第26話覆面と運命

 自宅で怠惰ライフを謳歌する怜、バレンタインチョコをおやつにゲームに没頭。

 至福の一時に美少女オーラ全開、扉から覗き見するロゼも幸せに。


「ふんふふふ~ん♪ プリン味のチョコなんて、粋な事するよな~最高だぜ!」


 ローディング中にスマホイジリ、秋葉っぱらニュースで色々と情報収集。フィギュアの入荷情報、ソフトのセール、店舗特典その他諸々を眺める。最新トピックが更新され、気になるタイトルに指が止まる。


「覆面女子ゲーマー・つぼみぃ? どんなもんよ……」


 新星の如く秋葉っぱらに現れた蕾、高貴な佇まいに高等テクニック、覆面越しから感じる美しいオーラ。ゲーセンを転々としゲーマー狩り、ファンも着々に増加中。グッズ販売や歌手活動、サイン会まで開かれるアイドル並みの人気。


「ふーん……お、画像あんじゃん」


 ゲームキャラの覆面、男受けを狙った乳袋の衣服、写り慣れたポーズはあざとい。ぷるぷる震える小さな手、見入る眼には怒りが宿っていた。


「ぺ、ぺティーたその覆面だと……嫁をぞんざいに扱うなんて許せねぇ……討ち入りじゃ!」

「にゃぎゃ! ひぃいいい!」


 扉攻撃がおでこにクリーンヒット、涙目でのた打ち回るロゼ。我が道を行く同居人は気にもせず、庭も同然な秋葉っぱらへ。


「なぁ、覆面ゲーマ蕾がどこにいるか知ってるか?」

「天使! じゃなくて怜殿か。ゲーマ蕾だったら南通りのZEGAにいるってさ」

「サンキュー! またな同志よ!」


 ZEGA前には既に人だかり、中心人物は言わずとも覆面ゲーマ蕾。


「妾に屈服せよ!」

「ははぁー!」


 挑戦者を配下にし、取り巻きを増やした蕾。画像と同様の覆面、怜は嫁の敵討ちに立ち向かう。


「さてさて……次の相手は誰でしょうか? 妾を心行くまで楽しませて下さる方は?」

「ここにいるぜ」

「ほぉ……」


 軽く見下される身長差、横からハッキリ分かる胸囲の格差、しかし眼力だけは誰にも負けない。ギャラリーの大半が蕾ファン、一握りの同志は懸命に怜を激励。


「ゲームはアンタに決めさせてやる」

「では、アウトローファイティングで」


 数十年愛され続ける格ゲーのアウトローファイティング通称アウファイ。両者の台を囲うギャラリー、むさくるしい声が店内に響く。


「チャンスは一度きり……よろしいですね?」

「あぁ。アンタが負けたら覆面取れ」

「貴方が負けた場合は?」

頭諂こうべへつらって様付けしてやるよ」

「ふふ……楽しみにしてます」


 結果は蕾が瞬殺され、ギャラリーも開いた口が塞がらない。


「わ、妾が負けるなんて……」

「口ほどでもねぇな」


 蝶のように舞い、蜂のように刺すプレイスタイルから名付けられた異名キラークイーン。秋葉っぱらで柳家怜を知る者は口を揃えて言う、キラークイーンに目を付けられるなと。


「貪欲に勝ちを求め続けるのもいい。ソロで自分磨きでもいい。とにかくゲームで縛られる事はねぇよ」

「くぅ……」

「ただし……ぺティーたそをダシに使う奴に容赦はしねぇ」


 本気の気迫、尻モチ着いた蕾は敗北を認めた。


「……約束通り覆面は引退します……」


 覆面をシュルシュル解き、美しい青髪がサラっと腰まで流れる。猫目の両目に泣きぼくろ、美少女として十分に通じる顔面偏差値。


「なんだよ。そのまんまでも可愛いじゃねぇか。なぁ、お前ら?」

「「「YES! マム!」」」


 一致団結するギャラリー、キラークイーンだと知るや否や簡単に手のひら返し。無事ミッションを終えた怜、蕾の前で屈みニカっと笑う。


「何時でも相手してやんよ。またな」

「あ……」


 数十分も満たない怒涛の出来事、放心状態の蕾は心から満たされていた。胸の内に生まれた感じた事のない気持ち、これが愛、そしてあの人が運命の人なのだと。


 翌日、昨日の爽快感で熟睡できた怜、鼻歌交じりの軽やかステップでリビングへ。


「ふんふふふ~ん~♪ はよーロゼ」

「あ、おはようございマス! 朝食にシマス? 朝シャワーにシマス? それとも~ワタシとイチャコラでスカ?」

「シャワー……ちょっと待て」

「何デス?」


 目が一気に覚めるぐらいの光景、ソファーで静々座る青髪美少女が映ったのだ。


「……なんで蕾が家にいやがる」

「子猫の様にねだられたノデ!」

「お邪魔してます!」

「はぁ……何飲む」

「怜様に頂けるものなら何でも構いません! はぁはぁはぁ……」


 ソワソワと息を荒立て、頬を染める蕾、猫目の奥にはハートが宿る。淹れたてホカホのココアを貰い、幸せそうにコクコクと流し込む。


「で、何か用なのか?」

「寝起きのご尊顔を拝みたくて訪問しました!」

「……そんだけ?」

「はい!」

「……」


 どこで住所を入手したかは定かではないが、用件が済めば無害であろうと勝手に思い込む。ココアを飲み干し、礼儀正しく一言添え帰って行った蕾。


 翌日、空きの隣室で引っ越し業者が搬入作業、何となく頭の隅に置き日常を過ごす怜達。


「時期的に中途半端だよなーほっほっほ!」

「お尻がプリプリ動いてマスヨ~えい!」

「鷲掴みすんな」

「小ぶりでも柔くて気持ちいいデスね~」

「やーめー……ノック音しなかったか?」

「あ、お隣さんかもデスヨ?」

「挨拶か。しゃ、行って来るわ」

「あ~怜のお尻~」


 近所付き合いは大事、それなりに身形を整え、好印象を与えたいがために美少女オーラ全開で迎える。


「隣に越してきた兎良瀬うらせ蕾です♪ これ挨拶代わりですが♪」

「……マジか」

「では、荷解きがあるので失礼します♪」


 そっ閉じされた扉、最後の最後までニコニコ笑顔を見せていた蕾。背筋がムズムズと違和感を覚え、手渡された代物を拝見。

 使用済み下着、きわどい生写真、LINSIDに実家住所諸々の個人情報、極めつけは怜と蕾のコラージュ集。


「怖ぇよ!」


 底知れぬ恐怖を覚え、大好きなゲームが手付かずになった怜だった。


 とある日の外出、ロゼの買い物に付き合い、1人でトイレを済ます怜。


「ペーパー切れてやがる……どうしたもんか……」

「あの……隣のものですが、上からお渡ししますよ?」

「あ、助かります」


 世の中捨てたもんじゃないと綻びつつ、スッキリした顔で手洗い。


「ペーパー受け取って貰いましたか?」

「あ、さっきはどう……」

「偶然ですね♪ 怜様ぁ♪」

「ひぃ!?」


 また別の日、自宅でお気にのオンプレを楽しんでいた。先日の恐怖を晴らす程、とてもご機嫌であった。


「ふぅ? 何かイイ事あったんデスカ?」

「いや~フレンドと相性が良くてよ~難関クエも余裕って訳よ~♪」

「よかったデスネ! ワタシとの相性も抜群ですヨネ!」

「お、チャットだ!」

「もう~怜のいけず~」


 薄着エプロン姿で昼食作りのロゼ、スキンシップを取れずに可愛らしく拗ねる。


《今度の日曜、秋葉っぱらのゴストでオフ会などいかがですか?》

「おぉいいじゃん。喜んで、っと」

《ありがとうございます。楽しみにお待ちしてます、怜様ぁ♪》

「お前かよ!」


 もはやストーカーとも差し支えない行動、これ以上悪化するのなら一括せねばならない。

 扉をノックする前に開かれ、期待の眼差しの蕾が距離感を縮める。


「事前オフ会ですね! 2人だけの! えぇ勿論構いません! むしろウェルカムです!」

「ち、近いっての!」

「ひゃん! お、お胸を押し揉まれ幸せ♪」

「揉んでねぇよ。いいか蕾、適切な関係を築きたいならストーカー染みた行動はやめろ」

「それは命令ですか?」

「……あぁ」

「怜様のご命令とあらば、この兎良瀬蕾は従います!」


 ビシッと敬礼を決めた蕾、本当に理解してるかどうか不明だがストーカーは解決した。


「って事があったんだ」

《だ、大丈夫なの?》

「まぁ大丈夫。もはや狂気の領域だけどな」


 奈南にLINS電話で愚痴零し、自分を頼ってくれることに内心嬉しさ爆発な奈南。しかしながら隣人がストーカーもどきなのは頂けない、大事で大切な友人にもしもの時があれば手遅れ。

 ならば対策を練らなければいけない、使命感に駆られ勇気を振り絞る。


《うー……心配だから泊りに行ってもいい?》

「泊り? いいけど、いつ来る?」

《今は?》

「おぅ、いいぜ」

《全速力で向かうね!》


 一方的に切られ若干引き気味な怜、何かと心強い奈南が味方になれば蕾もどうにかなる。期待に胸膨らませゲームで時間潰し、数時間後インターフォンが鳴り、ノック音に陽気に向かう。


「来たな」

「大丈夫なの怜? 何もされてない?」

「ば! アイツに聞こえたらどうす……」

「お出掛けになるのですか怜様!」


 玄関前で鉢合わせ、この場で全てが決まると固唾を飲む。


「蕾ちゃん?」

「奈南お姉ちゃん!」

「は? ちょっとどうなってる!?」


 抱き合う2人に冷や汗ダラダラな怜、呼び名からして関係性は当然限られる。


「どうもこうも幼馴染だよ? ねー?」

「そうなんでふ~な、奈南お姉ちゃんのお胸、最高でふ~……」


 事実を知り言葉を失った怜、混ぜたら危険な2人が元々混ざっていた。お泊り会は予定通り実行、ロゼの百合本ネタにされるのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る