第20話フェスとコテージ

 夏日を快適に過ごせるクーラーの効いた部屋、ここは怜とロゼの自宅。

 遊びに来ていた奈南と何やら話し合い中だった。


「野外音楽フェスに?」

「そ。今度の土日にあんだ」

「時期的にまだ早いよね?」

「ここのは大体この時期なんだわ。とりまホームページ見んぞ」


 タブレット端末でフェスを検索する怜、密着するように眺める奈南。

 隣同士にも抵抗がなくなった仲の良さ、ただひたすらに尊い。


「隣県だし交通の便も問題なし。有名どころからマイナーまでオールマイティーなんだよな」

「ふんふん……あ、キャンプ場もある!」

「一応泊り予定なんだけどよ、大丈夫そうか?」


 テントで怜と一緒に過ごす。

 考えただけでポッと顔が赤らむ。

 答えは勿論決まっていた。


「全力で大丈夫! 何があっても行くから!」

「お、おぅ」


 キラキラと純粋な目、詰め寄る距離間に怜も思わず頬が染まる。


「ワタシも混ぜて下サーイ!」

「にゃ!?」

「うぇ」


 2人の背後から抱き寄せ、好き好きスキンシップをとる寝起きのロゼ。

 美少女美女の頬擦りサンドを堪能後、話を聞きウキウキで参加表明するのだった。


「今から待ち遠しいデス! フフ~ンフ~♪」

「ノリノリだね」

「だな」


 フェスの予習として好きなアーティストの有名どころを試聴し合う3人。

 気分が上がった流れでカラオケに向かい、昼食を外食で済ませ街ブラ。

 そのまま怜宅でお泊り会になり、夜通し語り合ったりと楽しんだ。


♢♢♢♢


 フェス当日、早朝から会場行きバスを待つ奈南。

 2人が来るのを今か今かと待ちわびる。


「あ、おはよ! 怜! ロゼちゃん!」

「よ」

「おはようデース……にゃむにゃむ……ふぁ……」


 大あくびで眠気眼をこするロゼ。

 白タンクトップに短パン、ポニテ帽子姿とスポーティーに決めている。

 似たような姿の奈南は、眠気覚ましに頬っぺたムニムニ。

 オーバーサイズシャツとリュックを背負う、帽子姿の怜が眺める。


「うへへ~……気持ちいでシュ~……」

「ほれほれ~」

「人目も気にしろよ」


 フェスに向かうのは3人だけではないのだ。

 周囲は数十人を優に超えているである。

 ようやく現状を理解した奈南、ポッと赤面しもじもじと照れる。


「うへ……? あれ? 何でやめたんデス?」

「察しろよ。目覚めたならいいだろ」

「むぅ……ハ! 今度は怜をぷにぷにしマス!」

「ちょ!?」


 体格差には抗えず好き放題ぷにぷにされる始末。

 周囲の反応は眼福の一言に尽きると一致する。


 フェス行きのバスに乗り込み、指定席で各々時間を過ごす中、菓子を貪る怜が2人にもシェアする。


「ポッヒー食うか?」

「ありがと!」

「食べマース!」


 1本だけ口に加え、そのまま怜の顔へ近付くロゼ。


「な、何してんだ」

「こうやって食べるといいんですヨネ? ん~」

「……」


 実行しているのはポッヒーゲーム、合コンでの王様ゲームが気になり、独自で調べ上げた結果がこれだ。

 周囲の視界はある程度狭まっているも、咥え合う行為のハードルが高すぎると。

 小枝を折る要領で半分取られ、ポッヒーゲームをせずに終わる。


「いけずでスネ……奈南ちゃん・先・輩! ん~」

「ん~! ぱく!」

「うわ。マジでやってやがる」


 息の触れ合う超近距離まで咥え合い、お互いの視線も艶かしいものに。

 固唾を飲み見守る他の乗車客、色めき立つ空気に頬が紅潮する。

 が、奈南がギリギリのところでポッヒーを断ち切り、詰め寄って来たロゼがそのまま頬にキス。


「ん~まっ! にゅふふ……あと少しで唇を奪えましたのに惜しいデス」

「引き際が大事なんだよロゼちゃん」

「何言ってんだか」


 呆れ顔で2人から視線を逸らす怜、仲睦まじい姿に内心微笑んでいたのは本人だけの特権。


 数時間の道のりもあっという間に過ぎ、フェス会場に到着する。


「来たぜ……無地ロックフェス!」

「すっごい人いるね! わぁ……」

「百鬼夜行でスネ!」

「それは違う」


 口を尖らせ可愛らしく拗ねるロゼ。

 宥める奈南に抱擁しスリスリ。

 美少女と美女達に視界が目移りする人々、芸能人とは違うオーラに尊さを覚える。


「美影ちゃん達も来れたら良かったのにね」

「私用にぶち当たっちゃ仕方がねぇよ」

「先輩達の分まで楽しみましょウネ!」

「だね! お土産も買ってこうね!」


 会場受付を済ませ、広大な自然に囲まれた会場内を進む。

 ひとまず身軽になるためキャンプ場へ。

 少し離れた場所のコテージへと入って行く。


「やっぱりいいね! コテージ!」

「値は張ったけどな。手間暇考えたらコッチの方が断然いい」

「ヒノキが芳しいデス! スンスンスンスン!」


 手を仰ぎ凄まじい鼻呼吸、そこらへんの掃除機と変わらない吸引力だ。


 荷物整理後、待ちに待ったフェスの会場へと赴く。


「アウトドア脱毛侯爵だ! 凄いバズってるよね!」

「よく知らんけど、すげぇ名前だな」

「見て下サイ! メンバーのムダ毛処理が完璧デス!」


 太陽に照らされる汗光る肌、メンバーのつるつる具合がこれ見よがしに映る。


 他アーティストも一通り聴き、満足のまま別ステージへ。


「らぶひょん! 私好きなの!」

「おいおい引っ張るな」

「前を陣取るデス! ふんす!」


 新星のごとく現れた若干20歳のシンガーソングライターらぶひょん。

 若年とはかけ離れた哀愁な歌詞とメロディーが人々の心を打つ。


「同じ歳とは思えないな」

「ねー……カッコイイー……」

「木曜サスペンスと相性ピッタリでスネ!」


 様々なステージを巡り聴き、グッズ販売店でお土産と気になったものを購入したのだった。


 時刻は夕暮れ間際、コテージ付近のBBQ場で夕食。

 事前予約でフェスから支給される食材達を早速焼く。

 良い値のする肉に新鮮な夏野菜、まさに最高の一言に尽きる。


「ヒーリングに持って来いなMusic! 大好きな人達との最高のBBQ! とっても満足デス!」

「明日もあんだからな」

「沢山食べて体力付けないとね! ほら焼けたよ!」

「奈南ちゃん先輩は焼き奉行デス! ん~!」


 心行くまで腹を満たした3人。

 食後のデザートに片付けを済ませ、コテージ内の風呂で日中の疲れや汚れを落とす。


「ふぅ……ヒノキ湯最高~……」

「ワタシも一緒に入るデース!」

「お邪魔しまーす!」

「な!」


 奈南とロゼの風呂乱入イベント。

 素っ裸でメロンを揺らし堂々であった。

 体をちゃっちゃと洗い、2人に湯船で挟まれる怜。

 肉々しい感触が両サイドから伝わる。


「狭い……広めだってのに何で密着すんだ」

「女の子同士でスヨ? 一緒に入らないと損じゃないでスカ!」

「うんうん! 心も体も打ち解ける、いい場所でしょ?」

「にしても近いんだよ。柔いデカ乳が嫌味に思えるわ」


 例えるなら山々に囲まれた盆地、それ程までに胸囲の格差は歴然だ。

 自分のと怜のを見比べるロゼ、とあるフォローの言葉が思い浮かぶ。


「ちっぱいは日本の宝デス!」

「日本人に謝れ」

「小さいのも愛嬌あっていいよ? 可愛い服とか下着も着放題だし、むしろ羨ましいよ!」

「うっせー」

「にゅ!?」

「ひゃいん!?」


 たぷんたぷんと上下に激しく揺らされ、こそばゆい快感に浸る奈南とロゼ。


 風呂上がりのジュースは格別、仲良く腰に手を添え王道スタイルで飲み干す。

 早朝の移動からノンストップだった本日、テンションだけでやり過ごす程体力は残っていなかった。


「おやすみデース……にゃむにゃむ……」

「おやすみー……」

「すみー」


 寝室で川の字になり、目を瞑ると眠りが襲う。

 しばらくして室内から物音、奈南が眼を擦り見渡す。


「んー……あれ怜? トイレ?」

「起こしちまったか」

「?」


 トイレにしては寝間着姿ではなくフェス用の服。

 どこか外出することは明白であった。

 話を聞く限り、深夜帯ステージのアーティストを見に行くとの事だった。

 クォーター美少女の怜を1人、遅い時間帯に出歩かせるのは危険。

 奈南も着替えて同行するのだった。


 街灯に照らされた夜道を歩き、フェスパンフレットを奈南に見せる。


「これ目当てで来たわけよ」

「ナイトロックステージ……真夜中なのに激しい音だね……」

「何だ奈南。ビビってんのか?」

「ちょ、ちょびっと……」

「ぷっ」

「あ! 馬鹿にしてるでしょ! もう!」


 深夜にイチャつく美少女と美女、同じステージに向かうモブ達は惚けていた。

 屋内ステージに入ると凄まじい爆音、軽く怖気づいてしまう奈南は気付く。

 怜は花火の音みたいな爆音が苦手だったはずと。


「れ、怜。大きい音苦手じゃなかったの?」

「別に? なんでだ?」

「だ、だって花火大会の時……」

「あー……爆音の音楽は平気なんだけど、花火はどうしてもビビんだよ」

「そうなん……あ。怜もビビりなんだ~」

「な! ……この野郎」


 プリプリと可愛らしく怒る怜、仕返しにしてやったりな奈南はドヤる。

 お目当てのアーティストまで他アーティストも楽しむ事に。


「コラーゲン・イン・ベジタリアンだ! 初めて生で見た!」

「年々進化してんだよな。結成20周年は伊達じゃねぇな」


 ヘビィーサウンドにデスボ、クリーンシャウトにヘドバンを網羅したバンドに大盛り上がり。

 テンション爆上げのままベジタリアンの番が終わり、次なるアーティストの準備に。


「前行くぞ。すみません通ります」

「ま、待って!」


 前列まで移動し、うずうずと体を揺らし待ちわびる怜。

 入場曲が流れるとアニソン女性歌手Liseリセが登場、激熱なイントロにステージも手を掲げる。


「うぉおおおおお! Liseリセ! 最高だ! 結婚してくれー!」

「れ、怜?」

「うっぉおおおお!」


 どこからか取り出しサイリウムを振る怜、雄叫びに近い声を上げ大興奮。

 ノリに合わせ見様見真似で参戦する奈南であった。

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