第25話新年会と唐揚げ
1月始め、和み同好会は珍しく新年会を開催していた。
遅れながらも吉田部長とジーザスの就職祝いでもあり、後輩達が場をセッティングしたのだった。
「いやはや! 新年早々、皆と時間を共にできるとは幸せですな!」
「祝福の宴に感謝……生涯忘れない思い出になる……」
「飯も酒も女もたんまり! まさに酒池肉林っす!」
「み、美影ちゃん。その言い方どうかと思うよ……」
いい雰囲気のまま飲み食い、後輩達も楽しんでいる。
「おぅおぅ! 紫音! 何飲んでんだ?」
「ブラッドオレンジカクテルです」
「ブラッ……洒落やがって」
「もうとっくの前に飲酒できる歳なので……クピクピ」
「知ってるっての」
この言葉が持つ意味、紫音の誕生日を把握してるのと同義だった。
密かにネックレスのプレゼントをあげ、講義の被る日や2人で遊ぶ際には、毎回身に着ける程のお気に入りであった。
もはや親友並みの関係性に、自覚無しだというのだから驚きである。
「で、美影さんは何を飲まれているんですか」
「生粋の日本人なら日本酒だろ」
「へぇーおっとなー」
「棒読みじゃねぇか。おら、お酌してくれてもいいんだぜ?」
「えぇ。構いませんよ」
お酌された酒をクイっと飲み干し、つまみを一口。
いつもと違う味わい、気分も心地良くなる。
「もう一杯」
「はいはい」
ハイペースでお酌され、いい感じにほろ酔いとなった美影は、ペラペラと口が滑る。
「紫音はいつも~いつも……こんなアタシと一緒にいてくれて~……んー……ライバルだけど~……いないとぽっかりするにょ……」
「僕も同じですよ。おっと……猫みたいですね」
紫音の膝枕で幸せそうな美影は、じれったい姉妹にも見え、ひたすらに尊かったのだった。
「ナイスカップリングでスネ! 腕が鳴りマス!」
そして2人をスケブに描き殴るロゼの、興奮冷めやらぬ顔は玄人そのものだ。
「前の即売会で再熱したか」
「せっかくだし私達も描いて貰おうよ!」
「別にいいけど」
スラスラと数分で完成し、出来栄えをワクワク気分で覗き込む。
「ろ、ロゼちゃん。なんで私達裸にされてるの?」
「デッサンはヌードが基本ですので、不必要物は排除させて貰いまシタ!」
「おぉー短時間でビーチクまでしっかりだな」
「い、言わなくていいでしょ!」
渾身の一筆をプレゼントして貰い、丁寧にしまいニヤケ顔が止まらない奈南。
こっそり耳打ちで百合本の感想を伝え、好き好きハグをされていた。
「にゅふふ~創作意欲が湧きマス! に、肉感も最高デス……はぁはぁ……」
「くすぐったいよ~ロゼちゃんも成長したんじゃない?」
「皆さんをオカズ……マッサージをしてるノデ!」
「いいよねマッサージ! 私も肩こりがね~」
軽い動作でもゆさゆさ揺れる豊満乳房の景色と比べ、ストンと揺れもしない怜の景色。
スルメをあにあに噛み、どうにもできない現実を一緒に噛み締める怜だった。
「デカチチ談義かよ。あにあに……」
「怜も混ざるデース!」
「うびゃ」
柔肉サンドになされるがまま、揚げたての唐揚げを目の前にした怜。
とある発言に奈南が反論する。
「唐揚げにはレモンだな」
「えぇー! そのままがいいよ!」
「ほほぉーん……コイツは戦争だ」
かける派閥の怜・紫音・吉田部長。
かけない派閥の奈南・美影・ジーザス。
マヨネーズ派閥のロゼ・春山。
唐揚げの三つ巴が完成し、それぞれの意見を述べる。
「第一前提として、唐揚げの相棒は檸檬だ。何故なら必ずトッピングされているからだ! ドヤ!」
「可愛い……はっ! でもでも、果汁で揚げたて食感が損なわれるよ!」
「ふっふっふ……代わりにマヨネーズでコーティングするのデス!」
「ハイカロリー摂取は体重増加のお供だぞ。それに比べて檸檬はビタミン豊富で柑橘のフレーバを堪能できる。なによりも絶妙な酸味がアクセントになるんだ! ドヤドヤ!」
「キューン! ……け、けど飽きが来るでしょ? そのために何も付けずに唐揚げ本来の味を楽しむんだよ!」
「代用のマヨネーズもありマース! あ、すみませーん。串焼きセット1つお願いしマス!」
「美影さん美影さん。甘えてないで話に参加して下さい」
「いーや~紫音と一緒がいいにょ~ふにゅ~……」
やいのやいのと唐揚げ談義の美女達を肴に、酒を嗜む男共だった。
「すっかり我々は蚊帳の外ですな!」
「ですね……ちなみに僕は何でもいける口です」
「口出し無用……見届ける事が役目だ……」
数十分に及ぶ戦いは唐突に終わりを告げる、ある人物が乱入者してきたからだ。
「おんや~誰かと思えば、怜ちん達じゃん!」
「あ、花凛さん。いいとこに来たっす。唐揚げに檸檬をかける派っすか? かけない派っすか?」
「あるもん全部堪能する派だぜ? オールマイティーな私でごめんよ!」
「おい花凛、早く来ねぇとお前だけ飯抜……おや、皆お揃いで」
マネージャーの舞鶴に羽交い締めされ暴れる花凛達は、撮影の打ち上げに飲みに来たと。
モデルの後輩達も通り際にチラ見、女性陣の容姿偏差値の高さに驚愕する。
そして、ほわほわとなんだかとっても幸せな気分になっていた。
「邪魔して悪かったよ、コイツには説教しておく」
「はーなーせー! 鶴ちゃんは唐揚げも語れない小心者なんだ!」
「そもそも揚げ物類が受け付けねぇよ」
「ぷぷぷ! 年だ年! 三十路だもんね! 脂っこいのは胃もたれするんだ! だせぇー!」
「やかましい……おら、後輩ちゃん達を待たせるんじゃねぇ」
「やー! み、皆! 私がいなくなっても泣かないで! 強く生き……」
ずるずるとフェイドアウトし、嵐のようなトップモデル花凛であった。
唐揚げ戦争も和解し、それぞれ食べ方を楽しみ、満足な結果になった。
お次は串焼きセットを眺め、好みの串を取る事になった。
「やっぱ串は砂肝だよな」
「ボンジリがいいよ」
「僕は軟骨ですね。美影さんは? ……もにょもにょ言って聞き取れません」
「ばりゃ~……んふふ~」
「ふわふわつくねがとっても美味デス!」
「では、我々は残りのを頂きますぞ!」
大人数のシェアで、串焼きは串からバラされる運命にある。
しかし、美味くて安い材料を仕入れ、1本1本店長やバイトが丁寧に仕込んだ一品だ。
店側としては、一本丸まる豪快にかぶり付き、味と食感を独占して欲しいのだ。
和み同好会の空き皿を片しに来た仕込みバイトも、きっとバラされているのだろうとテーブルをチラ見する。
「うんうん……ザクザク食感も面白美味しいね! 砂肝!」
「だろ? 軟骨もコリコリが病み付きになるな」
「バラも肉汁ジューシーデス! まむまむ……」
「ハァハァ……な、奈南さんの関節串……ゴクリ……」
「ちゅくにぇ~ふわふわ~にゃむにゃむ……」
美女達がバラさずにシェアする光景に、バイトは空き皿を抱え厨房へ急ぐ。
店長にありのままを語り、ジーンと心が綻び余韻に浸る。
綺麗に完食された皿々にも心打たれ、調理人としては嬉しい限りだった。
その頃和み同好会では、腹も満たし酒や飲み物で、ゆっくりとした時間が流れていた。
「よっしー部長の仕事先って海外っすよね?」
「そうですぞ! 翻訳家として励みますぞ!」
「翻訳されたもんあったら教えて下さい、どんなもんか知りたいんで」
「いやはや! 今から緊張致しますな!」
ホクホクとほんわかした空気の怜と吉田、和気あいあいと話し込む。
「ジーザスさんは写真家でしたよね?」
「あぁ……同志の運営する専門写真家としてな……強味を生かせる職に就けて幸せだ」
「やりがいのある仕事なら充実しますね! 私応援しますね! えいえいおー!」
可愛らしい応援に満ち溢れる心は、これから先の活力となれると。
後輩達も綻び、幸せを生み出す天然な奈南であった。
そろそろお開きになり、吉田部長からの挨拶で締めくくる事に。
「無事に新年を迎えられる素晴らしい会となりました! 我々の就職祝いも大変に光栄でしたぞ! 心より感謝申し上げますぞ! ありがとうございました!」
「よっ! よっしー部長!」
「簡潔でいいな……ナイスだ」
パチパチ拍手が包み、一本締めをやりかけた時、吉田部長から思わぬ言葉が告げられる。
「ここで発表ですぞ! 新部長は紫音殿に決定されましたぞ!」
「……僕ですか?」
「俺が推薦した……不服か?」
「いいえ、むしろ光栄です。喜んでお受けします」
「あたひも~やりましゅ~うへへ~」
「美影さん……貴方って人は酔いに任せる人だったんですか? 正気に戻って下さい」
「ん~……しおんと一緒がいいにょ~……んふふ~」
酔って甘々な美影は、紫音に頬擦りする赤ん坊だ。
普段言えない本音を酒に頼って曝け出す、彼女にとって飲みの場は弱みだった。
女性陣を見送った男達に、吉田部長が提案する。
「さて! たまには男だけで飲み明かそうじゃないですか!」
「ふっ……吉田にしては珍しいな」
「あ、いい場所知ってるんで付いて来て下さい!」
「輝親殿、嬉しそうですな」
「そうだな……いい後輩をもったな」
後輩の後ろ姿を眺める吉田部長にジーザスは、これなら和み同好会を去っても大丈夫だと、安心する。
そして先輩が後輩へ、その後輩が更に後輩へと繋いで行けると。
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