その時日が暮れかけていることに気づいた、知らない人々がわたしの名前を呼んでいる。


 声はこちらにも近づいてきた。


「⋯⋯ちゃん?」

 大人が数人わたしの名前を口にして話しかけてきた。

「そうです」

「怪我ない?痛いとこない?」

「みんな探しとるよ? 帰ろうか」

「電話してくるわ」

 口々に大人が話しかけてきた。この時わたしは捜索されていたのだとわかった。


 下校時刻になっても帰って来ないことに母親が不審におもって友達の家にかけてもわたし以外はすでに帰っている。そこで手分けして探していたと。あくまでもそうらしい。


 しばらくして両親が来るのをまっている間、大人達があったかいペットボトルの飲み物を買って渡してくれたり、上着をかけてくれたりした。


 両親と姉が車で迎えに来て後部座席に乗り、両親は何度も大人の方々に謝罪したり、頭を何度も下げるのを窓越しにみていた。


 車の中では一度もなにかを聞かれたりすることはなかった。珍しく姉も声をかけてくることはなかった。


 全部事実として口にしても到底信じてもらえる気がしなかったために。わたしは迷子になって知らない場所にいつの間にかいておばあさんが神社まで連れていってくれたのだ、とだけ説明した。

 少なくともその事をそれ以上両親達が聞き返してくることはなかった。




 

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