第15話お泊まりと女子会

 奈南の自室で過ごすことになり、当の本人はお菓子やらを準備するとの事で2人が先に入室。

 香水とも違う不思議なスメル、整理整頓が行き届いた室内、ファッション誌や小物雑貨が置かれたテーブルに本棚、雰囲気からしてThe魅惑の美女部屋と言っても過言ではない。


 しかしベッド上に存在する黒紫色の物体、手に取ったそれは下着であった。


「おぉ! Iカップだってよ! すげぇ!」

「天地の差……」

「見てくれりっちゃん! Iカップアイマスク! アハハ!」

「わ、私もいいですか?」


 スレンダー体型には縁も所縁もないIカップブラで遊び、気分だけでも味わう。

 虚しさの戯れ中、所有者が菓子とジュースを満面の笑みで運んできた。

 数秒の静止後、速やかに自身のブラを回収し収納、ほっぺを膨らませプリプリに。


「もう! 遊んじゃだめだからね!」

「貧乳にも夢を見させろよ」

「そ、そうです! そうです!」


 貧乳同盟によるブラ強奪運動、所有者は頑なに首を横に振り続ける。

 最近Iカップのサイズが合わなくなり、買い替える予定だったとは口が裂けても言えないと。

 確固たる否定により強奪運動は終息、ほのぼのとしたおやつタイムに。


「ん~! やっぱおやつはプリンっしょ!」

「ポッヒーも美味しいよ? あーん」

「食べ過ぎると太りますよ?」

「ポリポリ……不思議な事に腹一杯食っても太らないんだわ」

「私も痩せてからあまり体重増えなくなったような……」

「え」


 いくら食べても太らない体質の怜。

 食べた栄養が胸に行き渡るようになった奈南。

 一般体質の璃子は横っ腹をムニムニ抓み心で泣いた。


 至福のひと時を満喫し、時間も時間になり布団を敷き寝転がる客人達。

 ふかふかの布団が眠気を誘う中、奈南は不敵な笑みを浮かべた。


「ふっふっふ……」

「……急にどうした?」

「今から女子会を開催しまーす! パチパチパチパチ!」

「わぁー! ワクワクします!」

「女子会……実現するんだな」


 しかし女子会初心者である3名だ。

 気分だけは修学旅行の夜。

 つまり恋バナ必須な状況なのだ。

 恋バナの該当者は、勿論あの子だ。


「まず璃子ちゃんから!」

「おぉー!」

「わ、私ですか!?」


 恋愛経験談皆無な奈南と怜は、聞き役に徹する暴挙。

 璃子にとっては意見しにくい環境下だ。

 分かった上で奈南は女子会を設けたのだ。

 私利私欲の為ならば弟達でさえ利用する、悪い姉である。


 観念した璃子は照れ臭そうに話し始める。 新鮮な恋バナに恋愛初心者の2名は、頬を染め顔に自覚無しであった。


「ほぅ……高校卒業まで大人の階段はお預けってことか」

「はぃ……」

「あっという間だよ! ひゅー!」


 体をモジモジさせる璃子に、ニヨニヨ口元が隠し切れない2人は、興味津々に顔を接近させ様子を窺う。


「で、でも……」

「「でも?」」

「私は……何時でも大丈夫なんですけどね……」

「「おぉ……」」

「な、何言ってるんですかね私ったら! わ、忘れて下さい!」


 真っ赤な顔を見せないと、手振りdw隠そうとする。

 そんな璃子の一面に、遠い目をする初心な2人。

 私達には遠い世界だなと、現実逃避するのであった。


「安産祈願のお守り買ってやるからな!」

「数年したら私も伯母さんか……」

「れ、怜さん! 奈南さん!」


 ポカポカと可愛らしく怒る璃子であった。

 そして恋愛初心者達は楽しく笑い、色恋沙汰から遠ざかる一方であった。


♢♢♢♢


 日中の疲れもあり、本日の夜更かし女子会が閉幕となった。


「おやすみー……」

「おやすみなさい……」

「ん」


 久し振りのお泊り会にドキドキな怜は眠れぬが、心地良い空気には変わりない。

 目を瞑り数分後、ベッド上と隣から静かな寝息。

 何だかんだでうつらうつらしてる中、寝返りでベッドから落ちた奈南が目の前に来る。


「ち、近……」

「すぅ……すぅ……」


 息の触れる距離に体温が上がるも、思考がうまく回らない。

 刹那、爆睡する奈南に優しく腕を絡められ、メロンに挟まれる。

 色香漂う高めの温もり、パーツの整った小顔、スベスベモチモチな柔らかな体だ。


「恥……」

「ん~……れぃ……んふふ~……」


 本当は起きているのではないだろうか。

 そんな疑問が過った矢先。

 奈南の美しい顔が更に大接近。

 怜のとある部分へと接触する。


「ひゃん!?」

「あむあむあむ……」

「ちょ、ちょっと何してんだ奈南! んっ! いて!?」

「にゃむにゃむ……」

「り、りっちゃん……足が顔に当たってりゅ……いでで」


 右サイドには抱き着きながら耳を甘噛みする奈南。

 怪力故に抜け出すことは不可能。

 左サイドには、ゲシゲシと動き続ける璃子。 

 身動き取れない怜はサンドバック状態だ。


「こ、コイツら! 寝相悪! いて! ひゃ!?」


 痛みと僅かながらの快感、眠れるはずもなく夜が明けた。

 目覚めの良い奈南と璃子に、一睡も出来ずに疲弊した怜がそこにいた。


「んー……あ、おはよう怜!」

「んにゅ……おはようございましゅ……」

「……」

「? あ、ご飯の準備しないと!」


 ちゃっちゃと着替えを済ませ、自室を飛び出す奈南と璃子の炊事係。

 もっさり頭をもさもさ掻き、束の間の安眠を堪能する怜だった。


 身支度を済ませた来客を見送る古賀峰姉弟。

 奈南がモジモジと怜に近寄り言う。


「怜……ま、また……泊りに来てくれる?」

「遠慮します」

「えぇー!?」


 即答に大声で驚く奈南に、軽く説教する怜と別れを告げ、こうしてお泊り会が幕を閉じた。

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