第17話ルームシェアと物色
実家を離れ一人暮らし中の怜。
静寂に近い生活音しかないが、今日は賑やかな物音が行き交う。
「コチラはどこへ?」
「あっちの部屋隅でオナシャス」
「了解です!」
引っ越し業者のお兄さん達が荷物を次々搬入。
勿論荷物の所有者はロゼ・シャルロット。
ポニテとラフな姿で荷物整理中なロゼに、ジャージ姿で搬入先を案内する怜。
ものの1時間で搬入を終え、完了手続きも無事に済む。
「お疲れ様デス! お礼の缶コーヒーデス!」
「おぉ……家宝にします!」
「飲んで下さいネ?」
心が満たされたお兄さん達に冷静なツッコミを送る。
「ありがとうございましたデース!」
「あざっした」
手を振り見送った2人は一息つく。
「フゥー! 今度は開封しないとデスネ!」
「その前に昼飯食うぞ」
「わーい! ちなみに何デスカ?」
「雰囲気だけでもって思って蕎麦の出前だ」
「蕎麦! 盛り蕎麦大盛りがいいデス!」
「はいはい」
届くまでの30分、休憩時間も兼ねてのんびりと過ごす。
リビングソファーで隣同士、親密な距離感でココアを啜る。
「けぷぅ……ルームシェアって聞いた時は驚いたけどよ、広めの部屋で良かったわ」
「ふっふっふ……怜マミーと数年前から事前計画していたのデス! ワタシが日本で怜とルームシェアする前提で! ドヤさ!」
「……策士すぎんだろ」
広めのリビングに別室が2部屋。
学生の一人暮らしには手に余る広さだ。
何もかも想定外すぎる親戚ロゼ。
愛嬌とは裏腹に頭の回転が速い。
出前が届き、天ぷら蕎麦と盛り蕎麦大盛りがローテブルに並ぶ。
仲良くいただきますをして実食。
ちゅるちゅる啜る音と、会話が食卓を包む。
「蕎麦を一丁前に啜るのが目標デス! あむあむ……」
「まずはフォーク卒業からな」
「箸は難しいんデス……あむあむ……」
啜れはしないがチャレンジ精神だけは立派。
食を楽しめるいい子である。
デザートのプリンを堪能後、荷物整理を開始。
段ボールの半数以上は衣類、残りは化粧道具などの小物類だ。
2人掛かりのため荷解きは時短。
30分程で大量の衣類が、衣装棚に収納された。
「あっという間にスッキリデス! とても助かりまシタ!」
「いいって事よ」
「怜は優しくて大好きデス! 幸せハグのプレゼントデス!」
「うげぇ」
ニコニコ笑顔で頬擦りの追加オプション。
動物なら人懐っこい犬だ。
なされるがまま匂いを嗅がれたり、あらゆる部位をソフトに触れられる怜。
「そうデス! せっかくなので怜のプライベートルームを見たいデス!」
「自由にしたら何でも見せてやるから」
「言いまシタネ! 怜はちょろいデス!」
「コイツ……」
羽交い締めのままズルズル引きずられ、仕切りの隣戸をウキウキでスライド。
大型透明ケース内には無数のフィギュア。
本棚には漫画やゲーム関連の書物。
おまけ程度のシングルベッド、布団が雑にめくられたまま。
「おぉー! オタ部屋ってやつデスネ! 最高にイカしてマス!」
「はいはい」
「素直になればいいのですノニ……では物色タイムデース!」
「なー……」
引き出しや衣類棚を好き放題物色。
ロゼが飽きるまで、適当にゲームで時間を潰すことに。
しかし何をするか常に気になり気が気でない。
「WOW! 怜の下着はちっちゃいデス! 可愛らしいデス!」
「パンツを伸ばし見るな」
「いいじゃないデスカ~代わりにワタシの下着を好き放題見ていいですカラ!」
「ふーん……」
やられっぱなしじゃ納得いかない。
足早にロゼの部屋へ突入。
下着収納された場所から、手探り方式で適当に手に取る。
ピンク色のシンプルで可愛らしいブラ、タグにはHの表記。
「どいつもこいつもデカ過ぎだろ……」
「ふぅ? 何か言いまシタ?」
「ただの独り言」
胸にあてがうも、がばがばスカスカな空間になる。
現実は何時も残酷である。
「ニヨニヨ……マッサージするといいと聞きまスヨ?」
「み、見んじゃねぇよ」
「そんなこと言って~Aじゃ物足りないですヨネ?」
Aカップブラをひらひらと見せつけ挑発。
現実を突きつけられ軽く揺らぐ。
「夢……広がりまスヨー……にゅふふ」
「……」
夢、即ち貧乳スレンダーキャラ以外のコスプレをすること。
理想のコスプレ姿を妄想し、思わず口元がにやける。
「2人だけの空間デス……声を出してもノープロブレム……」
「うぉ! ビックリした」
目の前で妖艶な空気を纏うロゼ。
怜の首に手を回し、距離を縮める。
甘い吐息と染まる頬。
軽く見上げる怜も、目を逸らし恥じる。
「今日は休日……時間はたっぷりありマス……」
「お、おぅ」
「人にマッサージされると、効果倍増と聞きマス……にゅふふ」
「やる前提じゃん。ホント策士だな」
「すべてワタシの思惑通りなのデス……さぁ……怜のベッドに行きましょうカ……」
ロゼのなすがまま押し倒され、紅潮した顔を背ける。
雰囲気もそれとなくエロチックに。
ジャージのチャックを下ろされ、黒キャミソールが御開帳。
今すぐ逃げ出したいのに逆らえない。
体は意外に正直な証拠だった。
「ソフトに優しくいきまスネ……」
「手付きがいやらしいな、おい」
「恐れなくていいのデス……ただただワタシに身を任せればいいのデス……」
ぬるぬると指を動かし、胸へと接近するマッサージハンド。
他人に触れさせた経験がない、ましてや相手が昔から知る親戚。
心を許し合えている関係だからこそ恥ずかしさが倍増。
せめて視覚だけでも閉ざしたい。
キュッと目を瞑り覚悟を決めた。
しかし、自ら視覚を閉じた事で、感覚が敏感になる。
このことを忘れていた怜だった。
「ではいきまスネ……」
「……」
胸と手が触れ合うまさにその時、インターフォンが鳴り響く。
我に返った怜は飛び起き、ロゼに頭突きを食らわせ玄関へ。
「よ、よぉ……来たな」
「ロゼちゃんの引っ越しお祝いだもん!」
「サンキューな。まぁ上がってくれ」
「う、うん! おおおおお邪魔します!」
来客の奈南を招き入れたことで、内心ほっと胸を撫で下ろす。
あのままマッサージされてたら戻れなくなっていた。
今となって恐ろしく思い、軽く身震い。
「わぁ……広いね……持て余してたんじゃない?」
「だな。茶とか用意するから座っててくれ」
「うん、ありがと」
キッチンで大好きなココアを作り、冷静さを徐々に取り戻す。
そわそわと室内を見渡し落ち着かない奈南。
ここぞとばかりに室内の香りを嗅覚記憶する。
「そういえばロゼちゃんは?」
「そこで伸びてる」
「ふぇ?」
別室の扉先で脱力した白い長脚。
しかし何故伸びているのだろうかと疑問に思う。
「ほいココア」
「あ、ありがと! あちち……」
そのままロゼを起こしにいった怜。
甘々ココアを飲みつつ観察する奈南。
ぺちぺちと叩く音、すりすりと擦る音、ゆさゆさと衣擦れの音、様々な音を奏でる。
「だーめだ。起きねぇわ」
「あらら……大丈夫なの?」
「勝手に起きるまで放置だな」
「もう……」
隣に座りくつろぐ怜、足の触れ合う距離感に内心ドキドキ。
何か話題を振らないと心在らずになってしまう。
話題探しの視界が行き着いたのは、見慣れぬ格好の怜だった。
「ま、前開けてるなんて珍しいね」
「あ……」
いつもジャージを上まで閉じるスタイル。
今日は白肌と黒キャミソールがまじまじと披露。
恥ずかしそうにチャックを上まで閉じ、ココアを飲み誤魔化す。
そんな可愛いらしい姿に口角がゆるゆる。
平静を装うのが下手な怜だった。
「コホン……アイツ起きるまでゲームするか」
「え、あ! うん!」
モンダンに始まりバトフレを嗜むこと小1時間、可愛い唸り声が耳に入る。
「Oh……オデコが痛いデス……」
「お。起きたな」
「こんにちはロゼちゃん!」
「にゅー……? 奈南ちゃん先輩サンじゃないデスカ!」
パァーと笑顔の花を咲かせペタペタと接近。
背からハグをプレゼント。
ぽわぽわと幸せオーラを出し頬擦り。
眼福の一言である。
「えへへ~くすぐったいよ~」
「ずっと触れられていマス~ぷにゅにゅ~」
「もう~あ、これ引っ越しのお祝い!」
「wow! ありがとうございマス!」
ブランドの紙袋を受け取り、箱の中身を早速拝見。
ネイビー色のワンピースネグリジェであった。
「とってもカワイイネグリジェ!」
「お気に入りのブランドなの!」
「有難うございますデス! 今すぐ着替えるデス!」
臆することなくポイポイと脱衣。
すっぽんぽん姿を晒し、ネグリジェを眺める。
純粋に喜びが溢れる子供のようなロゼ。
体は立派な大人である。
着替え終えると2人の前でクルクル周り見せる。
「どうデス? 似合うデスカ?」
「うん! ロゼちゃんにぴったりマッチしてるよ!」
「単純にエロイな」
駄弁ったりゲームしたりする内に夕暮れ時に。
長居するのも気が引けるので、ここらで退散する事に。
「また遊びに来ていい?」
「おぅ」
「何時でもWelcomeデス!」
「あ、ありがとう! またね!」
2人に見送られ帰路へ赴く奈南は、頭が一杯だった。
怜の黒キャミソールとロゼのネグリジェ姿がもんもんと巡る奈南であった。
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