第9話 靴

1 完

 ある夏の終わり頃のことだ、通学路の途中に橋がかかっている場所でのこと。使い古したような一対の靴が綺麗に並べられて置いてあった。

 この時よくない想像が駆け巡った、誰かが飛び降り自殺をしたんじゃないか、と。見たところ誰かが飛び降りた形跡は見つからず、そのまま学校へと登校を再開した。

 この日誰かが飛び降り自殺したという話は聞くこともなかった。


 翌日も同じ様にまた置いてあって、この時誰かの悪ふざけなのではないかと思って素通りした。帰りがけにもやはりあった。更に翌日もそのまた翌日もと。

 その日も同じ様に通り過ぎようと考えていた、もうこの光景に慣れてしまっていたから。周りの大人達ももう慣れてしまっていたらしい。

 この事を今でも後悔している。この日だけ違和感があった。後になって気づいたんだ靴がいつもと少し違っていたこと。


 帰りがけに見るともう靴は無かった。家に帰って知ったことだけど近所の子どもが飛び降り自殺をしたらしい、と。

 それ以前まで置かれていた靴はなんだったのか。それもわからない。今となってはあの時その違和感に気づいていれば変えられたかもしれないと役にも立たない後悔だけが確かなのだ。


 最近ひとり暮らしを始めた近所の橋の欄干に一対の靴がぶら下げてある。理由は知らない。越してきた当初からあったわけではなく、最近そのことに気づいてしまった。なんとなくその靴に見覚えがあるような気がする。


 今のところ誰かが飛び降りたという話は聞いていない、もちろん誰かが飛び降りたことがあったという話もない。


 さて今日で何日目なのだろうか、不意にそう考えてしまっていた。


 

 

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