第6話:棺の過去と真相

 疲れ果てて眠る中、アーロンは夢を見ていた。


『なんで! なんでだれもお父さんを助けに行かないの!!』


 沢山の町人達に囲まれ、母に抱きしめられながら泣いていたのは彼自身だ。

 ダンジョンに行き、他の仲間を逃がす為に殿をした『初代ダンジョンマスター』と呼ばれた父を、誰も助けに行かない事に怒っていたのだ。

 

『――俺の故郷は普通の平凡な町だ。戦士も騎士だっていない。狩人崩ればかりだけだ』


 それ故に周囲は助け合い、子供ながらにアーロンも、周囲がどれだけ父に助けられていたかも知っていた。


 しかし村の者達は、そんな父の命の水晶が消えても誰も助けよに行こうともせず、時間が過ぎるのを待つように黙る大人達。

 そんな姿を見て、アーロンは当時、子供ながらの感情をぶつけてしまった。


『お父さんには助けてもらうくせに! 大っ嫌いだ! 卑怯なあんたたちは大っ嫌いだ!!』


 今思えば、力無き者へ随分と酷な事を言ったとアーロンは思う。

 けれど当時は、そんな考えができず、自身を抱きしめる母を引き離し、自分だけでも行こうと飛び出したが、すぐににぶつかったのだ。


『どこのダンジョンだ?』


 棺を背負った鎧の男が、そう言って幼い頃のアーロンを見下ろしていた。

 それが彼の未来を決めた人物との出会いだった。


『――それが俺と出会い……始まりだったな』


♦♦♦♦


「……懐かしい夢を見た」


 自宅のカーテンから覗く朝日により、アーロンは意識を覚醒させながら思わず呟いた。

 口に出してしまう程、自身にとって原点の記憶。


 そんな夢を見たのは昨日、自身とで救出屋を目指す少女――サツキと出会ったからだろうと思い出す。


「帰って来たのか、サツキという少女は……?」


 予想外の事があろうが、流石にもう帰って来ている筈だと、アーロンは自身に言い聞かせた。

 しかし虫の知らせというべきか、彼の胸のモヤモヤした不安感は拭え切れなかった。


「……ギルドに様子を見に行くか」


 アーロンは不安を解消する為、向かう筈だったダンジョンの予定の延期を決める。

 ギルドへ向かう為、強いてサツキ達のいる『気流の迷城』へ向かう為に。


 まずは自身の体調を備える為にパンや卵も焼き、果物と一緒にアーロンは簡単な朝食を済ませた。


「……そういえば、にも顔を出さねばな」


 最近忙しくて行けなかった場所を思い出すアーロンだが、顔を出したくても急な用事と時間の問題はどうしようもない。

 溜息を内心で吐いて、気分を紛らわせるが近年は妙に忙しいのは事実だった。

 

「繁忙期でもあるまいし、この時期に忙しくなるのは珍しいな……」


 新種の魔物、価値が変動した素材、新たなダンジョン。

 それはいつも決まった時期に起こり、それに伴って救出屋も忙しくもなるが今はそんな時期ではない。

 

 だがアーロンは、今月だけでもダンジョンに何回入り、何人救出した事かと違和感を抱いた。


「また各ダンジョンを見回って見るか……」


 ダンジョン内が変異したのかもしれないと、アーロンはそう決めて異次元庫に物をしまい、ギルドに向かう為に兜を被り、自宅を出ようとした時だ。

 突然、大きな音と共に自宅の扉が叩かれた。


「アーロン! 起きているか!? 緊急事態なんだ!」


「……マスターか?」


 その声はギルドのマスターだった。

 こんな早朝からでも珍しいが、息が切れる様な焦りの声はもっと珍しい。

 そんな声にアーロンは嫌な予感を感じ、すぐに扉を開けると汗をびっしょりにしたマスターが立っていた。

 

「どうした……緊急の依頼か?」


「そ、そう言う事になるが! た、大変なんだ! 昨日の『慈悲の終言』の男が、書類を滅茶苦茶にしてたから気付くのが遅れたが――! 場所は……本当のダンジョンはB級じゃなかったのだ!?」


――どうやら、俺の今朝の予定は決まったらしい。


 どうりで近いダンジョンの割に、彼女達が帰ってこない筈だとアーロンは納得する。

 だが重要なのはそこじゃない。本題は彼女達がどこに行ったかだ。


「ダンジョン名とザクマの言葉で勘違いしたが……向かった場所はA級ダンジョンなんだ!?」 


「何てことだ……」

 

 C級とB級はそこまで難易度は変わらないが、B級とA級では大きく難易度が変わる事は誰も知っている常識だ。

 もしB級ダンジョンのつもりでA級に行けば、間違いなく全滅は免れない。

 

「かなり時間が経っているな」


 サツキ達が向かってから日を跨いでいる。

 アーロンは急ぎ鎧を纏い、クロスライフを担ぐとマスターへと問いかけた。


「……どこのダンジョンだ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る