第20話:死を招く悪霊

 ラストイーターがアーロンへ、武器である霊体の鎌を向けた矢先、アーロンはクロスライフの持ち手。

 そこにある隠しのレバーを引くと、クロスライフから一気に水蒸気が噴き出した。


『ウォォォン クルシイヨォ!!』


 ラストイーターは、その水蒸気を受けて苦しみの声を洩らす。

 この水蒸気の正体、それは聖水だ。

 

 聖水の水蒸気が辺りを包み込み、周囲にいた霊は消え、ラストイーターは藻搔いていた。


 そんな相手の姿を見て、アーロンは思わず昔を思い出して兜の中で笑った。

 

――懐かしいな。昔、自棄になった師匠が聖水を奴に投げたのが始まりだったな。


 それは彼と、今も元気に健在な師匠との思い出であった。

 当時、まだ見習いであったアーロンと彼の師匠が、ここに来た時にラストイーターと出会った時の事だ。


 何をしても聞かないラストイーターに、師匠はブチ切れ、丁度、手に持っていた聖水の瓶を奴に投げつけたのだ。


『だぁぁ!! 面倒だ! これで喰らえ!』


 完全に自棄での行動だったが、これがまさかの効果抜群。

 ラストイーターに攻撃するには聖水を与えてからだと、彼の師匠のお陰で分かった事であった。


「フンッ……師匠に感謝だな」


 そう言って笑いながら、アーロンはラストイーターへ銀の矢を発射する。

 何発も、何発も、後ろにいる子供が怯えない為に。

 彼は目の前の悪霊へ、何発も銀の矢を撃ち込んだ。


『ヒドイヨォォォ!! クルシイヨォォ!!!』


「悪霊の割には良く叫ぶ。悪霊らしく、呪いだけ唱えれば良いものを」


 そう言ってアーロンはクロスライフ、その十字架が刻まれた表面をラストイーターへと向けた。

 その瞬間、十字架が蒼い優しい光を放ち始める。


「女神ライフよ……幼き、無垢な命を守る為、弱き、脆き僕をお守り下さい。――天より降る女神の涙ジャッジメント・ライフ


 アーロンが女神ライフへ祈った瞬間、十字架は大きな蒼い光を解き放つ。

 そして巨大な蒼い十字架が、ラストイーターを天から貫いた。


『ウオォォォォォン!! 消エタク……ナイヨォ……!』


 そんな断末魔をあげ、ラストイーターは、その姿を消していった。

 同時に周囲の空気は軽くなった気がしたと、アーロンは感じる。


 だが彼は何事も無かったかのように、子供を巻いたシーツを自身に巻き付け、抱っこする様に支えた。

 そして子供の安全を確保した後、棺を背負った時にアーロンは気付いた。


「えへへ……!」


「ふっ、俺に抱かれて笑うとはな。――将来は大物だな」


 彼はそう言って兜の中で、優しく笑いながら子供を見ていた。

 そして、その後にゲートを開き、教会へと帰っていくのだった。

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