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その日は平日だった、学校の帰り道。わたしははじめて祭りのないその日、確かにあの黒塗りのバスを見た。
えっ、と驚いたのもしっかり覚えている。残念ながらこの日もわたしは何故かひとりだった。
舗装された住宅街のアスファルトの道まばらに並んだ家々、まるでくりぬかれたようにわたし以外誰もいない感覚。秋の匂い。ただ虫の鳴き声ひとつも、動物の鳴き声もしなかった。
はりぼての街、としか言えないそんな感覚がわたしを支配していた。なんとなく居心地が悪くてさっさと帰りたい、そう思うのにあの黒塗りのバスが祭りから抜け出してきたような光景に目が吸い寄せられてその場から離れられなかった。
夕方の妙な静けさ、緊張。
なんとなくこんな表現がわたしを過った、神さまの作りかけの街に迷いこんでしまった。そんなばつの悪さ。叱られる、と。
黒塗りのバスは動くことなく停まっていた。いつもの俯いた人々の行列はない。
あれが開いたらどうなるんだろ? あれが開いたら何が出てくるんだろう?
妄想が、空想が、わたしを襲う。急にこわくなったのだ。
目をギュっと閉じた。残念ながら光景は変わらない。
「どうしよ」と焦った。帰ることができないかもしれない。不明瞭な不安。
喉が渇いて、言葉をうまく、息がうまく、出来なくなった。
どうやるんだっけ? 落ち着け、怖い。
恐怖と不安にとうとう負けて地面にしゃがみこんでしまった。
涙がとうとう溢れ地面をぽつぽつと濡らした。
「帰りたい⋯⋯帰りたいよ」
やっと口に出せたはそんな言葉だけ。
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