メガネのアイツを見返す為、痩せた件……え？

第8話ハロウィンと仮装

　秋風の冷たさが肌身に伝わる10月末。

　本日は大学で開催されるハロウィーンパーティーである。

　古賀峰奈南は一足先に和み同好会で仮装中であった。

「う……胸とお尻が窮屈……サイズ小さかったかな……」

　わがままボディーを余すことなく強調する黒紫のマキシワンピ。

　鍔（つば）の広い三角帽子、エロ魔女コスであった。

　鏡前でくるりと軽く一回り、全身の確認を完了する。

「うん！　バッチリ決まってるね」

「痴女だな」

「ぴゃひぃ？！　って怜！」

　鏡前のポージングに夢中で入室音が筒抜けだった。

「よ。仮装すっから、外で見張っててくれ」

　背を押され強制退室、ぽつりと扉前でいじいじするエロ魔女。

　仮装の感想を聞きたかったなと、スネ顔で着替え待ちするのだった。

「おっふ！　奈南殿！　本日は一段と酔い痴れる美貌ですな！」

「あ、吉田部長さん。お疲れ様です」

　怜が着替え終わるまで談笑し、室内から入って大丈夫の許可が下りた。

　全身包帯人間のミイラ男改め、ミイラ女がポージングをしていた。

「ほっふ！　モンダンのゾンダーでありますね！」

「そうっす！　流石よっしー部長！」

「よく知らないけどカッコ可愛いね」

「渾身の原作再現だ。ドヤ！」

　平らな胸を張り満足気にドヤポーズ。

　一方、エロ魔女の視線は背に向けられていた。

　青の下着がチラ見えしていたのだ。

　今すぐ知らせないといけない、彼女の使命感が動き出す。

「れ、怜……下着見えてるよ」

「ん？　まぁ、仮装下は下着だかんな」

「え！　ダメだよ！　私が直してあげる！」

　吉田部長を退室させ、ミイラ女を解除させ下着姿にさせる。

　改めて目の当たりする怜の体。

　息を呑む美しさを堪え、丁寧に包帯を体に巻く。

「スベスベ肌……にゅふ」

「おい」

「はっ！　ご、ごめんね！」

　懲りずに何度も肌に触れ、最終的に乳叩きを食らうのだった。

　他の同好会メンバーも集合し、キャンパス内の出店を巡る事になった。

　夏祭りと同様、美女美少女待遇を受ける怜と奈南、もはや独壇場も同然であった。

「練乳入りチョコバナナだって！」

「美味そうじゃん。にいちゃん、2本下さいな」

「よ、喜んでぇ！　あ！」

　動揺のあまり手を滑らせた販売人の兄ちゃん。

　奈南の立派なメロンの間に挟まるチョコバナナ。

　聳える形状は神々しく、崇める異性達があとを絶たない。

「す、すみません！」

「これぐらい大丈夫でひゃ！」

　挟まる圧力により先端から練乳が溢れ出し、すぐに咥えて啜り取る奈南。

　ただただ眺めるギャラリーは目の前の奇跡をしっかりと焼き付けるのだった。

「んま！　美味し♪」

「……はっ！　だ、代金は結構ですんで！　本当にすみませんでした！」

「え、あ……こちらの方こそ、勝手に食べてすみませんでした！」

　お兄さんとのペコペコ合戦中、怜はチョコバナナを頬張り思う。

　奈南はバカエロイ天然野郎だなと。

　同好会メンバーにフォローされつつ、パーティーを楽しむ奈南は、ふと気になる事が脳裏に過り、吉田部長へ尋ねた。

「そういえば同好会に入った1年生は来てないんですか？」

「おっふ！　今向かってる道中ですぞ！」

「あ、そうなんですね」

　未だに顔や名前すら知らない、同好会新規加入者の1年生の女の子。

　同性の年下ともあり、奈南は内心興奮状態であった。

　期待に胸躍らせハスハスな奈南に対し、怜は興味無さげに綿あめを食らう。

「ヴァンパイアカフェ……ここですか？」

「ふっふっふ！　接客中との事ですので入りましょう！」

　ヴァンパイアコスのウェーター達が接客する中、人気を集めているウェーターがいた。　銀髪で高身長、凛々しさを思わせる佇まい、ボーイッシュ系の女性であった。

　女性客がうっとり酔い痴れる程の人気っぷりだ。

「紫音（しおん）殿！　和み同好会一同参りましたぞ！」

「おや、同好会の皆さん。いらっしゃいませ」

　ひとまず席に座り吸血パフェ（ストロベリーパフェ）を人数分注文。

　紫音の休憩時間までパフェを堪能するのだった。

「お待たせしました」

「では奈南殿、怜殿。紹介致しますぞ！　こちら1年生の新規加入者であり、ジーザス殿の妹君！　外間ヶ丘（そとまがおか）紫音（しおん）殿です！」

「外間ヶ丘（そとまがおか）紫音（しおん）と申します。以後お見知りおきを」

　礼儀正しく挨拶を終え、奈南と怜も挨拶返しをする。

「2年の古賀峰奈南です！　よろしくね！」

「誰かと思えば紫音だったのか」

「え？　知り合いなの？」

「まぁな」

　ジーザスこと外間ヶ丘真男（まさお）達とは、数年前のコスイベで知り合った仲だと。　真男が専属カメラマンとなり、怜と紫音のコス姿を撮影。

　同人誌即売会で販売された今までの写真集三冊は即日完売、圧倒的人気を誇るのだった。

「怜先輩は美しくなられた……思わず唇を奪いたくなります」

「顎クイすんな」

「うぺ……いけずですね……それに比べて……」

　手で除けられた紫音は奈南に視界をチェンジ、ただならぬ空気を放ち近付く。

「古賀峰先輩……貴女以上の原石は初めてです」

「ひゃ！　か、壁ドン……」

　唇を指先でなぞり、息の掛かる顔面距離まで接近。

　お互いに頬を染め、奈南もまんざらでもない空気になる。

「てめぇ紫音！　勝手に抜け駆けすんじゃねぇ！」

　どこからともなく姿を見せたゾンビナースコスの美人。

　ヒール音を鳴らし、不服を全面に出した顔で紫音に接近する。　

　美人ナースの立派なスイカと、紫音の小丘が柔らかそうに押され合うのだった。

「亜咲原（あさきばら）さん、扉越しから様子を窺っていたのは丸見えでしたよ」

「見せつけか？　あぁ？！」

「羨ましかったんですね。ですが、行動にせねば無意味です」

「貧乳が調子乗んなよ？」

　睨み慣れた目付きの亜咲原、涼しげに見下す動じない紫音。

　吉田部長が仲裁役となり、互いに落ち着きを取り戻す。

「ほっふ！　奈南殿、怜殿。もう1人の新規加入者の亜咲原殿ですぞ！」

「今期より他大学から編入してきた亜咲原（あさきばら）美影（みかげ）と申します！　お2人の舎弟志願のため、馳せ参じました！　おなしゃす！」

「う、うん」

「元気かよ」

　かつてレディースの頂点に座した亜咲原。　たまたま新原宿で奈南と怜を見かけ一目惚れしたのだ。

　そして数百人もの舎弟に2人の居所を調査させたのだ。

　他大学の先輩と知った亜咲原は、共に時間を過ごしたいと心に、決め編入したきたのだった。

　今では純情な犬の様に瞳をキラキラさせ、2人と適切な距離感を取る。

　金髪ポニテを揺らし、期待する眼差しを2人に送り続ける。

「何でも仰って下さい！」

「じゃあ、これに仮装できるか？」

　怜がスマホ画面を見せ、足早にどこかへ向かった亜咲原。

　数分後、狼女の仮装で再登場。

「おぉ！　クリソツだ亜咲原！」

「れ、怜の姐さん～褒め過ぎですよ～うへへ」

　すっかり骨抜き状態の亜咲原。

　一方の紫音はよくは思わずジト目。

　同好会の男共はすっかり蚊帳の外だが、自ら身を引いたのだった。

　美しき女性同士の空間に男は不要。

　まさに出来る男達であった。

「奈南の姉貴も何なりとお申し付け下せぇ！」

「え？　あ、うん……じゃあ、よろしくの握手ね」

「な、奈南のあああ姉貴に……触れて貰え……ぶは！」

「え！？　亜咲原ちゃん！？　鼻血！？」

　これほどまでに幸せな失神はないと、その場に居合わせた者達の心が合致した瞬間であった。