第35話トリック・オア・トリートと奇跡
10月末、和み同好会の室内で寄り添う奈南と怜がいた。
「長かった研修も終わって、卒業まで自由か……」
「私もー……でも一気に気が抜けちゃって、体が疲れてだるいんだよねー……」
「分かるわー……動きたくねぇー……」
「ねぇー……」
ゆるんゆるんな空気、まるで長年連れ添ってきた老夫婦である。
仲良くお茶を啜る姿はまさにそれ。
晴れの日の縁側にも見えてくる。
平和な室内を扉の隙間から覗き見する2つの眼、頬を赤く染めていた。
「……どうする。お2人の空間を邪魔するわけにはいかねぇよな?」
「当たり前です……あぁ……尊い……」
「なにしてるデスカ?」
「「ひょ?!」」
息ピッタリで驚いた紫音と美影は、ロゼの格好にも驚く。
童話青ずきんの衣服、絶対領域に谷間を見せるエロずきんだったのだ。
「今日はハロウィンデス! 皆さんも仮装デス!」
「か、仮装か? ふ……アタシらも抜かりねぇよ」
「お見せしましょう……そい!」
アウターを可憐に脱ぎ去り、美影と紫音の仮装姿がお披露目。
黄と紫のコントラスト衣服がトレードな、映画のヴィランキャラ・ホーレクイーンの美影。
海外警察風のミニスカヒールの紫音。
ハイクオリティ且つ美しさを際立たせている。
「お似合いデスネ! で、中に入らないんデス?」
「中見てみな」
「んー? oh! 素晴らしき百合景色! スケッチしないとデスネ!」
「相変わらず速いですね。あら……こんな姿に……」
ロゼに脳内変換された尊い奈南と怜のツーショット。
眺める紫音と美影も頬を染める。
「おはようございます、皆様。入らないのですか?」
「おはようデース! 蕾ちゃん!」
「蕾は……中学生の仮装か?」
「お馬鹿な美影さん、DFのぺティーですよ」
ゆるふわ白髪ウィッグ、白ニーソに赤い学生服。
従来ロリキャラであるぺティーとは違い、胸元やお尻がパツパツ。
丈も足りずに色々と肌が露出。
軽い変癖痴女にも見えなくはない。
「怜様に舐って貰える前提で仮装しましたが、無理がありましたわ……ギチギチで今にも弾けそうです」
「エロイな」
「えぇ、同意です」
「ナイス仮装デス! そんな蕾ちゃんにいいもの見せてあげるデース! さぁさぁ、扉の隙間を見て下サイ♪」
「何かあるですか……こ、これは?! ぶは!」
自ら後方へ吹き飛んだ蕾。
何はともあれ、主要メンバーも揃い、ハロウィン恒例の挨拶で突入する。
「「「「せーの……トリック・オア・トリート! お菓子くれなきゃ悪戯するぞー!」」」」
「んぁー……? 菓子? ……ほらよ」
「ちょっと待ってねー……何かあったかなー……んー……」
怜から気怠く手渡されたチョロルチョコ4つ。
意外に呆気ない反応だが、チョコはその場で貪った。
「まむまむ……怜も奈南ちゃん先輩も、お疲れなのは分かりますが、期待外れなリアクションでシタ」
「ごめんねー……あ、ポッヒーでも良かった?」
それぞれポッヒー小袋を貰い、ポリポリとリスのように完食。
今年のハロウィンはなんだかイマイチな空気。
後輩らが盛り上げようと一致団結する。
「怜様! 妾の仮装はいかがですか? 思う存分舐りたくありませんか?」
「ない。ロリキャラ天使ぺティーたそは、エロ露出女じゃねぇ。乳とケツ削って出直してこい」
「が、ガーン!」
あっけなく撃沈する蕾。
2番手はホーレクイーン美影。
突っ伏してダラダラな奈南の向かい席へ座る。
「奈南の姉貴! 仮装を忘れたのならご安心下さい! この亜咲原美影がご用意しました! しかもアタシとお揃い!」
「な! 抜け駆けですか!」
「へ。早い者勝ちだ、部長さんよ~」
「ぐぬぬ……」
お手製ペアルック仮装はやったもん勝ち、ドヤ顔で更に煽る。
「さぁ! あ、アタシがお手伝い……ゴクリ……して……じゅる……あげるっす!」
「あ、美影ちゃんー……私アウターの下、仮装なんだー……よいしょ……」
するりと脱がれたアウターの先は、ハロウィンであまり見かけない仮装だが、奈南という素材で魅力が数十倍にも増加していた。
つまり女神降臨。
「ちゃ、チャイナ服! ガハ!?」
想像を絶する破壊力、真っ正面から直視した美影は、椅子ごと倒れノックアウト。
涎を流しピクピク痙攣。
ズリズリとロゼらによってリングアウト。
「せ、静寂からの天変地異ですね……はぁ……はぁ……」
「何を言ってるんデス、紫音部長さん」
「お鼻から血が出てますわ」
「助かります……」
「怜も脱いだらー……?」
「おぅー……そうすっかー……」
休憩すら与えずに第二波。
身構える後輩らに対し、前のめりの近距離で焼き付けようとする変態蕾。
はらりと脱がれたアウターの向こう側は自分のもの。
変態の眼力からはそう読み取れる。
圧倒的なスローモーション、彼女の世界だけ別次元。
真の変態とは時間すらも操れるのだ。
「よっとー……自分で言うのもなんだけど、超絶似合ってるんだわ」
「OH! とってもキュートデス♪ すっかり清純派デスネ♪」
「やっぱり怜は何でも似合うねー……好きー……」
「柔肉サンドはやめろー……うぇ……」
「く、黒セーラ服ぅうううう?! はひぃ……」
変態怜マニア兎良瀬蕾、圧倒的怜の黒セーラ服にあっけなく散る。
怜も柔肉サンドに抗うのも面倒だと、好き勝手に挟まれ続ける。
「そういえば輝親さん先輩はいないんデスカ?」
「店がハロウィンキャンペーン中なんだとさ~……」
「あとで皆の写真送ってあげようねー……スンスン」
「だなー……」
単独でも十分な破壊力を持つメンツだ。
束となって写ったらどうなるか。
輝親が出血多量で死ぬ可能性大。
止めてあげないといけないが止める者がいない。
救えない事を残念に思う。
後輩らの復帰後キャンパス内へ。
そこらかしこに仮装の学生、出店はハロウィン仕様だ。
「今年も出店が賑わってるっすね!」
「練乳入りチョコバナナが人気みたいですね。まるでタピオカ店並みの人気です」
「ほぅ……」
「なんで私を見てるの? 怜?」
以前、奈南が起こした練乳入りチョコバナナ事件があったなと、懐かしむ怜だった。
キャンパス内を巡り、出店や催し物を楽しむ一同。
なにをしても絵になる美女集団に、モブらは鼻の下を伸ばす。
が、奈南&怜コンビが今年で卒業と考えるだけで泣けてくるのだった。
どうしようもない。
「あ、美影姐さぁあああん! こちらにいらしたっすね!」
「おぅ、実葉月来てたのか。バニーガールとは強気に出たな」
「ピョンピョンっす! あ」
ヒールなのを忘れてたドジっ子実葉月。
小走ったことで体勢を崩し転倒。
ポロリは当たり前、持っていた数本のチーズチリドッグが宙を飛び、奇跡的に和み同好会の女性陣へ着地。
しかし着地地点が卑猥に思える場所であった。
何があっても卑猥を拡散させる朧実葉月。
恐ろしい子である。
「わ! 胸の間に入っちゃった!? あちち! あわわ! チーズが出て来ちゃった!?」
「いてて……って、どうやったらパンツに挟まんだよ! あちぃわ!」
「ち、チーズが顔に! 熱いデス! あ、美味しい」
「ケハ……きゅ~……」
「み、美影さん……チーズが満遍なく掛かって、どえらいことに……弱みをゲットで……ぼ、僕の手に濃厚チーズが!」
美女達がドジっ子卑猥の犠牲になった中、トラウマが過る者が1人いた。
「ひぃぃい!?」
実葉月と3日間、恐ろしい時間を共にしてきた蕾。
卑猥さよりもトラウマが上回り、気を失う。
「いたた……あ! み、皆さん! 大丈夫っすか!? 生きてるっすか?!」
これがのちにキャンパスへ語り継がれる、チーズチリドッグの奇跡であった。
「たく……ひでぇ目にあったぜ」
「でも、美味しかったよ? もう1本食べたくなっちゃった♪」
「奈南ちゃん先輩は大らかデスネ。お疲れモードは解消デスカ?」
「お腹空いてただけみたい! 疲れたら食べるに限るね!」
「流石元デブ、ポテンシャルが段違いで」
「むぅ……怜には強制的に付き合って貰います! えい!」
腕を絡められても、ズイズイと引っ張られても、怜は嫌な顔をせず無邪気に笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます