第9話誕生日と2人
冬の訪れが厳しさを増す11月中旬。
眠気眼を擦り起床した奈南にとって、今日は特別な日。
期待に胸膨らませリビングへ急ぐのだった。
「お、奈南。誕生日おめでとう」
「おめでとう! 前から聞いてたプレゼントよ」
「わー! ありがとう! お父さんお母さん!」
最新据え置き型ゲーム機器スナッチ、大闘技場バトルフレンズの最新作セットだ。
バトフレは前々から怜が待ち望んでいる、と友人の夏乃斗から情報を仕入れ、今回のプレゼントとなった。
ネット通信プレイ可能、そして携帯機としても持ち運び可能。
つまり何時でも怜と一緒に遊べる環境になったと、ニマニマと笑顔を浮かべる奈南だった。
とりあえず愛娘が喜んでくれて良かったと、両親はほっこりする。
「あ、姉さん起きてたんだ。誕生日おめでとう。これプレゼント」
「ありがとうつーくん! 開けてもいい?」
「うん」
包装を丁寧に開くと、人気沸騰中の白マフラーとご対面。
「マフラーだ!」
「これからも寒いかぷぅ」
「大事にするね! 大好きだよつーくん!」
窒息必須なメロン埋めに月乃はギブアップ。
。
だが喜びのあまり離そうとしない。
数十秒後ようやく解放され、新鮮な空気を存分に吸引するのだった。
「し、死ぬかと思った……」
「ついつい……えへへ~……」
過剰な愛情表現は姉の武器、改めて知らしめられたのであった。
♢♢♢♢
本日は紫音と美影主催による、誕生日会が開催され、白マフラーを巻き身支度を済ませる奈南。
今回同好会の男共は身を引き、完全な女子だけの誕生会になる。
プレゼントも前日に貰い、お祝いのLINSメッセージも既に届き済みである。
美しき花園に野郎共は不要、空気を読む同好会の男共は出来る男達なのだった。
集合場所ではもふもふに着込んだ怜の姿があった。
「怜!」
「よ、来たな」
自販機でホットココアを買い、2人でこくりこくりと飲み温まる。
2つの白い吐息が冬の夜空に消える中、怜が口開く。
「……誕おめ」
「うん! ありがと! 怜もおめでとう!」
2人は偶然にも同じ誕生日だったのだ。
後ろに隠した怜用のプレゼント、何時渡そうかモジモジであった。
「どした?」
「ふぇ?! い、いやなんでもないない!」
「ふーん……」
あからさまな動揺を察する怜だが、彼女もまた内心モジモジだった。
懐に隠す奈南用のプレゼントを何時渡すかを。
2人のモジモジがじれったい中、目の前に黒光りのリムジンが停車する。
「しょ、初心者マーク付き……?」
「拉致られるな」
何時でも逃げ出せる準備を整え終えると、運転席からタキシード姿の紫音が降りて来た。
「お迎えに上がりました、奈南さん怜さん」
「し、紫音ちゃん?」
「運転してきたのかよ、やば」
「レンタルですけどね。さぁ、会場へ行きましょう」
人生初のリムジンに乗車、高級感溢れる煌びやかな車内に田舎感丸出しな奈南。
ジュース片手に内心ガチガチな怜。
生き心地があまりよろしくはなかった。
数十分後、一際目立つ立派な一軒家に到着。
「亜咲原さんの別荘だそうです」
「ほぇ~……」
「マジもんじゃん」
芸能人が所有する別荘並の規模、美影家はただ者でないと確信する主役の2人。
大理石の通路先には立派な装飾両扉、紫音が扉を開き光が差し込む。
「「「奈南の姉貴! 怜の姐さん! この度はご生誕おめでとうございます!」」」
広々としたパーティー会場には総勢300名以上のコワモテ女性達が黒服でお出迎え。
戦々恐々と身構える2人に対し、パーティードレスの美影が堂々と登場。
「奈南の姉貴! 怜の姐さん! アタシの舎弟と3日掛かりで
「う、うん。とっても嬉シイヨ」
「色々エグイな」
「にゅふふ~! あざす! おめぇらも喜べ!」
「「「ハイっす! あざす!」」」
300人もの一糸乱れぬ動作にビクつく主役の2人は、自然と抱き合って守り合う。
ただ呆れ顔で冷めた人物が1人、ポツリと言葉を漏らす。
「これでは裏社会の集会じゃないですか……はぁ」
「おい紫音てめぇ……アタシらはもう真っ当な一般人だ」
「ふっ……舎弟さん達を引き連れてる時点で未練たらたらですけどね」
「あぁ?」
300人以上対1人のガンの付け合い、一切動じない紫音の肝っ玉っぷりである。
が、今は大事な祝いの席だと思い出し、主役2人に即謝罪。
気を取り直して美影が進行を再開する。
「では、これからお2人の飲酒解禁の儀! この場にて執り行わさせて頂きます! おめぇら! 準備出来てんだろうな!」
「「「ハイっす!」」」
シャンパンタワーの登場に開いた口が塞がらない2人。
やんややんやとシャンパンコールで盛り上げる舎弟達、まさにカオス。
「馬鹿もここまでくると尊敬ですね」
「あぁ? てめぇ紫音……アタシらに言ってんだよな?」
「えぇ、まぎれもなく貴方達を指しています」
「上等じゃねぇか……おめぇら! アタシらのおもてなし! 本気見せてやれ!」
「「「ハイっす!」」」
ドタバタと会場内で何かを始める舎弟達、本日の主役達は隅で見届け中。
2人っきりになった今なら大丈夫だと、奈南は意を決しプレゼントを出した。
「れ、怜! これ! 私から!」
細長のプレゼント袋、軽く驚く怜だったがそっと受け取る。
「……あんがと」
喜びを表情に出さずとも、ポッと頬を染める。
この流れのまま自分も渡せば大丈夫だと、懐から細長のプレゼントを取り出す。
「……ん」
「わ、私に?」
「いらんのか」
「いるいる! 絶対にいる!」
大事そうにプレゼントを抱きしめ、ほんわかとした空気が溢れる。
「せ、せっかくだから一緒に開けよ?」
「ま、いいけど」
包装を開封すると、お互いに色違いのイニシャルキーホルダ。
まさかのドン被りであった。
「お揃い……だね」
「マジか」
「奇跡のペアルック……アタシ……涙が止まらねぇ……スン……」
「「「姉御……ぐすん……」」」
美影一派の感極まる反応、紫音もまた目頭を押さえ感激していた。
豪華な食事にレクリエーションのゲーム、美影一派による芸大会、プレゼント献上タイム。
数多のおもてなしに満腹状態な主役2人。
数時間もの誕生日会もお開きの時間になった。
「怜の姐さん! 奈南の姉貴! 本日はお越し頂き感謝申し上げます! あざす!」
「こちらこそ、ありがとうね?」
「一生忘れねぇわ」
極太のハートの矢に射抜かれる美影、3日間準備した甲斐があったと心が染みる。
「はぐぅ……お2人が灰になるまで、毎年の恒例行事にしましょう!」
「あ、えっと……」
「それは重いわ」
「つ、つい嬉しすぎて! あ、今手土産持ってくるんでお待ち下せぇ!」
咲き誇る満面笑みの軽やかなスキップ、美影は喜びと共に去っていく。
再び2人っきりになった主役達に、もじっとする甘酸っぱい空気。
ふと怜が何か思い立ち、メモ書きを奈南へ渡した。
「ほらフレンドコード」
「え?」
「スナッチ買ったんだろ?」
「う、うん! あ、私のも! えっとえっと何だっけ……」
「落ち着けって。帰ってからLINSで教えてくれればいいから」
「そ、そうだね!」
手書きメモのフレンドコードを、じっと見て自然な笑みがこぼれる奈南。
「怜」
「ん?」
「いっぱい遊ぼうね!」
「だな」
柔らかな笑顔で返す怜、今日は最高の誕生日になったと実感する奈南であった。
直後、ドサッと物落ちした音が聞こえる。音の正体は手土産を持ってきた美影であった。
「さ、最高のプレゼントだぜ……ぶは!」
「「「あ、姉御!?」」」
幸せな鼻血失神の美影は舎弟達に介抱され、覗き見してた紫音も会場外で1人興奮状態。
終始カオスな誕生日会は、主役2人にとってかけがえのない誕生日になったのには変わりない。
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