3
どれくらいそうしていたか、わたしはわからない。時計なんて持っていなかったから。周りにも時間がわかるものはなかったから。
ふっ、と肩に手が触れた。
「えっ」
「どうしたの」
振り向くと知らないおばあさんがこちらを見ていた。
「おばあさんだれ?」
「お嬢ちゃん、お家は何処?」
不思議と恐怖は消えていた。黒塗りのバスは何故か消えていた。相変わらず誰もいる気配のない街。
「迷子?」
「⋯⋯」
迷子等ではないけれども、そう答えるのが正解な気がして、頷く。
「そう、じゃあ■■神社まで行くから途中まで来る?」
「⋯⋯うん」
おばあさんに手を引かれついて行く、音が戻らない世界に取り残された感覚を後ろに。
後ろめたさがわたしにはあった。のだと思う。だから何度か話しかけられてもうまく返すこともできず涙をこらえ俯いて道を歩いた。
その度に背中をさすってくれた。宥めてくれた。
神社までひたすら一緒に歩いた、家に人の光景が無くて怖かったから。家には帰る気にはなれなかった。
坂道、砂利道、階段。境内までとうとうたどり着いた。その間信号に引っかかった覚えも車も見なかった。
境内に着くとおばあさんが鐘を鳴らし、手を合わせた。わたしもそれにならった。
その時やっと音が戻った。目を開けるとおばあさんはいなかった。虫の鳴き声が聞こえる。
戻ってこれた、と感じた。
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