2章

第16話新学期と新入生

 新たな出会いに胸躍らせる4月。

 真新しい制服の新入生やスーツ姿の新社会人が行き交う。

 緊張と期待に不安な面立ちになるのが大半だが、美しき女性2人を目の当たりし一気に吹き飛ぶ。

 社内や校内にもあんな美人と美少女いるかもしれない。

 お近付きになれる可能性も無くはないと。

 知らず知らずに他人に心の綻びを与えていたのは、仲良く歩く古賀峰奈南と柳家怜であった。


「オリテの後どうすんだ?」

「んー……服見たり適当にぶらぶらかな」

「そうか。一緒に行っていいか?」

「うんうん! 勿論だよ!」


 新学期早々に幸福感に満たされる奈南。

 腕を絡め幸せを共有する。

 特に拒むことなく会話に花咲かす怜。

 1年前の関係が嘘みたいな反応だ。


 友人達と再会し、オリエンテーション後。

 憩いの場である和み同好会へ赴く奈南と怜。 

 別館には新入生を迎え入れる光景が映り、初々しい姿を流し見で見守る。


「お、よっしー部長からだ。早速和み同好会に新入生が入ったらしい」

「ホント? 目と鼻の先だね!」

「おぅ」


 あれやこれやとハードルを上げ、待望のご対面の時。

 後輩に先輩風を吹かせる気満々な怜が先陣を切る。

 その根拠なき自信はどこからくるのか、謎である


「さてさて、どんな奴か楽し……」

「Dear! My! Sister! 怜っぃいいぃ!」

「ふぎゃ?!」

「れ、怜!?」


 開けるや否や、何かが目にも止まらぬ速さで怜を押し倒した。

 怜を余裕で覆い隠す女性の体、ブラウン色のセミボブカット、白シャツとジーパンのシンプル姿。

 何が起きたのか把握に時間を要する。

 この子は怜にとって何のかと。


「5年振りデスネ! ワタシとっても会いたかったデス!」

「っ……ろ、ロゼ……何でお前がいる……うげ……重」


 くねくねと体を動かし喜びを表す謎の子ロゼ。

 現在進行形で下敷きになっている怜は呻き声で助けを求める。

 慌てふためく奈南を筆頭に、駆け寄る後輩2人が救出。

 謎っ子は申し訳なさそうにしょんぼり。


「面目ないデス……」

「別に何ともないし気にすんな」

「うぅ……怜~!」


 翡翠色の混じる蒼眼がうるうる潤い、感情のまま抱き着く。

 明らかに大きなお椀型の胸、余裕で腕を挟み込むキャパシティー、丁度奈南と美影の間ぐらいである。

 たおやかさと活発性の黄金バランスに、誰とでも友達になれるタイプなのは一目瞭然であった。


「とりま紹介するな。こいつは遠目の親戚のロゼ」

「ロゼと言いマス! よろしくお願いデス!」


 続け様に改めて自己紹介するロゼ・シャルロット18歳。

 幼少期から日本文化大好きっ子だ。

 日本語ペラペラで語尾は外国人アピール用、悠長に話すことも容易だと。

 モデルさながらのプロポーションは何度見するほど、女性陣の容姿偏差値が異様に高まる。

 本場の日本を知りたいがため、怜と同じ大学へ留学しに来た有言実行ちゃんであった。


 一通り話し終えると、1つ上の先輩方が先陣を切る。


「外間ヶ丘紫音です。以後お見知りおきを」

「紫音先輩サン! お見知りおきマス!」


 してやったりな顔を見せつけ、あからさまな煽りを美影に向ける。

 言わずとも効果覿面。

 紫音の前へ無理やり割り込みだす。


「ロゼ! この亜咲原美影に何でも頼ってくれよな!」

「頼もしいデス! 美影先輩サン!」

「おぅよ! ……へっ」

「ムカ……コホン……ロゼさん。僕の方が何倍も頼り甲斐があります」

「あぁ? 紫音てめぇ……」


 戯れの前振りを同好会メンバーが察するが、何も知らないロゼだけが慌てて2人の間に割り込む。

 いがみ合いを忘れるぐらいの行動、美影と紫音が気を緩めた隙を見計らい、ロゼが頬キス。 

 プルっと血色の良い唇が離れ、頬に手を触れ赤面する先輩方。


「仲良くなれる特別なおまじないデース! 喧嘩はいけまセン! プンプン!」

「お、おぅ……わ、悪かったよ……」

「い、いいえ……僕も悪気があった訳じゃないので……」

「わー! 今度は美影先輩さんと紫音先輩だけで仲直りのおまじないデス!」

「「え」」


 とんでもない無茶振りに更に赤面。

 うるんだ瞳で見届ける気満々であった。

 もし拒めば、初っ端から新入生との信頼関係に亀裂が生じてしまう。

 いくら何でもあってはならない。


 プレッシャーの空気に根負けし、お互いに頬キスを済ませる。


「これでもう大丈夫デス! 良かった良かった!」

「顔熱ぃ……」

「顔から火が出そうです……」


 部屋隅で仲良く恥ずかしがる先輩達。

 男性陣の紹介後、いよいよ奈南の番に。


「3年の古賀峰奈南です! 怜と同じ学部だよ!」

「とまぁ、こんな感じだ」

「WOW! 素敵なメンバーデス! これからもよろしくお願いしマス!」


 ロゼの元気で明るい姿にほんわかとした空気に包まれる。

 場を和ませるとってもいい子。

 新学期初日に居場所を設けたロゼ。

 だが、和み同好会に近付く新入生は、彼女以外いない。


 何故なら、美人達の巣窟だと情報が拡散済みだからである。

 リア充でさえ中に溶け込むのに勇気がいるのだ。

 そして既に近寄り難く尊い場、というキャンパス内での認識。

 この事実は、和み同好会の女性陣は紫音以外知らない。


「さて、近日中にロゼ殿の歓迎会ですぞ!」

「祝いの席はアタシにお任せ下せぇ!」

「不安しか過らないので僕も手を貸します」

「あぁ? 紫音てめぇ……何かと突っかかってきやがるけどよ、アタシの事好きなのか?」

「何を言い出すと思えば……」

 

 深い溜息で呆れるも、美影をチラ見しポッと頬を染める。


「まぁ……嫌いではないです……」

「あ、え……う、うん……アタシも嫌いじゃねぇ……」


 本音をこぼした両者はチラ見で何度も顔を見合う。

 デレてしまえば可愛いもの。

 微笑ましく胸キュンする奈南の横では、ぽわぽわと幸せオーラを出すロゼ。


「あんな風にワタシも皆さんともっと仲良くなりたいデス!」

「相変わらず天真爛漫だな」


 ポリポリ菓子を食らい眺める怜。

 ロゼなら大丈夫だろうと、安心して見守っていた。


「ソウデス! 明日から怜とルームシェアなのデース! ふんす!」

「へぇーそうな……ん? マジで言ってる?」

「サプライズデース!」

「な、何も聞いてねぇ……」


 ガックリ肩を落とし明らかなテンションダウン、スマホをペムペムいじりだす。

 母親宛てにLINSメッセージを怒涛に送信。

 軽い謝罪スタンプとお小遣いアップの確約文が返ってくる。


「軽いな母さん……」

「怜怜怜~」

「むげぇ……近いっての……」

「いいじゃないデスカ~明日から一つ屋根の下なんデスヨ~?」

「暑苦しい……」

「照れ屋さんも可愛いデスネ! ウフフ~」

「んぁー……柔肉めー……」


 子供をあやす要領で優しく抱擁。

 スベスベな柔肌が怜の半身に触れる。

 これはこれでありだなと、美影達が小さく何度も頷く。

 男性陣は赤べこの如く首を垂れる。


「むぅ……」


 大勢の前で堂々とスキンシップをとるロゼの姿。

 相手が怜だから余計に羨ましい。

 奈南は1人可愛らしく妬いていた。

 後輩達がムービーを撮っていることも知らずに。


「怜の頬っぺたはスベスベでぷにぷ……? どうかしましたか奈南先輩サン?」

「ふぇ? え? あ、何でもないよ!」

「ハハーン~……混ざりたいのデスネ! HEY! Come on!」

「ちょ!? ロゼ!? おま!?」


 囚われた美少女の意志は反映されず、奈南を快く受け入れるロゼ。

 同好会の皆の前では恥ずかしいが、堂々と抱き着けるチャンスは滅多にない。

 答えは有無を言わさずYES。

 チャンスを有効活用するのが奈南のポリシー。


「えい!」

「……デカ共に挟まれた……」


 両脇の美女に挟まれた美少女、温い体温を更に感じる。


「さぁ! 他の先輩サンも!」

「あ、アタシも行くぜ!」

「僕も!」


 追加される美女はそれぞれ前面と背面から抱き着く。

 男性陣は身を引き、静かに眼へ焼き付ける。

 今の室内はカオスそのもの。

 その中心人物である怜は息苦しく耐え凌ぐ。

 貧弱で華奢な体ではコイツらから抜け出せないからだ。


「美女ハーレムとは嬉しい限りですな怜殿!」

「う、嬉しくないっす……うげ……」


 美女の四面楚歌は美少女にとっては柔肉の拷問に過ぎなかった。

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