第22話紅葉狩りと機会
食欲を代表する季節秋、山々が鮮やかに彩り、旬の食材が実る。
「あった! 大きい栗!」
「奈南さん! こっちに沢山あります!」
「ほんと璃子ちゃん! 今行くよ!」
「なぁ綿っちゃん。どんぐりって食えんのか?」
「ど、どうでしょう……夏乃斗くん知ってますか?」
「んー……食べない方が賢明かな」
地元の山で紅葉狩りを楽しむ奈南達、発案者は夏乃斗の姉であった。
「やぁやぁ皆! 張り切ってるね!」
「
「だろ~?」
ドヤる姿も絵になる夏乃斗の姉
黒髪ショートの似合う美人だ。
世界でも活躍中の現役モデル、天真爛漫な性格と人の良さから人望は厚い。
「姉さん……拾ったの落ちてるよ」
「え? わ! マジだ!? 拾うの手伝って!」
どこか抜けているところも彼女の持ち味である。
夏乃斗と一二三とでせっせと拾い集める。
そんな花凛を奈南は憧れの目標にしている。
自分より高い上背180以上、様々な着こなしをこなせる滑らかな曲線美。
到底追い付けない遥かなる高みだが、それでも日々の努力を怠らず一歩ずつ近付いていた。
しかし現実的に言えば対等の立場に位置する程、奈南の容姿はどこにでも通用する。
つまり灯台下暗しなのだ。
「ふぃ~危うく水の泡になるとこだった。あんがとね夏乃斗! 一二三ちゃん!」
「うん」
「ほ、頬擦りが激しいです……」
「存分に甘えていいんだぜ?」
我が妹の如くスキンシップを取る花凛。
実妹にはスキンシップを回避され、憂さ晴らしでもある。
一二三は元から花凛の大ファンであり、夏乃斗と付き合う前から似たような感じではあった。
現在は距離感が近過ぎる関係性までに発展し、彼女も彼女で憧れの人に触れられて満更でもないのだ。
「じー……」
「どうしたの璃子ちゃん?」
「数年後には本当の家族になるのかなーて思ってたんです」
「ほほーん……えい!」
「ひゃ!? な、奈南さん?!」
「大好きな璃子ちゃんも、私の大事な家族も同然だからね……んふふ~」
「もう……」
背後からのハグにホクホクと心と体が温まる。
彼女の近い将来設計はお泊り会で公表済みだ。
確約された将来に、甥か姪の誕生を今から心待ちにするのであった。
やはり色々と早過ぎる奈南である。
「なぁ夏乃斗。花凛さんって奈南と似てるよな」
「だね。お、そろそろいい時間だね」
「おぅ、収穫もたんまりだしな」
「充分過ぎるね。おーい姉さん、そろそろ下りるよ」
棒切れを振り回し先陣を切る花凛、トップモデルとは思えない子供っぽさも人気の1つだ。
下山後、事前予約していた野外調理場で収穫物を頂くことになった。
手際の良さと料理上手な一二三を筆頭に、分担作業開始。
料理類がからっきしな怜と花凛は、焚き付けに任命された。
「焼き芋焼き芋~早く焼けないかな~♪」
「焚火臭くなるっすよ」
「怜ちんはまだ分かってないな~? これは秋の香り!」
「姉さん……この後撮影あるんでしょ。どうするの」
「現場の皆に秋の香りをプレゼントフォーユ―さ! ひゅ~!」
「……」
ハードめなスケジュールの僅かな空き時間を、アクティブに有効活用。
仕事量は若干物足りないぐらいの余裕があるポテンシャルだ。
そんな花凜は仕事のできる女だが、今は夏乃斗に寄り掛かり、ダラダラとリラックスする姿は自然体そのものだった。
「うーん~やっぽここだね。安置健全!」
「肩に顔乗っけないで、重たいから」
「またまた御冗談を~あー楽♪」
日常茶飯事な花凛のスキンシップになされれるがまま。
お気にのポジションは家でもずっと変わらないのだ。
「皆さーん、第一陣の準備出来ましたよ」
「おぉ! 見栄えも香りも最高じゃない! よーしよしよし~♪」
小動物を愛でる手付きで一二三を撫でまわす花凛。
華奢な体格に見合わず柔らかくもちもちな一二三の、病みつき感触に段々と興奮気味になる。
どうしようもない変態感が隠し切れない、隠すつもりもないのだ。
「なぁ綿っちゃんよ~近況はどんなもんよ? ん~?」
「ど、どうと言われましても……特に変わったことは……」
「ふっふっふ……怜ちんに特報だぜ。なんと2人はね、ごにょごにょごにょ……」
身長差30cmもの耳打ち。
吐息にこそばゆさを覚えながら、現状報告を拝聴。
思った以上に進展していると知るや否や、ポッと頬を染め感想を述べる。
「綿っちゃん……エッチいな」
「でしょ?」
「ななな何を言ったんですか!? 花凛さん!」
「ほっほっほ~♪」
真っ赤な顔で問い詰め、怒ってる姿でさえ愛らしいなと反省する、そんなフリで受け身に徹する。
出来立てほやほやの旬な食材を存分に食す中、1台の黒塗り外車が駐車。
金髪のお洒落着男性が接近し、食材を頬に詰め込んだ花凛だけがビビる。
「げ!
「鶴ちゃん言うな。時間だ」
「えー! まだでしょ? うんうんまだまだ! せっかちだな~鶴ちゃんったら~♪」
「15分前行動が基本だろうが。後輩ちゃん達に示しがつかねぇだろ」
「もう少しだけいさせて! お願ーい!」
花凛の身を屈めての渾身懇願、大きな瞳を潤わせ見つめる追撃。
生半可な男ならイチコロで服従する威力である。
しかし相手はマネージャーの
問答無用で小頭を鷲掴み、あからさまな怒りを露にする。
「俺よりデケェ女がやっても可愛くねぇよ」
「が、ガーン!」
「おら、行くぞ」
「やーだ! はーなーせ! 誘拐されるー! 拉致監禁ー! んにゃ!?」
強制的に助手席へ放り込まれ、出られないようドア前に寄り掛かり、電子タバコを吹かす舞鶴。
車内でわーわー叫ぶ花凛に、一切聞く耳持たず、代わりに怜達へ視線を向けていた。
「怜ちゃん、一二三ちゃん、璃子ちゃん。今日も小さくて可愛いな!」
ニコニコ笑顔で褒め殺す、低身長の女の子好き舞鶴は、あくまでロリコンではないのだった。
「ロリコン鶴ちゃん! あー閉じないで!」
「うっさ……で、前々からの話だけど、うちの事務所は何時でも歓迎するから」
「考えとくっす」
「恥ずかしいので……」
「璃子ちゃんに同じく……」
低身長好きではあるがモデルの素質を見抜く、凄腕のスカウトマンでもある。
奈南も既に短期バイトなどで交流あり、その時発売された雑誌が爆売れした功績があるのだ。
「奈南ちゃんも考えてくれよな」
「はい!」
「フゥー……じゃあ夏乃斗君。アイツを連れてくから楽しんで」
「いつもありがとうございます」
「夏乃斗の薄情者ー! お姉ちゃんが奴隷のように働か……」
「……これがうちのトップだって言うんだからな……はぁ……」
来た道を戻った舞鶴達、残りの食材を花凛の分まで堪能するのだった。
片付けを分担でこなし、それぞれが談笑を交え勤しんでいた。
「美味しかったね!」
「食い過ぎたわー……けぷぅ……」
「今度は同好会の皆とだね!」
「おぅ。しかしよ……」
視線先にはカップルの友人達、手を触れ合いながらの共同作業。
2人には縁も所縁も無い景色に、ふと怜から言葉が零れる。
「なんかよー……リア充を味わってみてぇな……」
「れ、怜に彼氏願望?!」
「声デカ……ただの思い付きだっ……あ」
「え、なになに?」
奈南を上から下まで何度も凝視。
若干照れ臭そうにまんざらでもない感じ。
「なぁ。理想の身長差って知ってるか」
「ふぇ?」
「20だ。丁度ピッタリだ」
「な、何のこと?」
「奈南。今度男装してくれ」
「えっと……説明してくれる?」
説明は至ってシンプル、彼氏に見立ててリア充を体験してみたい。
高身長の美貌、化粧や服装次第では美男子にも様変わり可能なのだ。
コスプレ熟練者の眼は、見定めを得意とするのだ。
「1回でいいからよ……な?」
「うーん……」
断る理由は皆無に等しい。
だが、こちらとしてもタダでは引き下がれない。
何か条件付きでないと勿体ない、手玉に取れる絶好の機会を逃さない奈南は思いつく。
「条件……条件があるよ!」
「おぅ。どんとこい」
「た、誕生日に2人だけで出掛けたい!」
「……んだけか? 別にいいけど」
好意的な了承に感情爆発。
抱擁からの頬擦りに苦痛の表情を浮かべる怜。
2人の微笑ましい姿にリア充友人らは思う、お似合いカップルだなーと。
「本当に仲良いですね」
「僕らも負けてられないね」
「あの……一二三さん達の関係はどこまで行ってるんですか?」
「……内緒だからね璃子ちゃん……こしょこしょこしょ……」
大人の階段はこうして昇って行く。
そして近々実行しなければけない。
下心ありありな使命感に駆られる璃子なのであった。
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