第14話 境内

 わたしは祭りの帰り不思議な光景に、目を吸い寄せられた。祭りの余韻。境内から離れた場所に黒塗りのバスが停まっていたから。少なくとも見覚えは一度もなくそもそも、乗り込む人々の列に見知った顔がひとつもないこと。こんな時間に? わたしは首をかしげる。


 バスが奥の暗がりへと消えるのを遠目に見ていると。

「帰るよ、なんしとるん」

「真っ黒なバス、って見たことある?」

 姉の声、疑問がふと口をついて出た。

「なんバカなこと言っとるん、はよ帰んで」

「そこでなぁ、さっき見てん」

 姉のいかにもあきれた顔

「そないなこつ、どうでもええが。お母さんとお父さん車で待っとるから」

 はよ帰らなっ、と声で姉が急かしたためわたしは姉と両親の車へと向かうと後部座席へ乗り込んだ。

 

 これがはじめてわたしが見た黒塗りのバスを見た日だった。当時わたしは小学生低学年ぐらいだった。


 翌年、またお祭りの余韻へ浸っていると同様の光景を見た。思えばバスの向かう方向は山へ続く道だったような気がする。


 黒塗りのバスへ乗り込む人々は俯いていてひと言も声を聞いたことがなかった。


 黒塗りのバスについて話しても寝ぼけてたんじゃとか。そもそもこの辺をこんな時間に走るバスなんてない、と両親や姉が口を揃えて返したとわたしは記憶している。


 毎年その光景をわたしは見ていた、決まっていつもわたしひとりがそこに立っている時だった。一緒に同じ光景を見たとか似たような光景を見た話は一度も聞くことはなかった。


 



 

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