第27話ペットと戯れ

 怜宅にて、とある訪問者がココアを啜り本題を切り出していた。


「ペットを飼いたい?」

「そうなんす! 今日知り合いのショップに行くんで、一緒にいかがっすか?」

「そんために来たんだろ?」

「えへへ~どうっすか?」

「おぅ、もちオッケー。ロゼも来るか?」

「行きマス!」


 犬猫アレルギー持ちの奈南は今回お休み。

 涙目ながらのLINSスタンプが連打で送られて来る。

 紫音もまた私用で旅行中であり、友人らも用事があり、美影・怜・ロゼの3名で向かう事になったのだ。


「あの……怜の姐さん」

「んぁ?」

「後ろに隠れてるアイツ……誰っすか?」

「……やばい奴」

「蕾ちゃんも一緒に行きまショウ!」


 ギリギリストーカーもどきに留まっている蕾、駆け寄る姿は尻尾を振る雌犬だ。


 隣県へと訪れ、道行く人々は美しき4人組に目を奪われていた。


「あ、見えました! アチラになりやす!」

「へぇ~結構立派なとこじゃん」

「お邪魔するデース!」


 店内では多種の犬猫、兎やモルモット、数多くの小動物や魚まで揃うオールマイティー。

 かなりの賑わいを見せ、客の顔も幸せに溢れかえっていた。

 言わずとも可愛いが大好きな美影は、ハートをぽわぽわ出して興奮する。


「いらっしゃいませ」

「あ、どう……ん? 旅館の女将さんじゃん」

「お久しぶりです皆様、変わらずの美しさに酔い痴れます。じゅるり」

「涎啜るなよ、紗綾姉」


 動物好きが高じて経営者側となった、美影の姉従妹の唐沢紗綾。

 動物を愛し、接客・質・価格・総合的な評価をキープする心掛け。

 評判が評判を呼び、他県から足を運ぶ人々が絶えない人気店である。

 紗綾の美貌でも注目を浴び、取材も度々されるほどであった。


「で、お目当てはいんのか?」

「一緒に決めて貰いたくて……ダメっすか?」

「おぅ、上目遣いとはやりやがるな。じゃ、決めるか」

「は、はい!」


 各々がショップ内を巡り、動物と眺めたり触れ合ったりする。

 美影のGカップに包まれる子犬、綺麗な小魚を目で追うロゼ。

 遊び道具やらを眺める興味津々な怜。

 あわよくばその道具で弄んで欲しいと望む蕾。


「どうです美影。いい子はいましたか?」

「迷いまくりで大困惑中。紗綾姉のおすすめはどれよ」

「プードルとかどうです?」


 ケース越しに甘えるプードルにキュンキュンな美影。

 早速愛娘のように抱える。


 一方、蕾が兎を愛でる姿に、案外可愛らしい一面もあるのだと怜が関心する。


「蕾は兎が好きなのか?」

「はい♪ 兎は1羽だけだと寂しさのあまり死んでしまう……妾も同じなんです! 怜様♪」

「人参でも食ってろ」

「辛辣な怜様もス・テ・キ♪」

「もはや病気デスネ」


 年中発情してると言われる兎。

 蕾自身も該当するのではないかと思われる。

 これ以上面倒は勘弁だと、そっと逃げた怜だった。

 そのまま、ぶらぶら店内を眺める怜は、1匹の子猫と目が合う。

 ふわっふわの黒い毛並みを揺らし、短い手足で近寄りミャーミャー鳴く。


「お前……そんな目で見てもダメだぞ」


 大きな愛くるしい瞳、ぴょこぴょこ動くヒゲ、まるで人じゃらし。


「ダメだ」


 ケースを出ようとピンク肉球と、ほにょほにょお腹を見せつける。


「だ、ダメだ」


 ぺむぺむと出せ出せ催促、小ぶりな尻尾が喜びに満ちている。


「さーせん。この子抱かせて下さい」


 温い体温と柔らかな感触、すりすりと頬擦りの子猫であった。


「お前は小悪魔子猫だにゃ~ほれほれ~」


 顎下をこしょこしょ撫でる姿、自然と語尾が猫語になっている怜だった。


 眼福なる光景に客は惚け、膝から崩れ落ちる美影。

 ギリギリ自制心を保ち、スマホで動画撮影をするのだった。


「お前は今日からサタッペだ!」

「ミャー」

「お気に召しましたか? はぁはぁはぁ……パシャパシャ」

「めっちゃ気に入りました! けど、中々の値っすね」


 人気種な上、子猫は優にうん十万。

 諸々を一式揃えるとなれば増し増し。

 お財布事情を考えれば、今は眺めるだけとなる。

 無垢なる鳴き声に手放したくない怜に、心綻ぶ紗綾がとあるwinwin案を口にする。


「怜さん。猫耳コスプレで撮影させて貰えれば、特別割引きさせて頂きますよ」


 スマホ電卓を見せ、割引価格を目視。

 若干の趣味出費を控えれば、支障がない価格であった。

 そして目を煌めかせ、紗綾へサタッペを託す。


「マジで助かります! 現ナマ速攻で下ろして来るっす!」

「怜怜~」

「おぅ! どしたロゼ?」

「ワタシ達のマンション、ペット禁止デスヨ?」

「……え?」

「騒音と臭いでの近所トラブルを避けたい方針だそうデス」


 開いた口が塞がらない怜を、何も理解していないサタッペは純粋な眼で見つめる。

 既に心奪われてしまった怜。

 心を鬼にし、ケースへと優しく戻していた。


「……サタッペ……お前に相応しい飼い主がいるといいな」

「ミャー」

「くっ……さよなら!」

「そっち非常口デスヨーあ、戻ってきまシタ」


 ケース越しに見つめ合い、べったりと心通じ合う1人と1匹。

 しゅんとテンションが下がる怜の姿に、周りの空気もどことなく寂し気に。


 後輩らもどうにかできないかと悩む中、蕾が美影へと近付いていた。


「金髪さん」

「あ?」

「妾に良案があります」


 こしょこしょ耳打ち、良案を快諾し実行する。


「れ、怜の姐さん! アタシがこの子を飼います!」

「美影……気を使ってるなら無理すんな」

「い、いえ! とりあえず話を聞いて下さい」


 美影が飼う事により、怜が遊びに来ればサタッペに会える。

 美影もペットを飼え、怜とも会えるwinwinな案だった。

 しかも諸々の一式は、何故か蕾が買い揃えてくれると。

 しかしながら蕾の愛があるとはいえ、何故ここまでするのか美影と本人しか知らない。


♢♢♢♢


 数日後、美影宅に遊びに来た怜、勿論目的は1つだった。


「サタッペに会いに来た」

「どうぞどうぞ! お上がり下さい!」

「邪魔するぜ」


 崇拝する怜が自宅が来るとの事で、お洒落着にハイグレードのシャンプーやエステなどなど、自分磨きに時間を掛けた美影。

 一方、ウキウキと心躍らせる怜は、特に美影への関心はなかった。


「おーサタッペ! お前から擦り寄って来るなんて……可愛いにゃ~」

「ミャー」

「お、お茶菓子持ってくるんで! 座って待ってて下さい!」


 ふかふかソファーで子猫と戯れる姿は最高の美少女そのもの。

 鼻つっぺをする美影が茶菓子を持ち戻る。


「立派に首輪も付けて~すっかり美影のペットかにゃ~?」

「ミャー」

「蕾に感謝するんだぞ~? このこの~」

「が、がわいい……」


 幸せな時間に包まれる空間だが、ここ以外にも幸福に浸る者がいた。


「うへへへ……れ、怜しゃまのご尊顔が画面いっぱいに……じゅるり……おかずには最高です……」


 兎良瀬蕾その人であった。

 勿論美影宅にはおらず、自宅でのんびりしている。

 にもかかわらず、現在進行形で怜の様子を眺め、ベタベタに酔い痴れていた。


 真相は至ってシンプル。

 彼女がサタッペの諸々一式揃えたことにある。

 サタッペの首輪、あれは高解像度小型カメラが内臓されているのだった。

 美影には生実況のデータを渡すことで了承済み、これが彼女らの良案なのだった。


「は! れ、怜しゃまのお胸元に潜り込んで! ほほーん……今日は赤色ですか……ふむふむ」


 怜観察専用ノートに下着の色を書き殴る。

 全てを知りたがりたい変態行為であった。


 《トイレ行くから探検はお預けだにゃ~》

 《ミャー》

 《いい子だにゃ~美影、トイレは?》

 《リビング出て、右の突き当りっす!》

 《おぅ。待ってるんだにゃ~》


 遠ざかる最愛の人。

 扉の締まる音と共に、美影の顔が映り、通話機能をオンにする。


 《……蕾。何か要望はあるか》

「要望ですか……サタッペ様にしか出来ない事が好ましいですね……」

 《猫にしか出来ない事……あ》


 良案に耳を傾ける美影、とてもお手軽なブツがあると。

 早速準備に取り掛かり、ナイスなタイミングでハミングを奏でる怜が戻る。


「ふぅ~スッキリスッキリ……ん? サタッペは?」

「段ボール箱の中っす!」


 ズモっと隙間から顔を見せたサタッペ。

 この一撃に怜のハートは撃ち抜かれた。

 猫じゃらしを揺らされ、手をペシペシさせ遊ぶサタッペ。

 メロメロ美少女を余すことなく楽しむ蕾。

 言うなれば画面越しの狂気。


「おほほ~ほれほれ~翻弄されてるにゃ~」

「サタッペ……マジでナイスだぜ……」

 《はぁ……はぁ……はぁ……》

「ん? 何か聞こえねぇか?」

「ぅ?! き、気のせいじゃないっすか?」

「そうか? ほーれほれ~こっちがいいんか~?」


 通話機能を切るのを忘れる凡ミスを犯すも、結果的にバレずに済み、お互い尊い時間を余すことなく楽しんだのだった。

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