最終話 笑顔とありがとう

 本日は奈南と怜の誕生日。

 和み同好会と美影一派らが祝いの席を設けていた。

 サプライズのつもりが、主役の2名が手伝うという謎光景である。

 手伝う理由は至ってシンプル。

 一緒に作り上げる方が楽しそうだから、だ。


「もう少し右デス、奈南ちゃん先輩」

「こ、ここ?」

「STOP! ふむふむ……南半球最高デス~にゅふふ~」

「ろ、ロゼちゃん? 何の話?」


 脚立を支えるロゼが確認するのは、衣服から覗いた下乳。

 滅多にお目にかかれない景色を焼き付ける。

 どうしようもないエロ目線はオッサンと変わらない。


「もう少しキツメでお願いしますわ紫音様」

「いきますよ……せい!」

「あ! い、いぃ感じですわ……こ、これで妾は怜様に受け取って貰えますわ♪ ふへへ……」

「やめた方がいいと思いますが……」


 亀甲縛りで横たわり、ハァハァ息荒立て興奮する蕾。

 自分自身をラッピングしプレゼントする気なのだ。

 重すぎる愛に紫音をもドン引きさせる。


「こっち来んな実葉月ぃいい! ひゃ!」

「し、失礼しました! あ、あれ?! 美影姐さんがいないっす! 視界も暗くて温いっす!」

「あ、アタシの服ん中入んじゃねぇ! ひゃん!」


 卑猥ドジっ子実葉月の餌食になる美影。

 モゾモゾと動かれ体がピクピク反応する。

 引き剥がそうとする度、こんがらがる負の連鎖に陥る。

 くんずほぐれつな光景に一派は、しっかりと脳内へと刻み込むのだった。


「うわ……ドジっ子怖……ん?」


 LINSの新着メッセージを眺め、一気に汗が噴き出す怜。

 キョロキョロと会場内を見渡し、奈南の下へ駆け寄る。


「て、てーへんだ! てーへんだ! てーへんだ!」

「え、江戸っ子? どうしたの怜?」

「ワタシの傍が恋しくなりましタカ? いいですよ~このお胸で良ければ、いくらでもお貸しするデス♪」

「いらん」

「しゅーん……」


 可愛らしい拗ね顔に触れず、再び慌てだす。


「か、母さんが!」

「な、何かあったの!?」

「ここに来る!」

「え」

「もう来てたりしてね♪」

「「!?」」


 音もなく間に割り込んできた黒髪の美女、腰に手をまわし2人を引き寄せる。


「か、母さん……」

「え? こ、この人が?」

「母の小春でーす♪ ロゼちゃんもお久し振り♪」

「ご無沙汰しておりマス!」


 ごく自然に触診を始め、ニッコリ笑顔が更に増す。

 一言で言うならば玄人変態だ。

 何事かと美影らがぞろぞろ集まり、怜を抱きしめる謎の美女に誰しもが疑問符を浮かべる。


「どうも初めまして♪ 怜の母でーす♪ 気軽に小春こはるちゃんって呼んでね♪」

「や、やめろ! 恥ずい恥ずい!」


 未だかつてないほど赤面する怜。

 ジタバタ暴れるも逃げられない。

 柳家小春?歳、怜の母にして瓜二つな美貌と若さ、姉妹と言っても差し支えない。

 が、明らかにプロポーションはロゼや美影と同格。

 きっと娘には遺伝しなかったのだろうと、心の声が満場一致になる。


「黒髪グラマー美女のあなたは……奈南ちゃんね♪ いつも怜から聞いてるよ♪ 奈南ちゃんといると退屈しないって♪」

「わ!? わぁ!?」

「怜……そんな風に思ってたんだね……にゅふふ~……」


 頬を染め幸せに浸り、自身の身体を抱きしめる奈南。


「金髪ショートおっぱいちゃんは……美影ちゃんね♪ 周りに気を配って、とっても頑張り屋さんだって聞いてるよ♪」

「ちょ!?」

「怜の姐さん……アタシ……生まれてきて良かったっす……ぐすん……」


 感激の涙に崩れ落ちる美影、実葉月や一派ももらい泣きする。


「紫音ちゃんはイメチェンしたんだね♪ 趣味を話し合える仲間がいてくれて、会うのが楽しいって聞いてるよ♪」

「ななななな!?」

「怜さん……これからも末永くよろしくお願いします。僕はどこまでも付いて行きます」


 ビシッと英国騎士のように敬礼、ジーンと心に染みた怜の思いを抱く。


「ロゼちゃんはいつも通り可愛いね♪ 一緒に暮らせて安心できるって聞いてるよ♪」

「も、もう……殺してくれ……」

「ワタシも怜といると安心できマス! 今日は一緒に寝まショウネ♪」


 精神的に殺された怜は、実母には敵わないことを改めて知らしめられた。

 後輩らに慰めて貰うも、好機の眼差しと愛で溢れかえっていた。


「そうそう♪ 怜と奈南ちゃんにプレゼントがあるの♪ はい♪ 誕生日おめでとう♪」

「あ、ありがとうございます!」

「……中身なんだよ」

「うふふ♪ 開けてみて♪」


 リボンをシュルシュル解き、怜は最新作のゲームソフト、奈南には謎のフォトブック。

 特に何ともないフォトブックの裏側を見た途端、奈南の眼力が凄まじくなる。


「こ、これは!?」

「母親セレクト♪ 怜のベスト可愛いフォトブックよ♪」

「はぁ!? ちょ! 今すぐ捨てろ!」

「いや! せっかくだし皆で見よう!」

「プロジェクターあるんで、デカいスクリーンで見れますぜ!」


 後輩らの未だかつてない一致団結し、テキパキ準備を開始する。

 母親の羽交い締めにより、眺めることしかできない怜。

 公開処刑までのタイムリミットが刻々と近付く。


「ではこれより! 愛する柳家怜様の母君、小春様セレクトのフォト鑑賞会を開始いたします!」


 会場内が大拍手に大歓声に溢れ、主役の2人は最前列で鑑賞。

 スクリーンに投影された1枚目、それは衝撃的なものだった。


「お、オムツ姿の怜だ! もうコントローラー持ってる!」

「いつもパパのゲーム姿が気になってたのよね♪ コントローラーだけで夢中だったのよ♪」


 赤ん坊から美貌の片鱗が垣間見える素晴らしい1枚。

 早々にダウンするギャラリーもいる程の破壊力だ。


 スライドした2枚目も、それはそれは愛らしいものだった。


「あ、前髪ぱっつんの怜だ! キャワワ~♪」

「小学生の時の若い気の至りよ♪ ゲームキャラに憧れて、自分で切ったらこうなっちゃったのよ♪」


 プルプル震え赤面する本人は、今すぐにでも退場したいのに小春によって封じられている。


「決めポーズの怜だ! 何で眼帯と腕に包帯巻いてるの?」

「中二病って病よ♪ この頃から自作コスプレを始めてね、この写真もそうなのよ♪」

「今すぐデータ消してやる!」

「現物は私しか知らない場所にあるのよ♪ 残念♪」


 ジタバタ必死に立ち去りたいのに、一向に開放してくれない小春なのであった。


♢♢♢♢


 フォト鑑賞会後、ギャラリー達が感動の涙を流し、スタンディングオベーション。

 憔悴しきった怜を嬉しそうに抱きしめる小春。

 どんな者も母には敵わないという事だ。


「いいお友達を持ったね♪ お母さん嬉しいよ♪」

「なぁー……デカ乳で腕挟むなー」

「母の愛は偉大なんだよ♪ おトイレ行ってくるね♪」

「いちいち言うなよ……たく……」


 誕生日会の本番前にもかかわらず、どっと疲れが襲い掛かる怜。

 どたばたと忙しなく会場準備を再開する後輩らを見て、自分は色んな人達に恵まれているのだと、微笑ましく心に染みるのだった。


「ひゃん!?」

「あ、ごめん。極上プリンあったから……」

「首はやめろよ。でもサンキューな」


 可愛らしい声にキュンキュンときめき、隣に座りプリンを食べる奈南。

 フォトブックを眺めながらのプリンは、食が進むのだった。


「なぁ奈南」

「ふぇ? なーに?」

「今思い返せばよ……最初の印象は最悪だったわ」

「フフーン~私もだから、お互い様だよ」

「だろうな。けど、こんな景色を見られるのは、奈南がいてくれたからだ」

「怜……」


 自分が変われたのは奈南のお陰。

 お互いが同じ思いを抱いていた。


「だからよ……私と出会ってくれてありがとうな! 親友!」

「れ、怜ぃいい!」


 喜びの爆発ハグ、きっと2人の絆はずっと続く。

 ハグを返す怜も心から喜んだ。


「んふふ~あ、そうだ!」

「ん? どした?」

「ロゼちゃんから聞いたけど……何かロゼちゃんに教えられないことがあるんだよね?」

「あのお喋り野郎……まぁ……そうだな」

「誰にも言わないから……私にだけ教えて?」

「あー……耳貸せ」

「あっ……ふむふむ……え!? Bにサイズアッぷぁ?!」

「こ、声デカい! 奴らに聞こえでもしたら……」

「れれれれ怜様がBカップにご成長なされましたぁああああ!」


 変態邪教祖蕾による拡散は、会場内へと秒で広まり、どんどん集い始める。


「触診で確かめさせて下さいませぇええ!」

「ば! アタシの胸を鷲掴みしてんの誰だ!」

「わ、ワタシっす! すんません!」

「お、お尻が顔に……誰のですか!」

「Oh! 紫音部長さんでシタカ! どおりで心地良かったわけデスネ!」

「あらあら♪ 皆して楽しそうね♪」


 もみくちゃにされる主役2人は、これからも後輩や友人、色んな人達との笑顔の絶えない日々を送るのだった。

 

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メガネのアイツを見返す為、痩せた件……え? とある農村の村人 @toarunouson

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