第五章:棺の英雄と、もう一人の弟子

第27話:兄弟子

 あの後、アーライ達の棺は中央へと送られた。

 それが決まりだからだ。


 故郷ではなく、まずは中央に送られる。

 そして誰が死んだか判明させてから、彼等の故郷に埋葬すると中央国から連絡が来たのだ。


「……勝手にしろ」


 アーロンは棺を回収に来た中央の者達へ、それだけ言って棺を渡した。

 別に命を冒涜していないからだ。


 そして彼等をアーロンは、サツキと神父様と見送りながら静かにサツキへ言った。


「絶対に勇者徴兵には参加するな」


「はい……あれを見た後だと、そんな気は起こりません」


 あれだけ好き勝手やった勇者達の死。

 そしてサツキは、生き残った者達が震え上がりながら、故郷行きの馬車に乗るのも見ていた。


 哀れだったのだ。彼等の生き方が。

 勇者と中央国が認めただけで、それ以外は勇者ではない彼等の生き様が。


 そしてアーロンは、サツキの言葉に安心すると、静かに口を開いた。


「そうか……今日は帰るぞ。明日はダンジョンのアフターケアだ」

 

「はい! 頑張ります!」


 やる気十分なサツキの姿にアーロンは頷くと、神父様へ一礼して彼女と共に拠点へと帰って行くのだった。


♦♦♦♦


 そして翌日。

 アーロンとサツキは、再び救出屋としての日々を送っていた。


 運よく救出の仕事がない日々が続いたので、アーロンはダンジョンのアフターケアについて教えていた。


「そうだ。看板は分かりやすい所に設置するんだ」


「はい!」


 入口やダンジョン内に看板を設置したり。


「箱には最低限の道具を入れておけ。ここの場合は毒を使う魔物がいる。だから毒消し草だ」


「はい!」


 準備した箱に道具を入れ置いて設置する等、アーロンはサツキに色々と教える日々を送った。


 そんなある日、何もない日に彼等は、自身の荷物や拠点の掃除をしていた時の事だった。


 アーロンが手紙を二通書いている事にサツキは気付いた。


「あれ? 師匠、誰かに手紙ですか?」


「ん?……あぁ、俺の弟子にな」


「弟子?」


 彼の言葉にサツキは首を傾げる。 

 弟子は自分なのだが、まるで他にも弟子がいるかの様な言い方だと。


 そんな彼女を見て、アーロンも思い出した。


「そうか……お前に言ってなかったな。お前にはがいる。今は修行として北の国にいるがな。そいつにお前の事や、最近の事を書いて送っているんだ」


「兄弟子ですか!? 確かに聞いてません……けど、どういう人なんですか?」


「素質はある。だが普段から気怠い感じの奴でな……少々癖はあるが悪い奴ではない。お前とも揉めたりせず、ちゃんと救出屋として教えてやるだろう」


「へぇ……」


 サツキはそう言って意外そうにアーロンを見つめる。

 自分の弟子入りの時もそうだったが、兄弟子の特徴を聞く限り、アーロンに普通の弟子はいないようだ。


 サツキはアーロンがどこかズレている所があると思いながら、もう一通の手紙に気付いた。


「そちらは誰にですか?」


「これは……まぁ知り合いだ」


「知り合い?」


 サツキは、どこか濁す様なアーロンの言葉に首を傾げる。

 だが聞くよりも前にアーロンは、その手紙を兄弟子宛と一緒に鳩に渡して出してしまった。


「この話は終わりだ。――今日は仕事ない。掃除しても良し、俺が作ったダンジョンの地図や魔物に関する資料を見るのも良し。好きに動け」


 アーロンはサツキへそう言うと、自身はクロスライフを弄り始めた。

 クロスライフは仕込み盾であり、整備性が悪い。


 これを整備できるのは彼の師匠か、アーロン自身なのだ。

 

 そしてサツキも、どこか違和感のある彼の行動を不思議に思いながらも、地図や魔物図鑑(アーロン作)を持って来て勉強をするのだった。


♦♦♦♦


 アーロンが手紙を出し、少し経った頃。

 北の国の、とある教会に棺を運んでいる金髪の青年がいた。


 そして、その青年の下へ、一羽の鳩が手紙を持ってやって来た。


「ん? おっと、師匠からの手紙だな」


 青年は、片目を隠す前髪を揺らしながら鳩から手紙を受け取ると、棺を引っ張る鎖を掴む力を緩めた。


 そして手紙を読み始めると、どこか気怠そうな雰囲気をしながらも手紙を嬉しそうに読み始める。


「へぇ、例の妹弟子も頑張ってるのか……そりゃ良いことだ」


 最初は突然、新しい弟子を取ったと連絡が来て驚いたものだと青年は思い出す。


 しかし詳しく聞けば、騙されて可哀想だからと書かれていて少し笑った。


 そして青年を読み終えると、遠い西の方を見上げながら呟いた。


「妹弟子か……そろそろ会ってみたいねぇ。師匠にも話す事もあるし、そろそろ良いか」


 アーロンから言われていた北の国で――100人救出の条件は、間もなく達成する。


 青年はそろそろだなと思いながら、後ろにある三つに棺の鎖を再び持ち直した。


「まっ、その前にこの三人を蘇らせないとな……さぁて、もう一仕事だ」


 そう言って彼は再び歩き出し、目の前の教会へと入っていった。


 そんな彼を見守る様に、両腰にある小型のクロスボウ――に刻まれた<蒼い十字架>は、美しく輝くのだった。

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