5 完

 中学生になって祭りの終わりまた黒塗りのバスを見た。

 その列に近所の亡くなったはずのおばあちゃんがいた。

「○○おばあちゃん?」

 つい口から声が出てしまった。近所のおばあちゃんらしき人が振り返った。確かにその人だった。返事は帰って来なかったが確かにそうだと思った。


 その瞬間、後ろに気配を感じた。


 境内のちょうど神社の拝殿の方、確かにいた。物音がいきなり消えた。あの時助けてくれたおばあさんがシーッと口に手を当てている。ダメだよとおばあさんの口が確かにそう動いたのだ。


 どうして?と口を動かしたはずだが声にはならなかった。


 死んだ人のためのお迎えのバスなのだ、と。耳元で確かにそう聞こえた。


 にぎやかな音が戻っておばあさんも黒塗りのバスも亡くなったおばあちゃんの姿も見えなかった。


 高校の帰りにあの黒塗りのバスが近所の家の前に停まっていた。


 家に帰宅すると■■さんとこのおじいさん亡くなったんだって、と。母親が言った。あの黒塗りのバスが停まっていた真ん前にある家だった。


 それを最後にわたしはあの黒塗りのバスと俯いて並ぶ人々を見ることは無くなった。


 それでも数年経ってもあの境内に行く時、思い出す。あの黒塗りのバスと俯いて並ぶ人々。音のない世界。手をつないでくれたおばあさん。それらのことが頭を何度も過る。


  どうしてあの黒塗りのバスは山の方へと続く道を通り何処へ行くのか。なぜお祭りの度に見たのか。


 あれは一体何だったのか?


 あのおばあさんは何者だったのか、と。


 







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