第23話デデニーと映画

 隣県の有名スポットの大噴水場にて。

 リア充の蔓延る混沌の巣窟へ赴く奈南は、最高のお洒落着を拵えている。

 本日は一生に一度しかない21歳の誕生日。

 大噴水場には大事な友達である、一際目立つクォーター美少女の怜がいた。

 

「おまおまお待たせ!」

「いや早ぇよ。1時間前だわ」

「はぁ……はぁ……れ、怜の方こそ……」

「まぁ、これ飲んで落ち着けや」


 飲みかけのプリンミルクを差し出し、自慢のバキュームで一気に飲み干す。

 凹んだ紙パックにジト目な怜。

 飲み干す馬鹿がどこにいるかと訴えるが、口には出さない。


「たく……ちゃんと男装してきたんだな」

「約束だもん! 胸はキツイけどね……」


 ギチギチと今にも弾け飛びそうな窮屈なワイシャツ、そしてジャケットに黒パンツ。

 ウィッグで短髪になった奈南は美男子に変装してるのだった。

 スタイリッシュな容姿に何度も確認する怜。

 これでカップルの気持ちが味わえると確信する。


「で? 今日はどこ行くんだ?」

「まずはデデニーアイランド!」

「ふーん……まずは、って事は他にも行くのか?」

「勿論だよ! 1日みっちり楽しもうね!」

「しゃーないな……付き合ってやんよ」


 奈南の締まった尻を軽く叩き、楽し気な鼻歌で駅へと向かう怜。

 すぐさま横を歩く奈南は、当たり前のように腕を絡め幸せ一杯。


 イケメンと美少女カップリングに、モブ達が視線で追う中、物陰で監視する2名の人影があった。


「うぐっふ……2人の間に挟まれたい……」

「美影ちゃん先輩は、欲に忠実デスネ~今はワタシが挟んであげマス! にゅっふふ~」

「こ、これはこれでまた……ふひ」


 ウィッグを被り変装する美影にロゼ。

 先輩達のデートを見届けるため、同好会を代表し尾行してるのだ。

 一方の紫音は前日から風邪で寝込み、泣く泣く美影に今件を譲っている。


「は! い、行くぞロゼ! 2人を見失っちまう!」

「はいデス! 名探偵ロゼにお任せデース! フフフーン!」

「ば! 声デカいって!」

「ンー!」


 黒髪ロング眼鏡と清爽系に変身している美影。

 胸を隠す短髪茶髪ボーイッシュ姿のロゼ。

 傍から見ればギャップありなカップルだ。

 しかし周囲に本来の姿を知る者は誰もいない。


 最寄り駅のホームで楽し気に談笑する先輩達。

 適切な距離感でキュンキュン胸高鳴る美影の下へ、ロゼがジュースを両手に戻る。

 イチゴミルクを差し出す間際、ちょっとした悪戯心がキュピーンと発動する。


「ひゃ!?」

「何時聞いても可愛い声デス……にゅふふ」

「いきなりほっぺに当てんなよな……でも、あんがと」

「今は美影ちゃん先輩の彼氏ですから、当然デス! ほっぺた、キスで温めまスヨ?」

「え、ここで……」

「もうしちゃいまシタ……柔らかくて気持ち良いでスネ……」


 ボッと顔を真っ赤にさせポコポコ照れ隠しする美影。

 痛くも痒くもない可愛らしい表現に、ロゼはニコニコ満面な笑み。


「見ろよ奈南。あそこのカップル、イチャ付いてるぜ」

「み、見ちゃダメだよ! チラ」

「むっつりが」

「た、たまたまだよ!」


 案の定、カップルの正体がロゼ達とは分からなかった2人。

 軽く肝を冷やす尾行組だった。


♢♢♢♢


 奈南達は電車に乗り込み、デデニーアイランドへ向かい、尾行組の目的地も勿論同じである。

 尾行組は隣車両で様子を窺い、仲睦まじい姿を目に焼き付ける。


「どこにいても最高だぜ……デデニーも楽しみだぜ!」

「美影ちゃん先輩~口調が少し乱暴でスヨ~?」

「お、おぅ、そうだな。声でバレるかもだもんな」

「さっきみたいに可愛い声になればバッチグーデス!」

「か、可愛い言うな……恥ずい……」


 デデニーアイランドに到着した4人。

 誕生日割引きで格安入場した先輩達の続き、年パス持ちの美影、ロゼはフリーパスを購入。 

 若干距離を置き、尾行を続ける。


「見て見て! モッヒーとモニーいるよ!」

「著作権そのものだな。近付いたら消されそうだな」

「もう……は! モッヒー達と写真撮って貰おうよ!」

「ちょ! 引っ張るな!」


 ズリズリと撮影列に並び、モッヒー達に挟まれ記念写真get。

 モッヒー役のバイト君は思った。

 このイケメンからただならぬエロフェロモンを感じると。

 そしてモニー役のバイトちゃんは思った。

 美少女尊いペットにしたい……でゅへへと。


 愛想振りまく業務を忘れる程、ハスハスと興奮状態に陥ったバイト達であった。


 同じく中身になりたいと心の底から思う者がいる。

 膝から崩れ落ち、涙を流す美影であった。


「美影ちゃん先輩~怜達が行っちゃいまスヨ~?」

「ぐっふ……モッヒー達になりたかったぜ……」

「もう……」


 御影がズリズリと引きずられる謎景色に、本日のデデニーは一味違うと、客の思いは一致していた。


 とあるアトラクションで立ち止まる奈南達、圧巻な規模に見上げる。


「ビクトリーボルト山脈……いつ見ても大きいね」

「だな……」


 怜の視線は隣に立つ、隠れビクトリーボルト山脈に向けられている。

 こっちの方がよっぽど立派だと。

 視線に気付き、照れ隠しに抱き着く奈南。  

 歩き辛さもありつつ直行する。

 尾行組はというと血の気の引いた美影が微動だにせず、ロゼがジュースを飲みながら覗き込んでいた。


「苦手なんデス?」

「コースター系がどうしても苦手でよ……小さい時、怖さのあまり漏らした……」

「oh……トラウマってヤツデスカ。実はワタシも苦手でして……」

「だったら大人しく見守ろうぜ」

「デスネ。代わりに美影ちゃん先輩とイチャイチャするデース!」

「お、おぅ!」


 ラブラブ腕組みで人気飲食店へ、カップルドリンクの一本ストローで飲み合う。

 目線を逸らす美影と、嬉しそうに見つめるロゼ。

 オムライスとグッズ付きランチプレートが届く。


「あーんでシェアするデス! あーん」

「ま、マジか……あ、あーむ……」

「間接キス……でスネ……」

「にゃ!?」

「にゅふふ~美影ちゃん先輩の反応は見てて楽しいデス……」


 後輩に翻弄される元レディースのトップ。 

 隠密行動で見守りに来た舎弟達は、声を押し殺し興奮を抑えていた。


 イチャイチャ食事を存分に堪能後、尾行を再開する事に。


「やっぱり最高だったね!」

「し、心臓がゲロるかと思った……うげぇ……」

「少し休憩しよっか」

 

 抹茶ラテとホットプリンをベンチで食らう奈南と怜。

 手を温めながら白い吐息が漏れる。

 キャラクターパレードを眺め、モッヒー達に手を振り楽しむ。


「キャー! モッヒー! アタシにも手を振ってくれ!」

「み、美影ちゃん先輩……大はしゃぎでスネ。飾り耳もいつの間にか着けてマスシ」

「ロゼ! 手振ってくれたぜ! アタシに! キャーキャー!」

「ゆ、揺らさないで下サイ! ううぇええ!」


 純粋な子供のお手本反応な美影。

 あまりの可愛さに舎弟達は鼻血を垂れ流す。

 一生貴方について行きます、彼女らは心で改めて誓った。


♢♢♢♢


 数々のアトラクションを満喫し、夕暮れ時。

 デデニーを後にした奈南と怜が向かった先は映画館であった。


「DFの映画観たかったんだよね?」

「お、おう」


 チケット購入後、ポップコーンとジュース両手に館内へ向かった奈南と怜。

 しっかりと何を観るかを確認した尾行組は、仲睦まじい先輩達に頬がゆるんゆるん。


「ウキウキの怜の姐さん……めっちゃキュートだったな!」

「家だと頻繁に見られまスヨ~?」

「っく……ルームシェアが羨ましいぜ……とにかくDFはあまり知らんが、アタシらも続くぞ」

「チケットはワタシにお任せ下サイ!」

「じゃあ、アタシは飲みもんとか用意するぜ」


 準備完了し指定場の館内へ、既に多くの席が埋まる人気っぷり。

 グッドタイミングで暗転。

 予告が始まり本編が流れ出してから、違和感にようやく気付く美影。


「……おいロゼ」

「何デス?」

「これ恋愛映画じゃねぇか!」

「観たいものを観るのは当たり前じゃないでスカ」

「そこだけ冷静にならんでくれ」


 後輩に振り回され翻弄される美影。

 ロゼの掴み所のない性格に苦労する。


 一方その頃、奈南と怜はスクリーンに噛り付いていた。


「ぺティーちゃん……スクリーンから出てきておくれ……でゅへへ」

「涎出てるよ」


 涎を拭ってあげ、落ち着くように世話焼き係な奈南。

 謎の一体感の生まれている館内はカオスだった。


「ほわわわわ!? や、野郎があんな! ロゼ! 出ようぜ! ここから先は大人の世界だ!」

「上映中は静かにして下サイ。キスで塞ぎまスヨ」

「ぴゃむ……す、すまん……ひょおおおお……」


 真っ赤な顔で目を手で隠し、隙間から大人なシーンを鑑賞。

 美影の反応を知っていながら、濃密ラブロマンスをチョイス。

 映画そのものはロゼにとって幸福道具に過ぎないのだった。


 上映終了後、火照った体を冷ますのに落ち着く美影。

 ロゼはホクホクと肌艶がモチプリであった。


「たく……今日眠れないじゃん……」

「美影ちゃん先輩ってむっつりですヨネ~」

「ち、違うわ!」

「にゅふふ~ワタシが上書きしちゃいましょウカ?」

「な、何言ってんだよ!」


 否定する割に悪くない話だと思った美影。

 正真正銘のむっつりだった。


 後輩達のイチャイチャ中、背後から2つの人影が接近していた。


「聞き覚えあると思えば、お前らかよ」

「美影ちゃんにロゼちゃんだよね?」

「ば、バレちまった……」

「サプライズデース! れーい!」

「ほぐぅ!?」


 怜に半日振りのスキンシップは過激で、人目を気にせずに頬擦る。


「ところで……ロゼちゃんは何で男装してるの?」

「男になりたい気分だったのデス! 胸が窮屈で仕方がありまセン!」

「美影も清爽系も似合うな」

「こ、光栄です! ふへ……ふへへへへ……」


 あの美女達は一体何者なのか。

 その場に居合わせたモブ達は、もんもんと眠れない夜を過ごすのだった。

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