第31話アウトドアとオレンジジュース

 自然溢れる山々、川沿いでアウトドアを楽しむロゼが1人、マシュマロ焼きをしていた。


「フンフフ~ン♪ む! 良い頃合いデス!」


 食欲そそるキツネ色、外は軽くカリッ、中は甘くとろける。


「ふぅ~……やっぱり暑いデスネー……こんな時は水浴びで涼むべきデスネ!」


 人目もない彼女だけの独壇場に、開放感溢れる水着姿で水浴び。

 海外暮らしでも単身アウトドアを満喫する、根っからのアウトドア玄人なのであった。


「おや~先客がおりましたか~」

「ふにゅ?」


 大荷物を背負った糸目の女性、身形から相当なアウトドア女子であった。

 キュピーンと目が合い、一瞬で同じ趣味趣向だと通じ合う。


「これも何かの縁デス! 一緒に楽しみまセンカ?」

「んじゃ~お言葉に甘えるかな~よいしょっと~」


 天真爛漫なロゼのウェルカムさに、糸目さんも遠慮なく水浴びを始める。


「ひゅ~冷たいね~キンキンだ~」

「足だけじゃ物足りなくないデスカ?」

「そうね~脱いじゃおっか~」


 アスリート並みに引き締まり、女性らしさもちゃんと残すバランス型の体型な糸目さん。

 パシャパシャ水飛沫を飛ばす脚と、にこやかな表情が素敵である。


「日本語上手だよね~独学?」

「そうデス! 日本大好きなんデス♪」

「努力家だね~わたし、家元いえもとかい~お嬢さんは~?」

「ロゼ・シャルロットデス! ロゼと呼んで下さい♪」

「そうする~わたしは海ちゃんでいいよ~」


 不思議な空気の海ちゃん。

 岩辺で隣り合って座り、陽射しと納涼を両立する。


「良い身体ですけど、何かやってるんデスカ?」

「運動好きで自然とだね~」

「触っても?」

「どうぞどうぞ~」


 腹筋や二の腕、脚に胸の触診を網羅、ホクホクと心が満ちるロゼ。

 お陰で新たなカップリング構想が次々に溢れ、荷物を漁りスケブに描き殴る。


「わぁ~凄い上手だね~絵描きさんなの~?」

「いいえ、趣味デス♪ 昔から絵を描くのが好きで同人誌もだしてマス♪」

「そうなんだ~わたしも好きな先生いるんだよね~」


 スマホでペムペム検索、お気に入りの一枚を見せ、ロゼは目を丸くした。


「Oh! ワタシの作品じゃないデスカ!」

「あら~やんごとなき大和撫子先生だったんだ~」

「凄い偶然デスネ♪ 運命を感じマス♪」

「だね~でも、買った時ロゼちゃんいなかったな~」

「バッドタイミングで席を外してたかもデス」

「そっか~あ、サイン貰ってもいい~?」

「もちろんOKデス! 特別にイラスト付きデス!」


 即興で海ちゃんのお気に入りキャラとのペアイラストをプレゼント。

 海ちゃんは大事そうに抱え、幸せ一杯そうでだった。


「何かの縁だし~今度家に遊びにおいでよ~歓迎するよ~」

「では明日遊びに行きマス!」

「即決だね~」


 翌日、地図アプリを頼りに海ちゃん宅を目指しテクテク。

 40階はある高層マンションへ行き着く。

 気分はまるでワクワクドキドキが止まらない冒険家。

 オートロックの部屋番号をテキパキ入力。


『はーい~あ、ロゼちゃん~』

「こんにちは! 遊びに来まシタ♪」

『エントランスで待ってて~』

「お待ちしてマス! ふんす!」


 優雅で豪華なエントラストをトテトテと小冒険。

 そんなこんなをしてる内にエレベーターの音が聞こえる。


「いらっしゃい~ロゼちゃん~」

「海ちゃん! 挨拶ハグをプレゼントデス♪」

「流石欧米育ち~体も心も温いね~」


 先日のアウトドア玄人とは違い、キャリアウーマンなスタイリッシュファッションな海ちゃん。

 エレベーターに乗り込みロックを解除。

 ぐんぐんと昇り続ける感覚がたまらないロゼだった。


「到着~こっちだよ~」

「はーい♪ あ、ズカイツリーが見えマス!」

「怖くないの~? わたしは無理~」


 絶景にキラキラと目移りしつつ、海ちゃんのあとをルンルンと追う。


「さぁ入って入って~」

「お邪魔するデス♪」


 ピカピカな大理石の通路脇には、独創的なアーテイストの絵画。

 何もかもが新鮮で楽しい景色である。


「ここって何階なんデスカ?」

「最上階~フロア丸ごとだから、気兼ねなく過ごせるんだ~」

「高層マンションの最上階! 海ちゃん凄いデスネ!」

「そうでもないよ~さ、中にどうぞ~」


 景色を独り占めする広すぎるガラス窓。

 数百人を余裕で招待できるリビング。

 あきらかに高級であろう家具の数々。

 まさに富裕層の家そのものであった。


「映画みたいな部屋デス! 悪役の守銭奴もウハウハに喜びそうデス!」

「正直な子は好きだよ~さ、座って座って~」


 アイランドキッチンで準備を始めるエプロン姿の海ちゃんは、ニコニコと上機嫌。

 オレンジ系統の果汁100%濃厚ジュースは、勿論全てオーガニック仕様だ。


「凄い濃厚で甘いオレンジジュースデス! こんなの初めてデス!」

「お菓子もあるから一緒にどうぞ~」


 普段お目にかかれないお菓子の数々、キラキラと宝石のようなクオリティ。

 言わずとも全て高級店の代物だ。

 ロゼも感情のまま食べ飲み。

 そんな幸せそうな姿に、海ちゃんの気分は更に上機嫌。

 おもてなし甲斐があるってものだ。


「お気に入りのボードゲームあるんだけど~ゲームとか好きかな~?」

「アナログ系ゲームは好きデス! よく家族の皆と遊んでまシタ!」

「なら良かった~用意するね~」


 2人用ボードゲーム・カイスター、シンプルながらも心理戦を楽しめる名作。

 大人も子供と一緒に遊べる、非常にお手軽なボードゲーム。


「カイスター! 懐かしいデス!」

「説明は大丈夫そうだね~」

「いつもお兄ちゃんお姉ちゃんにフルボッコされてマシタ。妹に優しくない2人は大人気ないデス」

「目が死んでるよ~じゃあ、やろうか~」


 ボードマスに駒をそれぞれ配置。

 ポチポチとお菓子を摘まんだり話をしたり、とてものんびりな時間が流れる。


「そうはさせまセン! えい! ……あー! BAD GHOST!」

「ロゼちゃんの負け~接戦だったのにね~」

「うぅ……とっても悔しいデス……もう1回デス!」

「いいよ~時間はたっぷりあるからね~」


 海ちゃんの幸せそうな顔にロゼもほっこり。

 同時にカップリングの構想が脳内で練られていた。


「ねぇ、ロゼちゃん~実家は恋しくないの~?」

「ん~……たまにありますが、テレビ電話もあるので平気デス! 貰いマス!」

「あ、取られちゃった~わたしも久し振りに連絡してみるかな……」

「きっと連絡したら喜びマスヨ?」


 仕事中心で、お盆や正月も帰省せずに、気付けば数年経っている海ちゃん。

 今の裕福な生活、充実した仕事、時間を作ろうと思えば帰省はできたのに、しなかったのだ。

 結婚話に始まり、ちゃんと生活してるのか、と言われるのが億劫だったが、それらは言い訳で、本当は会いたいのだった。


「あとで連絡してみるね。ありがとうロゼちゃん」

「いえいえ♪ これでワタシの勝ちデス! 頂きマス!」

「それバッドゴーストだよ~」

「NoooOO!」


 ロゼのお陰で勇気が出た海ちゃんは、心の底から感謝をした。


 楽しい時間は瞬く間に過ぎ、帰宅の時間に。


「ロゼちゃんもお盆に実家に帰ってみたら~?」

「ん~今は大好きな皆といる方が楽しいデス!」

「そっか~また好きそうな物を沢山用意するから、遊びに来てね~」

「ふぅ? ワタシは海ちゃんが好きなんで一緒にいるだけで十分デスヨ?」


 見つめる真っ直ぐな瞳、ロゼの言葉は何よりも温かかった。


「……ありがとうロゼちゃん」


 大事な友達と巡り合えた海ちゃん。

 リビングテーブルに置き土産の百合本を読み、幸せな一日を過ごしたのだった。


♢♢♢♢


「へぇーすげぇとこ行ってたんだな。そもそも何者なんだよ、その海ちゃんって」

「さぁ? 海ちゃんは海ちゃんデス♪」

「たく……ネットで調べるから、海ちゃんの苗字教えてくれ」

「確か家元でシタヨ♪ おトイレ、おトイレ♪」


 自分が大丈夫だからと言って、実はとんでもない目に会うかもしれない。

 もしもの時を考えすぐさま検索する怜。

 トップリンクに海ちゃんの正体が載っていた。


「ゆ、有名な女社長じゃねぇか……アイツのコミュ力パネェ……」

「どうしたデス?」


 キョトン顔のロゼ、彼女の天真爛漫な性格は人を変えるのだった。

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