第14話 おもてなしとお風呂

 急遽決まったお泊りに内心そわそわな怜、腕を絡める奈南は嬉しさが滲む。

 そんな姉の姿に若干距離を置く弟、彼女の璃子は仲睦まじい様子にほっこりであった。


「3階建てか……デカいな」

「そうかな? さ、入って入って!」


 ズイズイ背を押され、自宅へ押し込む奈南。

 早速、夕食準備を璃子とともに勤しむ。

 両親ともに旅行中との事で、お互いに幾分か気持ちが楽ではある。


 一方月乃と怜はリビングのソファーでのんびり、何とも言えない空気だった。


「……弟君は何歳なんだ?」

「18です。月乃でいいですよ」

「分かった。18なら進学と就職、どっちだ?」

「進学ですね。怜さん達とは別大学ですけど」

「ふーん……まぁ、頑張れ」

「ありがとうございます。バトフレします?」

「ん」


 津々浦々と談笑とバトフレに熱中していると、段々と食欲誘う匂いが充満する。

 可愛らしい腹の音が鳴り、若干の赤面を見せる怜であった。


 リビングテーブルに運ばれる手料理の数々、色鮮やかで華やかな夕食だ。


「古賀峰家特製のカレーだよ!」

「10種の山盛りサラダに卵スープ。あとは副菜を何種類か用意しました」

「流石璃子さんと姉さんだね」

「おぉー……大盤振る舞い」


 4人仲良く元気に手を合わせいただきます、もしゃもしゃと舌鼓を打つ。

 柔らかそうな頬がもにもに動く咀嚼、リスを彷彿させる愛らしさの怜に、奈南は頬を染める。

 そして前日から仕込んである特製プリンを食べさせてあげれば、あんなことやこんなことが一緒に出来るのではないかと。

 今回のお泊り会は、事前に怜が泊まることが前提なのだ。

 春休み真っただ中で両親不在の現状。

 送別会とういう名の誘う口実。

 全てを目論んでいた奈南は策士であった。


 夕食の片付けも終わり、腹が満たされほっこりするリビング内だった。


「けぷぅ……見てくれツッキー。中々の腹だろ?」

「沢山食べてましたもんね」


 ぽんぽんの可愛らしい腹を惜しみなく見せ、誇らしげに撫で叩く怜。

 異性に対し、堂々と腹を晒すのはどうかと思うが、月乃を異性として微塵も何とも思わないためノープロブレムであった。


 慎ましい光景を眺めていた奈南は、妊婦を彷彿させる姿に尊さを覚えていた。

 いくら何でも捉え方が変態そのもの。 

 どうしようもない変態天然美女だ。


「ん? 何か鳴ってないか?」

「お風呂の焚けた合図ですよ。お先にどうぞです」

「じゃ、遠慮な……美少女の残り湯は高いぞぉ~?」

「何言ってるんですか」

「アハハ! 冗談だっての」


 弟いじりを楽しむぐらいにリラックスな怜。 

 すっかり古賀峰家に馴染んでいた。


 そんな平和も束の間、お風呂と聞いて反応する女がいる。

 言わずもがな奈南だ。

 お泊り会の醍醐味である同性同士の入浴を、無事に達成出来なければ夜を明かせるはずがない。

 確固たる意を決し、にじり寄る様に怜の前へ立つ。


「れ、怜……わ、私と一緒に……はぁはぁ……は、入ろ?」

「……璃子ー2人で入ろうぜー」

「は、はい!」

「え、あ! ちょっとー……!」


 荒い息と高揚した興奮っぷり、あの姿を見れば一緒に入る事は避けるのが妥当であった。

 ポツンと残された奈南を眺めていた弟。

 2人の判断は正しいと心底思う。


 脱衣所で肌を晒し合う美少女達だが、肩にタオルを掛けた怜の後姿は、オッサンそのものであった。


「おぉー中々に立派な風呂だこと」

「で、ですね……」


 もじもじ照れる璃子を他所に、豪快に体や頭を洗い始める怜。

 黙ってしおらしくすれば絶世の美少女。

 動けばガサツなオッサン。

 それも含めて彼女の持ち味と言えばいいのか、洗う姿に違和感はなかった。


「綺麗……」

「んぁ? 何か言ったか?」

「な、何でもないでしゅ……」


 白くきめ細やかな肌、滑らかな曲線の体躯、思わず見惚れ言葉が漏れる璃子。

 身長差や体型が似てるとはいえ、ここまで別種だと自身の容姿に自信がなくなる。

 軽くへこみながら頭を洗う璃子の姿を、湯船からじっと眺める怜が口開く。


「なぁ、りっちゃん」

「何ですか?」

「ツッキーとの馴れ初め聞かせておくれ」

「ぶぅー?! へぇ?!」

「お姉さん……知りたいなー」


 渾身の美少女スマイルに軽く惚け、口がペラペラとしゃべりだす。

 普段は容姿を利用する事はしないのに、夏祭りや催し物時にここぞとばかりに小ズルく活用するのだった。


 馴れ初めを楽し気に聞き、心がホクホクと綻ぶ怜であった。


「月乃くん……結構鈍感で……中々気づいて貰えなくて……」

「やっぱ似た者姉弟なんだな」

「もぅ……怜さんの意地悪……」


 湯船を口元まで浸かり、照れ臭そうに泡をぶくぶく。

 ぽっと染まる肌が適度に触れ合い、気持ちいい時間が流れる。


 が、家主の娘はまだ諦めていなかった。


「私も入る!」

「うぉビックリした」

「な、奈南しゃん!?」


 戸を勢い良く開くのと連動するバルンと揺れるメロン。

 美しすぎる体に長くしなやかな四肢。

 女神が下界に君臨した景色そのものだ。


 そんな奈南の裸体に呆気にとられる2人だった。


「そ、そんなに見られたら恥ずかしいな……」

「……どエロな体だな、奈南」

「ですね!」

「照れちゃうな~えへへ」


 まんざらでもない反応、自他共に認める肉体は努力のたまもの。

 いそいそと体と髪を洗い、2人の間に割り込むように湯船に浸かる奈南。

 肌が密接し合う距離感だ。

 スベスベのモチモチの肌達と、柔らかなメロンも存分に触れている。


「……こりゃ……やばいな」


 触れ合うだけで病みつきになるメロンの感触、言葉が漏れだすのも無理はない。

 魔性の天然女奈南は怜と一緒に入れたことに幸せ一杯、ぽわぽわと和む浴室であった。


 一方璃子は絶望的な肉体差に愕然ししつ、触れるメロンを肌記憶に擦り付ける。


「んふふ~♪ みんなで入ると気持ちいいね~♪」

「まぁ……狭いけどな」

「……にゅふふ」


 のぼせる前に上がることになった美少女2人、長風呂の奈南は余韻に浸る。

 用意された着替え一式(下着無し)は、2人にとってオーバーサイズだった。


「デカTだな。すぅーすぅーだ」

「恥ずかしいです……」


 もじもじと赤面し恥じらう璃子、当たり前の反応に反しニヤリと悪い顔の怜。


「ほれほれ~」

「み、見えてますよ!」

「見せてんだよ~ほれほれ~」


 バフバフとデガTを仰ぎ、腹下を露出させるセクハラオッサン。

 目元を手で覆い恥じらうも、指の隙間からガン見する眼力。

 本能に抗えない凶器染みた好奇心、芭蕉雲璃子はある意味恐ろしい子である。


 下着類の洗濯乾燥までの待ち時間、リビングで火照った体を涼ませる。

 月乃はこうなる事を見据えて自室へ移動済みだ。

 できる弟は一味違う。


「お待たせー! 洗濯完了だよー!」


 バスタオル姿で衣類を抱えた奈南降臨。

 歩く度に今にも零れそうなメロン。

 天然痴女は乳揺れをものともしない、まさに妖艶の偶像だ。


「はい! 怜の服! こっちは璃子ちゃんのね!」

「おぅ」

「あ、ありがとうございます!」


 受け渡しに接近する際、同じシャンプーとボディーソープなのに、ここまで匂いが違うのか嗅覚が反応。甘美な香りを激しく吸引、ひたすらに嗅覚へと焼き付ける。


「クンクンクンクン……スンスンスンスン……」

「ちょ! 犬!」

「ぷひゃ!」


 強めに小鼻を抓まれ赤くなり、蒼眼で見下される変態奈南。

 反省の色を見せながら、記憶された匂いを大事に保存していた。

 気持ち悪いの一言である。


 冷え冷えな麦茶をみんなで一気飲み、火照った体に染み渡る。

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