第29話:棺、弟子達と救出へ


 現在、アーロンの拠点は少し混沌していた。

 サツキは謝りながら、前髪を片目を隠した金髪の青年――ロウ・ウッドレイに纏わりついた塩を払っていて。


 そんなロウも怒った様子はなく、寧ろ笑っており、アーロンも兜の中で面白そうに笑みを浮かべていた。


「ほ、本当にごめんなさい……!」


「アッハッハ……もう良いって。寧ろオレは、てっきり師匠からの指示だと思ったぜ」


「お前は俺を何だと思っているんだ、ロウ?」


 アーロンが咎める様に言うが、ロウは冗談だよと笑うだけだった。

 ただアーロンもそれを分かっている為、本心では怒っていなかった。


「しっかし、いきなり塩を投げられるとはな……逆に言えば、なんかあったのか?」


「えっとですね……変な人達が来たんです」


「変な人?」


「理想主義者だ」


 サツキの言葉に首を傾げるロウに、アーロンはそう言った。

 するとロウも、それで分かったのか納得した様に頷いた。


「あぁ、そう言う事か……もしかして、若い連中でしょ? 青いコートの奴がリーダーの」


「知ってるんですか?」


 サツキからの言葉にロウは頭を振りながら頷いた。


「あぁ、少し有名な連中だよ。中央の貴族出身のボンボン様だ」


「……成程な」


 それを聞いただけでアーロンは、さっき来た彼がどういう人間かをすぐに理解した。

 

 そしてロウも察したのか、アーロンの方を向いて頷いた。


「師匠の思った通りですよ。ちゃんと救出屋に弟子入りしたのかも怪しいが、今じゃ若い連中集めて東西南北の国で活動してる」


「それらも無償でやっているのでしょうか? 師匠に報酬を貰うなって、わざわざ言いに来たんです」


「そんな事を言いに来たのか……全く、思想を押し付けんなっつうの」


 ロウは呆れた様にそう言うと、立ち上がり、飛び跳ねながら塩を払いにラストスパートをかけた。


 それを見てサツキは気まずそうにしていたが、アーロンは別の事が気になった。


「仕事は出来るのか?」


 それはムザン達の仕事の質についてだった。

 ハッキリ言ってアーロンは、彼等の疑問があったのだ。


 貴族のボンボンといえど、周囲も同じという筈はない。

 だから、この危険な仕事を無償でやる以上、とんでもないストレスが掛かり、やる気も失う筈だと思っていた。


 そうなると心配なのは仕事の質だ。

 救出屋は聖人ではない。自己犠牲の精神だけで何とかなる仕事ではない。


 きっと、どこか雑さ目立ってくる筈だとアーロンが思っていると、ロウも正解と言わんばかりに頷いた。


「師匠の思ってる通りだぜ。――雑だ。連中の仕事を見てきたが、外傷の治療もそうだし、棺の納め方もなっちゃいねぇ。何度か蘇生前にオレもつい手を出しちまったぐらいだ」


 その時の事をロウは今も覚えていた。

 あれは北の国のダンジョンから帰還し、教会で蘇生をした時だ。


 自身の次に来た棺を持った連中――それが彼等だった。


『礼なら要らないよ。これが僕達だからね』


 そう言って格好つけて出て行ったのは良いが、いざ棺を開けたら酷いものだった。


「顔の傷はそのまま、縫い目も雑。何より、棺も中古だな。罰当たりにも程があるぜ」


「やはりか」


 アーロンは予想通り過ぎて、兜の中で溜息を吐いた。

 本来、生き返っても棺は焼いて処分するのが決まりだ。


 しかし、勿体ないからと裏で安く転売する教会があるのも事実。

 そんな連中から棺を買っている時点で、アーロンは彼等の財政の苦しさを想像するのは容易かった。


「その内、他の救出屋ともぶつかるな……」


「既に今日、自身がぶつかってるでしょうに」


 まるで他人事の様に言うアーロンへ、ロウは呆れた様に言った。

 サツキも彼の気にしなさ過ぎる事へ、苦笑してしまう。


――そんな時だった。

再びアーロンの拠点の扉が叩かれた。


「アーロン! 私だマスターだ! 大変だ冒険者が三人程ダンジョンで――」


 声の主はギルドのマスターだった。

 声色、というか内容でアーロンは全てを察した様に立ち上がった。


「お前達、仕事だ」


「はい!」


「おっと、早速かい。んじゃま、妹弟子に色々と教えてやるか」


 アーロンの言葉にサツキは元気に拳を握り、ロウも久し振りの師との仕事と、サツキへ色々と教えてやろうと、やる気十分であった。


 そんな彼等を見て、アーロンは兜の中で笑う。

 そしてすぐに真剣な表情をすると、扉を開けながら口を開いた。


「どこのダンジョンだ?」

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