第39話:棺、中央でも仕事する

 ゼウンとの会話を終えたアーロンは、そのまま部屋を出た。

 そんな彼を出迎えたのはメアリだ。 


 メアリが王の部屋から出てきた彼へ近付いた。


「棺の英雄……話は終わったのか?」


「あぁ、終わった。もう帰らせてもらうぞ」


「う、うむ……それでは送ろう」


 流石に一人で城の中をウロウロさせる訳にはいかない。

 メアリはアーロンの言葉に、少し違和感を覚えながらも頷き、案内し始めた。


 そしてアーロンも城で面倒はごめんだと、黙ってメアリの後を付いて行き、中央の城を跡にするのだった。


♦♦♦♦


 メアリから見送られ、城を跡にしたアーロンは、ロギアン王が取っている高級宿屋へ向かっていた。


 毎回、この会議の時に決まって取る宿屋だ。

 アーロンは場所を知っており、そこへ向かって歩いていた。


「あっ! ひつぎのえいゆう!」


「英雄さ~ん!」


 だがやはり良い意味で目立ってしまう。

 アーロンからすれば悪い意味だが、街の子供達と親御が彼へ手を振ってくるのだ。


 自身をモチーフにして絵本や人形を持つ子供達。

 それを見てアーロンは兜の中で溜息を吐いた。


――ここで歌を歌われたら敵わん。


 アーロンは少し疲れた様子で早歩きをし、急いでその場を去ってしまう。

 そして逃げる様に路地裏へと入った。


「……ここならば良いだろ」


 静かな道に出た事で、アーロンは思わず呟く。

 子供は何を考えているのか分からない。だから少し苦手でもあった。


 笑ったと思ったら、突然泣き出す者もいる。

 変化が激しいという意味では、ダンジョンと似ているかもしれない。


 そんな事を考えながらアーロンは再び歩き始めた。

――時だった。


「うわっ!」


 アーロンは背後から、何かが軽くぶつかったきた衝撃を覚えた。


「……誰だ?」


 アーロンが振り返ると、そこにいたのは尻餅をついた子供だった。

 年齢は10を超えているだろうか。前をよく見ていなかったのだろうか。


 しかし整った金髪で、服も身なりが良い。

 恐らく貴族の子供だろうと、アーロンはすぐに理解した。


 しかし一つ少年に似合わない物があった。

――それはだ。装飾されたナイフを少年は持っていたのだ。


「……おい。それは――」


「ご、ごめんなさい!」


 アーロンがナイフについて聞こうとした時、少年は立ち上がった。

 そして、謝りながら走り去ってしまった。


 それから僅か数秒後だ。

 今度は三人の貴族の子供らしき者達が走ってきた。


 彼等はニヤニヤと笑いながらアーロンの傍を横切っていき、そのまま先程の少年を追う様に走り去ってしまう。


「……なんなんだ?」


 やはり子供も貴族も分からない。

 アーロンはそう思いながら宿屋へと歩いてゆくのだった。


♦♦♦♦


 その後、アーロンはいつもの高級宿屋に辿り着いていた。

 そして数時間の時の末、ロギアンを始め、ロウとサツキ達へ、ゼウン王との会話の話をしていた。


「魔王!?……ですか?」


「あぁ……本当にいるらしい」


 サツキが驚きの声をあげ、アーロンは頷いた。

 しかしサツキを始め、ロウやロギアン。そして周りの護衛騎士ですら半信半疑であった。


「つまり魔王討伐の為の<勇者徴兵>だってのか、師匠?」


「ゼウン王はそう言っていた。そして俺にも勇者になれと言ってきたが断った」


 ロウからの言葉にアーロンがそう言うと、周りは苦笑する。

 

 世界の最大権力である中央王の頼み。


 それを平然と断るアーロンの度胸には、もう笑うしかないからだ。


「しかし合点もいったな。何の為の勇者徴兵かと思っていたが、そうか……もし魔王がいる、もしくはゼウン王がそう信じるならば納得だ」


「けれど魔王なんて本当にいるんですか? おとぎ話や昔の神話でなら気いた事がありますけど」


 ロギアンは納得した様子だが、その言葉にサツキはやはり半信半疑から抜け出せなかった。


 周りだってそうだ。魔王なんているのかと、ざわついていた。

 だが中央王がそんな乱心したとも思えず、何が真実か分からない。


 そんなざわつきが続いていた時であった。

 宿屋の扉が勢いよく開き、数名の男女が焦った様子で入って来た。


 その行動に護衛騎士達は身構えるが、アーロンが手で制止する。


「大丈夫だ。同業者だ」


 彼等の衣服や武器に刻まれている蒼い十字架。

 それが彼等が救出屋である事を示していた。


「こ、ここに棺の英雄はいるか! 緊急の依頼なんだ!」


 入って来た救出屋の一人が代表する様に、焦った様子で口を開いた。

 それを聞き、アーロンも前に出る。

 

「俺がアーロン・リタンマンだ。何事だ?」


「おぉ! あんたが!――た、大変なんだ! 貴族の子供達がダンジョンに入って行ったらしいんだ!?」


「ハァッ!?」


「なんでそんな事!」


 彼等の話にアーロンよりも、ロウとサツキが反応した。

 そして声を上げる二人も見ながら、救出屋は事情を説明し始めた。


「俺等も詳しく知らないが、どうやら貴族の子供によるらしいんだ!」


 そう言って彼は更に続けた。


 公爵・伯爵等、上位の家柄の子供が遊び半分で、立場の低い家柄の子供にダンジョンに入る事を強いるらしいこと。


 しかし今回は立場の低い家柄の子だけじゃなく、その公爵・伯爵家の子供も同行してしまったらしいこと。


 そして何より、子供達の置手紙に書かれていたダンジョン。

 それがA級ダンジョンだという事を。


「ただのA級ダンジョンならともかく、今回のA級ダンジョンは俺等でも無理なんだ!? だから頼む! 救出に行って貰いたいんだ!」


「貴族の子供……?」


 必死な彼等の言葉を聞いていたアーロンの脳裏に、数時間前にぶつかった子供の姿が思い浮かんだ。


――まさか、あのナイフは護身用だったのか?


 ありえない。ナイフ一本で、技術もない者がA級ダンジョンにはいるなど自殺と同じだとアーロンも流石に焦った。


 そしてアーロンはクロスライフを背負うと、弟子達に声を掛けた。


「ロウ……サツキ……行くぞ」


「うっす!」


「はい!」


 ただのA級ダンジョンではない。

 それを聞いても二人の弟子に恐怖も戸惑いもなかった。


 二人は身支度をしながら立ち上がり、気合の入った声で頷いた。


 それを聞いてアーロンは頷くと、彼等へとあの言葉を投げかけた。


「どこのダンジョンだ?」


「……A級ダンジョン『ヘンケラの巣』だ」


 それは凶悪の魔獣――ヘンケラの巣穴であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

棺のダンジョン~英雄と呼ばれた男は、ダンジョンで棺を引く~ 四季山 紅葉 @zero4649

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画