に寝っ転がって眠り始めていた。


――やれやれ。


 アーロンはやや呆れたが、それ以上は言わなかった。

 それはロウの普段の行動を見ているからだ。


 戻ってきた彼は仕事のない日は周囲の手助けをし、遅くまでサツキに色々と教えているのも知っている。


 何より、北の国から彼宛のお礼の手紙が届く度に、アーロンは良くやっていると褒めてあげたかった。 


 ただ今は褒めない。褒めたら調子に乗るのが分かっているからだ。

 今度、二人で酒を飲んだ時にでも言ってやろうと、兜の中で考えていた時だった。


「どんな感じだアーロン?」


 馬車の窓からロギアン王が顔を出し、彼へと声を掛けてきた。


「問題ない。魔物も、夜盗の気配もない。――だが良いのか? 俺の転移魔法ならすぐに中央へ行けるぞ?」


「それも悪くないが、元気な内はこうして外をゆっくりと見なければな。民達の様子も、環境の変化も疎くなってしまう。西の国王としては、それぐらいで丁度良いんだ」


 そう言ってロギアンは楽しそうに笑った。

 そして風が吹くと、嬉しそうにしている。


 だがやはり彼は不安はあった。

 今回の会議――それは時期的にも違和感があるとロギアンは感じていた。


 毎回の時期などの流れはある。

 ロギアンだって、それを察する事は出来ている。


 しかし今回はまるで、アーロンと話す為だけに開いた様に見えてならない。


「……アーロン、気を付けろ。中央王の事だから傷付けたりはせんだろうが、それでも厄介事か面倒な気がする」


「問題ない。どうせ勇者徴兵の件だろう。俺が断っているからな」


 アーロンにとって中央王からの要請は、今に始まった事じゃなかった。

 勇者徴兵の発令――それを無視して以降、中央から話を聞かせろと何度も来ていた。


 だがが無視していた。

 救出屋の中で、最も加護が強い者達――女神の加護十字グランドクロスを持つ者達全員がだ。


 アーロンを含め、7人の救出屋。

 しかし彼等はそれに応じなかった。


「俺達は勇者ではない」


「あぁ、そうだろうな。皆そうだ。――何かを成し、そして自然と気付けば呼ばれる存在――それが勇者だ。勇者徴兵では、あまりに少ないぞ真の勇者は……」


 皆が勇者エデン達の様ではない。

 既に罪を犯している勇者も多くいる。


 しかし中央も、既に止める事が出来なくなっているのだろう。

 振り上げた腕。それを下ろす事が出来ないのだろう。


「どの道、中央で何かあっても勝手に対処する。あなたは気にするなロギアン王」


「……やれやれ。余計な心配だったな」


 そう言ってロギアンは、安心した様に馬車へと顔を引っ込める。

 

 このペースならば、あと二日ぐらいで着くだろう。

 アーロンはそう思いながら、ゆっくりと周りに合わせながら歩いていく。


 きっとあっという間だ。あっという間に辿り着くだろう。

 

――中央国<王都・ワーンエンデ>へ。


 アーロンは特に不安を抱かず、只々歩き続けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る