第18話外出と招待

 ゴールデンウイーク早々、古賀峰宅では慌しくバタついていた。

 理由は1つ、従妹兄弟が泊まり込みで遊びに来るからだ。


「あとで買い出しとー……えっとえっと……」

「あ。来たみたい」

「にゃ、にゃに!」


 玄関外には見知った眠気眼の美女、従姉の雅がいた。

 ラフな姿でも絵になる美貌は健全である。


「おはよ雅ちゃん! 遠くからお疲れ様!」

「ヤァ~……おはべぇほ」

「来たぜ! 奈南姉!」

「来たぜ!」

「寿っちゃん! こーっぺ! よく来たね!」


 やんちゃ従兄弟寿太郎&小次郎コンビの、興奮冷めやらぬツインタックルの犠牲となった雅。

 地面の冷たさに心地良さを感じ、眠りに着こうとするマイペースっぷりだ。 


「危ないよ、みや姉」

「ん~ありがと月乃~……」

「あと服が後ろ前だよ」

「おぉ~……通りで息苦しいのか~……」


 人目も気にせず脱衣からの着直し、天然の行動は常に先が見えない。

 雅は今回の発案者であり、見守り役に自らが名乗り出たが、執筆活動のズル休みの口実に過ぎなかった。 


「デケェ! 家ん中広ぇ!」

「うぉおおお!」

 

 ウキウキが止まらず、リュックをほっぽり家中を駆け回り、元気ターボ全開。

 瞳は宝石のように輝きを放ち、見るもの全てが刺激物だった。 


「寿っちゃん! こーっぺ! うがい手洗いしなさーい!」


 即興の鬼ごっこが始まるも、奈々にとって自宅はホームグラウンドだ。


「つー……かまえた!」

「ギャア!」

「に、兄ちゃん!」

「ふっふっふ……寿っちゃんを解放してほしければ、うがい手洗いしなさい!」

「ぐっ……」


 頭部に極上メロンを乗せるホールド。

 元横綱の実力を知る者は2人に成す術無し。


 仲良くうがい手洗い後、おやつタイムになった。


「うめぇ! ホームシックになるぜ!」

「おぉ! 英語だ! 兄ちゃんは何でも知ってるな!」

「ホームステイじゃない?」

「ツッキーはもっと物知りだな!」

「かっけー!」


 菓子カスを取って貰い、更に上機嫌。

 元気なテンション爆発は、子供だけの特権だ。 


「食った食った! 遊ぶぜ遊ぶぜ!」

「沢山冒険してぇ!」

「冒険ねー……じゃあ皆でお出かけしようか!」

「マジか! 奈南姉! 行く行く行く!」

「ひゃっふー!」


 底なしの喜びは踊りとなって現れ、ほっこりと微笑ましく眺める奈々。


「みや姉は?」

「すぴー……すぴー……」

「……留守番かな」


 雅の惰眠おでこに書き置きを張り付け、4人で新宿原へと向かう。


「だ、大都市……か、敵わねぇ……」

「に、兄ちゃん! 人がキラキラしてる! 怖ぇ……」

「びっくりしちゃったのかな?」

「だね。とりあえずタピオカでも体験してもらう?」

「うん! 早速レッツゴー!」


 初のタピオカミルクティーと対面する従兄弟。

 こわばった表情でタピオカを凝視してる。


「……あれの卵じゃん……食えるのか?」

「兄ちゃん……スイカの種と一緒だ……飲み込んだら育っちゃうやつ……」

「ひぃ!?」


 田舎坊主にはタピオカは未知の領域。

 何も知らなければ、それは大蛙の卵にも見える。


「んー! とーっても美味しいよ?」

「甘いし好きだと思うよ」

「……これを乗り越えなきゃならんのか……」

「兄ちゃん……うぅ……」


 タピオカミルクティーを決死の覚悟で一口。

 甘過ぎないミルクティーに面白食感のタピオカに、目を大きく見開く。

  

「う、うめぇ! 何だこれ! 最強じゃん!」

「都会……怖……ズズズ……」


 嬉しさのあまり飲み続ける寿太郎、未だ恐怖心と戦う小次郎。

 都会の洗礼はまだまだ続き、入念にプランを企てた奈南はドンと胸を張り、雌フェロモンに反応したモブらが周囲をキョロキョロする。


「次はラウハンだね!」

「「ラウハン?」」


 ラウンドハンドレッド、通称ラウハンはアクティビティー施設だ。

 数十種類もの充実したアクティビティの数々、若年層からの人気はかなりエグイのだ。


「夢だ! 夢が沢山あるぞ!」

「うぉおおおお!」


 ましてや従兄弟には冒険物語のような世界だ。

 縦横無尽に走り出す姿は、駆け出し冒険者そのものだ。


「凄い興奮だったね」

「うん。きっと帰ったら爆睡するね」


 うずうず態度に視線先がトランポリンワールド。

 行きたがりオーラがこれ見よがし溢れ、私欲が非常に分かり易い。


「2人は見てるから行ってきなよ」

「いいの! ぴゃー!」


 子供顔負けの興奮っぷり、床一面のトランポリンで浮遊感を楽しみ、跳ねる度に連動するメロンに釘付けなモブ。


「いい……運動……だね! はぁ……はぁ……」


 艶かしい吐息と肌を伝う汗、放たれるもの全てが色香を持つ天然刺激香料だ。


「あー! 奈南姉飛んでやがる!」

「行くぞ皆! 元横綱を捕まえに行くぞ!」

「わ!? 多くない!?」


 子供集団を引き連れトランポリン鬼ごっこ。

 アクティビティ施設を網羅する勢いで遊び尽くすのだった。


 2時間キッチリ遊びきり、ファミレスゴストで少し遅めの昼食を頂いていた。


「肉うま! 最高かよ!」

「ここに住みてぇ! あむあむ!」

「慌てないでよく噛んでね」

「つーくんのポテト貰っちゃえ! あむ!」


 昼食後もブラブラと遊び歩き、時刻はすっかり夕暮れ時。

 満足気分で帰宅し、ソファーで惰眠を続ける雅に動きは無かった。


「起きろ! 寝坊助雅!」

「小次郎ダイブ!」

「うぇし」


 容赦ないダイブの目覚まし、涎・寝癖・眠気眼のスリーセットは当たり前だった。


「ここは~……夢かな……」

「起きろ起きろ起きろ!」

「いたたた……起きたからやめて~……」


 ぼさぼさの寝癖髪がふわふわ揺れ、お土産のお菓子で数時間ぶりの栄養摂取。


「出前7時に来るって」

「じゃあ先にお風呂入っちゃおっか!」

「出前はなんだ! 教えろツッキー!」

「教えろ! 教えろ!」

「んぁー……んぁー……揺らさないで~……」


 先に女性陣が入る事になり、脱衣所で裸を晒し合う。


「……また大きくなってない~……?」

「そうなんだよねー……買い直すのも一苦労だよ」

「あらあら~……えいえい……」

「く、くすぐったいよ!」


 あらゆる柔肌を指先で堪能、ほくほくと心が潤う。

 自分自身も負けじ劣らずの立派な体だが、やはり自身では感触は分からないものだ。


「も、もう……雅ちゃんのえっち!」

「あはは~……下着はどうしちゃうの?」

「捨てるしかー……ねぇ、雅ちゃんのサイズは?」

「Iだよー……」

「……いる?」

「いるいるー……奈南のおさがりー……」


 基本衣類関係に無頓着、着れれば何でも平気なタイプであった。

 仲良く湯船へ浸かり、柔肌が同士が接触し合い、より繊細な温もりを堪能する。


「お風呂って楽だよね~……」

「うん……そうだね~……」


 立派なメロン4つが浮遊、本人らにとっては柔らかい重りから、一時の解放だった。

 風呂上がりに飲む牛乳は格別であり、立派に育つ理由が垣間見える。


「ぷふぁ! うまい!」

「ねー……うまうまー……」

「あ、出前来たみたい! 行って来るね!」

「んー……ん~?」

 

 何か言葉が出かかるもすぐに忘れ、残りの牛乳をゆっくりじっくり味わう。


「こんばんは! 出前にあが……?!」

「お疲れ様です! あ、これ代金です!」

「あ……は、はい……確かに……」

 

 出前のお兄さんが赤面で代金を確認後、カチコチな動きで一礼し激走。


「ありがとうございましたー! ふふーふーん~♪」


 自身が湯上りバスタオル姿なのを忘れる程、出前に夢中な天然な奈々。

 男性陣も風呂から上がり、早速夕食の時間に。


「寿司か! たまごはあるか!」

「兄ちゃん! でっかいのがあったぞ!」

「飯から飛び出てる! デカ過ぎ!」

「さ! 食べよっか! いただきまーす!」

「「いただきます!」」

「いただきます」

「ますー……ガリ美味しい」


 それぞれが好みの寿司を食し、大満足な夕食を楽しむ。

 トランプやらゲーム、ごっこ遊びで疲れ果て。寿太郎と小次郎は半分眠掛け状態になっていた。


「寿太郎、小次郎。そろそろ寝よっか」

「だな! おやすみ! また明日なー!」

「明日ー!」

「おやすみ!」

「すぴー……すぴー……」


 各自就寝に着き、あっという間に翌朝。

 一番乗りは寝坊助、雅。

 外の空気を吸いに玄関外で深呼吸する。


「んー……意外に静かだね~……ふぁ」


 大あくびのままうろ覚えラジオ体操。

 ふにゃふにゃでやる気を感じない。

 

 そんな時、朝練に向かう学生が通り掛かり、何となく挨拶をかます。


「やぁ見知らぬ少年ー……おはようー……」

「お、おはようございます!」


 真っ赤な顔で颯爽と走り去り、微笑ましい視線で見送った。

 何事もなかったかのように朝の陽ざしを存分に浴び、うろ覚えラジオ体操再開する。


「ふぁ~……」

「おはようー雅ちゃん……にゃむにゃむ……」

「おぉー……おは奈南ー……目がまだ寝てるよー……」

「んぁー……」


 頬っぺたムニムニで目覚めたのも束の間、雅の姿に驚愕する。


「み、雅ちゃん? ここで何をしてたの?」

「朝の空気吸いたかったのー……でね、通りすがりの学生君に挨拶もしたよ~……」

「そ、その格好で?」

「ん~……? あれ?」

 

 雅の寝間着姿は、ダルダルシャツにパンツオンリーなのだ。


「あっちの癖でついつい~……へっちょ! ……さむいねー……」

「早く中に入って!」

「おはは~……」


 天然痴女とは恐ろしいものだと、改めて知らされた天然奈々だった。

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