第26話:勇者の報い
アーライは突如、姿を現したアビス・イーターの凶刃によって倒れた。
盾で防ぎはしたが、その盾諸共斬られ、彼は倒れる直前にある言葉を発した。
「た、助けて……ガハッ!」
「これは……!」
アーライの助けてという言葉にアーロンは反応する。
その言葉を聞いた瞬間、戦闘に関する動きの制限がない事に気付いたのだ。
「下がっていろ……」
アーロンは震えあがり、ただ立っているだけの女魔法使い・格闘家へそう言った。
二人は頷く事もなく、腰を抜かすだけだったが、アーロンからすれば邪魔が減った程度の認識だ。
『キィィィィィギャアァァァァァ!!』
そしてアビス・イーターの標的はアーロンへと移った。
奇声をあげながら、その鎌をアーロンへと振り落とすが、彼もクロスライフで受けた。
「ふんっ!」
勇者の盾すら切り裂いた鎌を、クロスライフは真っ正面から受け止める。
この程度ではクロスライフに傷もつかない。
アーロンは相手の力や実力を深く知っている。
だから、この様な動きも出来るのだ。
そしてアーロンはクロスライフで鎌を弾き、異次元庫から剣と発光する果実を取り出した。
剣は鍛冶屋で安くかった物だが、果実は『光の実』と呼ばれる、実そのものと果汁が光る珍しい実であった。
アーロンは光の実を握り潰し、果汁を剣へと浴びせた。
すると果汁を浴びた剣は発光し、それを見たアビス・イーターは嫌がる様に後退りする。
「逃がさん!」
アーロンは後退りするアビス・イーターの顔面へ、その剣と投げた。
その剣は真っすぐに飛び、そのままアビス・イーターの顔面に突き刺さる。
『キィィィィィギャアァァ!!』
突き刺さった瞬間、緑色の血液を出しながらアビス・イーターは叫んだ。
しかし痛みよりも、アビス・イーターは光に苦しんでいる様子だった。
「ど、どういう事……あんな剣で苦しんでる?」
「アビス・イーターの弱点は光……だから、こいつの縄張りは中盤から奥までなんだ」
女格闘家の言葉に、アーロンはそう答えると、クロスライフを操作した。
するとクロスライフをの側面に穴が開き、アーロンは半端に絞った光の実を、更に絞って穴へと注いだ。
そして一気に先端から、大型の銀の矢を何本もアビス・イーターへ発射した。
その矢は剣の様に光輝いて、次々とアビス・イーターの身体を貫いた。
『キィィィィィギャアァァァァァ!!』
奇声と共にアビス・イーターは倒れると、そこへアーロンが近付いた。
そして絞りカスとなった果実の実をアビス・イーターはの口へ放り込み、クロスライフから残りの果汁を浴びせる。
『キィィィィィギャアァァァァァ!!』
すると再び奇声をあげると、やがて痙攣しながら体中から緑色の血液を出しながら、やがて絶命した。
「た、倒したの……?」
「ア、アーライ!?」
アーロンがアビス・イーターを倒すと、二人は慌ててアーライの下へ駆け寄った。
「うぁ……ガハッ! は、はやく……助けろ……!」
運が良いのか悪いのか、アーライに息はまだあった。
けれど危険には変わりなく、すぐに完全な治療をしなければ命が危ない。
しかし女魔法使いと格闘家は、薬を使おうとするが、それで治る状態ではなかった。
「ど、どうしよう……こ、これじゃ無理!」
「私じゃな治せない!?」
「や、役立たずがぁ……そ、そうだ……棺の英雄……あんたなら、治療もできる……筈だろぉ……ほら、とっとと……治せ――」
「無理だ。お前は俺にギルドで命令した。――自身の身体に触れるなと」
「あっ――ガハッ! そ、そんなぁ……!」
アーライは絶望した様な顔を浮かべる。
だが、その表情はやがて笑みへと変わった。
「アハハ……アハハハハ! べ、別に良いさぁ……オレは生き返る……そうだ……女神ライフの加護が――」
「――それも無理だ。俺には見える。お前には、既に女神ライフの加護が無い。だから生き返る事は出来ない。因みに、仲間の連中もだ」
「――はっ?」
アーロンの言葉に周囲は静かになった。
そして僅かな間の後、アーライは血を吐きながら叫んだ。
「嘘をつくな!! 俺は勇者だ! そんな訳ねぇだろ!!」
アーライはアーロンが嘘をついたと思った。
散々、色々と言ったからってなんて奴だと、そう思った。
だが女魔法使い達は何かに気付いた。
そして首をゆっくりと振るった。
「アーライ……嘘じゃない。魔法で、この救出屋は嘘がつけない。だから……言っている事は本当……!」
「そ、そんな……なんでだ? オレは……勇者だぁ……なのに……なんでぇ……なんでだぁ!!」
アーライは泣き叫び、洞窟にその声が木霊する。
「そ、そうだ解呪だ! 魔法を解け! それなら――」
アーライは女魔法使いへ叫ぶが、彼女は涙を流しながら首を振った。
「む、むりよ……あの魔法、かけるのは簡単だけど解呪は難しいの。だ、だから……私にはまだ……できない」
「役立たずがぁっ!!――ちくしょう! 良いだろ!! 色々としたって!! オレだって危険な行為させられてるんだぁ!! 少しぐらい良い目にあっても――ガハッ!」
金の無心、女遊び、故郷に戻って嫌いな奴の粛清。
アーライは色々と思い出すが、危険な目に遭っているのだから良いだろうと、叫び続ける。
「嫌だぁ……嫌だ嫌だ嫌だぁ!! 死にたくなぁぁい!! オレは……勇者でぇ……死にたくな……い……何故……だ……女神……」
それを最後にアーライは息を引き取った。
その瞬間、条件の消えたからか、アーロンは身体が軽くなったのを感じた。
しかし、次の瞬間、アーロンは物理的に身体が重くなるのを感じた。
理由は、自身の身体に女魔法使いと格闘家が縋るように、抱き着いていたからだ。
「お、お願いします……!!」
「た、助けてください……!!」
泣きながら縋る二人を見て、アーロンは兜の中で呆れて溜息を吐いた。
――こうもエデン達とは違うとはな。
女勇者エデン。彼女達は勇者として頑張っていたが、この連中は駄目だとアーロン呆れた。
だが見捨てる事も出来ない。
アーライが死んだことで大半の魔法の制約は解けた。
「ならば付いて来い」
アーロンはそう言ってゲートを開いた。
その中へと彼が入っていくと、彼女達も慌てて付いて行く。
♦♦♦♦
ゲートの先に出たのは教会だった。
「おや、アーロン……どうしたのです。彼女達は――むっ?」
神父様は彼が棺を持っていない事に驚いていたが、一目見た瞬間、神父様は気付いた。
そしてゆっくりと歩いてアーロンへ近付くと、そっと手を鎧に触れた。
すると、一瞬だけ優しい光がアーロンを包み込むと、神父様は手を離した。
「これで解呪できました。さぁ、やることがあるのでしょう。彼女達は、私達が保護します」
「お願い致します。棺を二つ程、連れて帰らねば……」
アーロンはそう言って再び、ゲートの中へと戻っていった。
そして戻った所でアーライと戦士の遺体を棺へ詰め、再び教会へと戻ってきた。
――だが彼等はアーロンの言う通り、生き返る事はなかった。
それを見て、女魔法使い達は逃げる様に教会を去ってしまう。
故郷へ帰る、冒険者は止める、そう叫びながら。
――勇者徴兵。愚かな事を。
あんな連中が増えている。
既に最初に集まった半数の勇者が死んでいるか、行方不明の話があるぐらいだ。
「勇者とは……自身で名乗るものではない」
神父様もそう言って哀れんだ目で、アーライの遺体を見ていた。
そしてアーロンも静かに頷くのだった。
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