第2話 猫と僕

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「どうした?」

 真面目な親友の声で猫が喋る。

 

 もう何度目かわからない目をとじてあけてもこれは夢などではないようなのだ。

「どうもこうもきみは何故こんな姿になっちまったのか」

 頭が痛くなる、もしかしたら僕はいよいよ頭がおかしくなってしまったのか。

「こっちが聞きたいよ」

 彼はいつも真面目な奴でふざけたことは一度もなかった。今僕は多いに困惑している次第。彼にもよくわからないらしい気付いたらこうなっていたということしか。

「きみの人間としての肉体はどうなったんだろな」

「死んでしまったとか、猫とぶつかっちまったとかかもな」

 荒唐無稽だ、いつもなら言わない彼もいよいよまいったと言わんばかりの表情。猫に表情ってあるのかはわからないけどそんな雰囲気を醸し出している。

「そんなことないと言えない苦しい程に」

「鏡を見せてくれないだろうか」

「そうだろうとも少し待っていてくれ」

 窓ガラス越しに見たが鏡ではっきり見たわけではないらしい。受け入れがたいとはいえ、現状を把握する必要があるそう判断したらしい。


 

 リビングからか鏡をとってきてやった。どうにもならない今それ以外やることがぼくらにはない。

 彼というか猫になってしまった彼は鏡を見ながらため息を吐いた。

「やはり、猫になってしまったようだな」

「きみの家にいったら実はちょんと人としてのきみがいるなんてことはあるんだろうか」

 ついてでたのは少しの好奇心、探求心

「無いとは言えない。そうなるともはや俺は誰なのか」という疑問がもたげると彼は言う。

「疑問が解決して新たな疑問が、という状況に陥るはめになるわけだね」

 ぼくとしては、それはそれでいい。けれど猫になった彼(?)にはあまりに酷な結末だ。

「俺にはちゃんと人間だった頃の記憶も声もある猫だけどね、でも人間のままの俺もいるとなったらどうしたものか」

「どちらも本物でどちらも偽物ということもありうるわけだな」

「つまり俺は1人と1匹に。もしくは本物の俺はもういないが人間と猫の俺が例えばコピーされたというわけか」

 彼の声も弱々しくなっていく。もし自分が偽物だったら誰もがゾッとする可能性の話。1度位は考えたことはあるだろうレベルの思考。無いとは断言できないこのあり得ない状況が追い詰めている。

「最悪な話をすると、植物状態で入院していて精神だけ猫に移ったなんて可能性もあるわけだから。きみは先の2つの可能性の方が救いかもしれない」

 救いとも呼べない可能性を口に出して後悔する。こうなってしまった以上どんな可能性も消すことなどできない、それは僕にも彼にもわかっている。

 見ていられないくらい猫いや彼は弱々しい。

何一つ希望ある可能性を提案、推測できない自分のことが恨めしい。もっと気遣った言葉をかけてやれないことが。




 結局、彼を新品のペット用のキャリーに入れ彼の居るはずの家へと向かうことにした。

 そして今、玄関に立ったところだ。

「悪いな、こんなことを頼んで」

 キャリーの中、ポツリと呟いた、彼。

「いいんだ、どうせこうやってくる以外他にどうすることもできないんだ」

「もし、俺が出てきたらそう思うと」

「まぁ、気休めにならないがその時は」

 そう言ったところで呼び鈴を鳴らす。考えても栓のないこと。フィクションならともかく現実なのだ。


「居ないのか? 僕だけど」

 沈黙が広がるばかりだ、出かけているのかそれとも猫になったのか。

「そう言えば携帯かける手段もあったな」

 おもむろに携帯を取り出し電話帳を開いたはいいが、固まる。

 もし本当に出たらそれはそれで怖くなってきた。彼とは子どもの頃から親友で親同士も仲が良かった、けれど今得体の知れない恐怖がもたげてしまった。キャリーの中の彼も、人間の彼も(もちろん居たらの話)本当に僕が知る彼そのものと何一つ変わらないのか。

「電話しないのか?」と彼は上目遣いにそう告げる。


 

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