第7話プリンと香り
秋風の始まりが吹き抜ける9月中旬、柳家怜の朝はゲーム起動から始まる。
「……」
布団に籠り小一時間黙々とプレイ、ある程度の区切りを付けシャワーを浴びる。
ぬるま湯で体を目覚めさせ、今日のスケジュールを思い出す。
「あー……今日から大学か……」
スキンケア中にもゲームを欠かさず、無駄な時間を過ごさない、生粋のゲームっ子である。
適当な部屋着に着替え、以前から欲しかったソフトの入札結果を確認する。
「よっしゃ! 見事に落札! 初回限定盤get! ひゅー! テンション上がる!」
軽やかな喜びステップでベッドダイブ、無邪気な足パタ付き。
ここだけトリミングすれば、キュン殺しの美少女である。
適当な朝食後、衣装室で本日の衣服と睨めっこ。
「……ジャージ一択だな」
お気にのジャージを手に取るも、奈南が購入した着こなし一式が視野に入る。
季節的にジャージでは若干肌寒い室外。
奈南の着こなし一式なら冬まで持つと。
「新学期ぐらいはちゃんとするか……」
人々の視線を奪う柳家怜の通学、しかし蒼眼と美少女圧により、人を寄せ付けないのであった。
本館では学部別に集まるオリエンテーション、怜は気だるげに到着する。
「おはよう怜」
「よっす夏乃斗」
隣に腰掛け周囲を眺める怜は、小動物を彷彿させる姿であり、学生が胸ときめく。
「奈南のヤツがいねぇな……」
「寝坊らしいよ」
「へぇ……」
何かと目立つ存在な彼女がいないと、なんだが違和感を覚えていたのだった。
始業時間まで雑談する中、慌ただしい音と共に古賀峰奈南が登場。
時間ぎりぎりもあり、衣服などが軽く乱れる自然エロスが生まれていた。
「はぁ……はぁ……あ、怜! 夏乃斗くん!」
「おはよう奈南さん」
「声デカ……少し抑えろよ」
「ご、ごめん……あ、隣いい?」
「もう座ってんじゃん」
「えへへ……」
あからさまな距離詰めの密接。
人を虜にする柔らかさと麗しき香りが鼻腔を擽る。
羨まけしからん光景だが美女と美少女のカップリングな為、眼福の一言に尽きるのであった。
怜は軽く疎ましさを感じるも、手で除ける事はしない。
2人の関係を微笑ましく眺める夏乃斗は、まるで親戚のお兄さんである。
「仲良くなったみたいで良かったね」
「うん! ねぇー?」
「まぁ……否定はしない」
感激のあまり腕を絡め抱き着く古賀峰奈南、人目を気にしないポテンシャルだ。
昼休みに入り学食で昼食を頂く3人。
野菜定食に日替わり定食、中華セットのそれぞれが食を楽しむ。
「至極の限定プリン! 最高かよ!」
大好物のプリンに舌鼓を打ち、幸せオーラをぽわぽわ溢れ出す怜。
愛らしい反応に胸がキュンとなる奈南は、自身の抹茶プリンを自然と差し出す。
「よかったら私の抹茶プリンもいる?」
「くれくれくれ!」
くれくれ仕草に更なるときめき。
使命感に駆られるが如く、抹茶プリンを掬い取る。
ふるふる揺れる抹茶色の甘味、差し向ける先は怜の口元だ。
「あ、あーん」
「あむ! うめぇえ!」
怜の高揚姿が嬉しく、餌付けのように次々とあーん。
幸せ余韻に浸る美女と美少女、学食内の空気も幸福に包まれる。
「けぷぅ……毎日3食プリンでもいいな!」
「流石に食べ飽きるんじゃない?」
「プリンは無限で無敵!」
「本気でやらないでね?」
「……冗談だって」
妙な間が余計に信憑性を高め、心から心配をする夏乃斗であった。
同時に何か妙案が浮かぶ奈南が怜を見つめる。
「ねぇ怜」
「んぁ?」
「今度プリン作ってあげようか?」
「マジでぇ! 奈南愛してるぜ!」
「ひゃ!?」
思わぬ抱擁に赤面、未だかつてないほどの体温上昇だ。
小さくて細くて柔らかい女の子の体、加えて蒼眼のクォーター美少女。
艶やか黒髪から香るシャンプーのいい匂い、鼻腔を甘撫でるボディーソープの香り。
数多の香りに思考がぐるぐる駆け巡り、本能のまま抱き返す。
「いでででで!?」
「にゅふふ~♪」
「死ぬ死ぬ死ぬ!?」
「な、奈南さん! 怜が青ざめてる!」
成人男性並みに勝る力は、華奢な体には拷問に過ぎなかった。
体の痛みに悶える怜に、申し訳なさそうに顔を覗き見る怪力女子。
「ご、ごめんね……だ、大丈夫?」
「こ……こなクソがぁ!」
「にゅ!?」
メロンの頂点目掛けてピンポイント指突き、ずぶずぶと簡単に沈み込む柔さだ。
身体的欲求感覚が全身を駆け巡り、軽度の痙攣を味わう奈南。
1人では決して味わえないクセになる快感であった。
「勝手に惚けるな!」
「にゅ!?」
捩じれを加え追攻撃、更なる快感が奈南を襲う。
そして惜しみなく出される雌フェロモンに、夏乃斗を除く異性が立ち上がる。
とんでもねぇエロ雌がここにいると。
「……れ、怜……も、もっと……」
「おい、変態が滲んでんぞ」
「あ……」
離れる指先に視線を集中させ、もう一度あの快感を期待する変態美女の奈南。
一方の怜は指を軽く痛め、恨めしそうに2つの極悪なメロンを睨みつける。
「2人とも大丈夫?」
「……ふぇ? あ、うん! 大丈夫だよ!」
「指……メロンめ……」
何とも言えないまま学食を去り、夏乃斗と別れ2人で和み同好会へ。
別館周辺では異様な人集りと、何故か立ち入り禁止状態になっていた。
「なんだ?」
「どうしたのかな?」
「おっふ! 奈南殿! 怜殿!」
「あ、よっしー部長。お疲れっす」
「お疲れ様です吉田部長さん。何かあったんですか?」
吉田部長曰く、どこかのサークルが軽いボヤ騒ぎ、防火装置などの点検を含め今日は入れないと。
他のメンバーも先程帰宅し、2人によろしくとの事だった。
「じゃ、帰ってゲームします。お疲れっす」
「お疲れ様です!」
「お疲れ様でありま……おっふ! 一つ言い忘れていたことがありましたぞ!」
「なんっすか?」
「1年生の新規メンバーが加入したのですぞ!」
つい数十分前、吉田部長へ直々に加入したいとの申し出。
しかも女子との事。
「女の子!」
「へぇーどんな奴っすか」
「ふっふっふ……あとのお楽しみですぞ怜殿。では、我は用足しがあるので! お疲れでござる!」
取り残された2人が目を合わせ、無言で意見が合致する。
新規加入者の女子がどんな子なのか、自分たちなりに推測してみようと。
「ゴスト直行でいいな」
「うん!」
尊い2人の後ろ姿にモブ達がうっとり。
もはやボヤ騒ぎはどうでもよくなっていた。
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