第22話紅葉狩りと機会

 食欲を代表する季節秋、山々が鮮やかに彩り、旬の食材が実る。


「あった! 大きい栗!」

「奈南さん! こっちに沢山あります!」

「ほんと璃子ちゃん! 今行くよ!」

「なぁ綿っちゃん。どんぐりって食えんのか?」

「ど、どうでしょう……夏乃斗くん知ってますか?」

「んー……食べない方が賢明かな」


 地元の山で紅葉狩りを楽しむ奈南達、発案者は夏乃斗の姉であった。


「やぁやぁ皆! 張り切ってるね!」

花凛かりんさんも順調そうですね!」

「だろ~?」


 ドヤる姿も絵になる夏乃斗の姉花凛かりん26歳。

 黒髪ショートの似合う美人だ。

 世界でも活躍中の現役モデル、天真爛漫な性格と人の良さから人望は厚い。


「姉さん……拾ったの落ちてるよ」

「え? わ! マジだ!? 拾うの手伝って!」


 どこか抜けているところも彼女の持ち味である。

 夏乃斗と一二三とでせっせと拾い集める。

 そんな花凛を奈南は憧れの目標にしている。

 自分より高い上背180以上、様々な着こなしをこなせる滑らかな曲線美。

 到底追い付けない遥かなる高みだが、それでも日々の努力を怠らず一歩ずつ近付いていた。


 しかし現実的に言えば対等の立場に位置する程、奈南の容姿はどこにでも通用する。

 つまり灯台下暗しなのだ。


「ふぃ~危うく水の泡になるとこだった。あんがとね夏乃斗! 一二三ちゃん!」

「うん」

「ほ、頬擦りが激しいです……」

「存分に甘えていいんだぜ?」


 我が妹の如くスキンシップを取る花凛。

 実妹にはスキンシップを回避され、憂さ晴らしでもある。

 一二三は元から花凛の大ファンであり、夏乃斗と付き合う前から似たような感じではあった。

 現在は距離感が近過ぎる関係性までに発展し、彼女も彼女で憧れの人に触れられて満更でもないのだ。


「じー……」

「どうしたの璃子ちゃん?」

「数年後には本当の家族になるのかなーて思ってたんです」

「ほほーん……えい!」

「ひゃ!? な、奈南さん?!」

「大好きな璃子ちゃんも、私の大事な家族も同然だからね……んふふ~」

「もう……」


 背後からのハグにホクホクと心と体が温まる。

 彼女の近い将来設計はお泊り会で公表済みだ。

 確約された将来に、甥か姪の誕生を今から心待ちにするのであった。

 やはり色々と早過ぎる奈南である。


「なぁ夏乃斗。花凛さんって奈南と似てるよな」

「だね。お、そろそろいい時間だね」

「おぅ、収穫もたんまりだしな」

「充分過ぎるね。おーい姉さん、そろそろ下りるよ」


 棒切れを振り回し先陣を切る花凛、トップモデルとは思えない子供っぽさも人気の1つだ。


 下山後、事前予約していた野外調理場で収穫物を頂くことになった。

 手際の良さと料理上手な一二三を筆頭に、分担作業開始。

 料理類がからっきしな怜と花凛は、焚き付けに任命された。


「焼き芋焼き芋~早く焼けないかな~♪」

「焚火臭くなるっすよ」

「怜ちんはまだ分かってないな~? これは秋の香り!」

「姉さん……この後撮影あるんでしょ。どうするの」

「現場の皆に秋の香りをプレゼントフォーユ―さ! ひゅ~!」

「……」


 ハードめなスケジュールの僅かな空き時間を、アクティブに有効活用。

 仕事量は若干物足りないぐらいの余裕があるポテンシャルだ。

 そんな花凜は仕事のできる女だが、今は夏乃斗に寄り掛かり、ダラダラとリラックスする姿は自然体そのものだった。


「うーん~やっぽここだね。安置健全!」

「肩に顔乗っけないで、重たいから」

「またまた御冗談を~あー楽♪」


 日常茶飯事な花凛のスキンシップになされれるがまま。

 お気にのポジションは家でもずっと変わらないのだ。


「皆さーん、第一陣の準備出来ましたよ」

「おぉ! 見栄えも香りも最高じゃない! よーしよしよし~♪」


 小動物を愛でる手付きで一二三を撫でまわす花凛。

 華奢な体格に見合わず柔らかくもちもちな一二三の、病みつき感触に段々と興奮気味になる。

 どうしようもない変態感が隠し切れない、隠すつもりもないのだ。


「なぁ綿っちゃんよ~近況はどんなもんよ? ん~?」

「ど、どうと言われましても……特に変わったことは……」

「ふっふっふ……怜ちんに特報だぜ。なんと2人はね、ごにょごにょごにょ……」


 身長差30cmもの耳打ち。

 吐息にこそばゆさを覚えながら、現状報告を拝聴。

 思った以上に進展していると知るや否や、ポッと頬を染め感想を述べる。


「綿っちゃん……エッチいな」

「でしょ?」

「ななな何を言ったんですか!? 花凛さん!」

「ほっほっほ~♪」


 真っ赤な顔で問い詰め、怒ってる姿でさえ愛らしいなと反省する、そんなフリで受け身に徹する。


 出来立てほやほやの旬な食材を存分に食す中、1台の黒塗り外車が駐車。

 金髪のお洒落着男性が接近し、食材を頬に詰め込んだ花凛だけがビビる。


「げ! つるちゃん!」

「鶴ちゃん言うな。時間だ」

「えー! まだでしょ? うんうんまだまだ! せっかちだな~鶴ちゃんったら~♪」

「15分前行動が基本だろうが。後輩ちゃん達に示しがつかねぇだろ」

「もう少しだけいさせて! お願ーい!」


 花凛の身を屈めての渾身懇願、大きな瞳を潤わせ見つめる追撃。

 生半可な男ならイチコロで服従する威力である。


 しかし相手はマネージャーの舞鶴まいつるわたる30歳独身。

 問答無用で小頭を鷲掴み、あからさまな怒りを露にする。


「俺よりデケェ女がやっても可愛くねぇよ」

「が、ガーン!」

「おら、行くぞ」

「やーだ! はーなーせ! 誘拐されるー! 拉致監禁ー! んにゃ!?」


 強制的に助手席へ放り込まれ、出られないようドア前に寄り掛かり、電子タバコを吹かす舞鶴。

 車内でわーわー叫ぶ花凛に、一切聞く耳持たず、代わりに怜達へ視線を向けていた。


「怜ちゃん、一二三ちゃん、璃子ちゃん。今日も小さくて可愛いな!」


 ニコニコ笑顔で褒め殺す、低身長の女の子好き舞鶴は、あくまでロリコンではないのだった。


「ロリコン鶴ちゃん! あー閉じないで!」

「うっさ……で、前々からの話だけど、うちの事務所は何時でも歓迎するから」

「考えとくっす」

「恥ずかしいので……」

「璃子ちゃんに同じく……」


 低身長好きではあるがモデルの素質を見抜く、凄腕のスカウトマンでもある。

 奈南も既に短期バイトなどで交流あり、その時発売された雑誌が爆売れした功績があるのだ。


「奈南ちゃんも考えてくれよな」

「はい!」

「フゥー……じゃあ夏乃斗君。アイツを連れてくから楽しんで」

「いつもありがとうございます」

「夏乃斗の薄情者ー! お姉ちゃんが奴隷のように働か……」

「……これがうちのトップだって言うんだからな……はぁ……」


 来た道を戻った舞鶴達、残りの食材を花凛の分まで堪能するのだった。


 片付けを分担でこなし、それぞれが談笑を交え勤しんでいた。


「美味しかったね!」

「食い過ぎたわー……けぷぅ……」

「今度は同好会の皆とだね!」

「おぅ。しかしよ……」


 視線先にはカップルの友人達、手を触れ合いながらの共同作業。

 2人には縁も所縁も無い景色に、ふと怜から言葉が零れる。


「なんかよー……リア充を味わってみてぇな……」

「れ、怜に彼氏願望?!」

「声デカ……ただの思い付きだっ……あ」

「え、なになに?」


 奈南を上から下まで何度も凝視。

 若干照れ臭そうにまんざらでもない感じ。


「なぁ。理想の身長差って知ってるか」

「ふぇ?」

「20だ。丁度ピッタリだ」

「な、何のこと?」

「奈南。今度男装してくれ」

「えっと……説明してくれる?」


 説明は至ってシンプル、彼氏に見立ててリア充を体験してみたい。

 高身長の美貌、化粧や服装次第では美男子にも様変わり可能なのだ。

 コスプレ熟練者の眼は、見定めを得意とするのだ。


「1回でいいからよ……な?」

「うーん……」


 断る理由は皆無に等しい。

 だが、こちらとしてもタダでは引き下がれない。

 何か条件付きでないと勿体ない、手玉に取れる絶好の機会を逃さない奈南は思いつく。


「条件……条件があるよ!」

「おぅ。どんとこい」

「た、誕生日に2人だけで出掛けたい!」

「……んだけか? 別にいいけど」


 好意的な了承に感情爆発。

 抱擁からの頬擦りに苦痛の表情を浮かべる怜。

 2人の微笑ましい姿にリア充友人らは思う、お似合いカップルだなーと。


「本当に仲良いですね」

「僕らも負けてられないね」

「あの……一二三さん達の関係はどこまで行ってるんですか?」

「……内緒だからね璃子ちゃん……こしょこしょこしょ……」


 大人の階段はこうして昇って行く。

 そして近々実行しなければけない。

 下心ありありな使命感に駆られる璃子なのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る