第28話 危険な賊

 マリアの学園入学のために、オレたち一家は村を出発。


 数日間の予定の旅は、順調に進んでいた。


 日が明るい内は、ドンドン道を進んでいく。


 だがマリアの体調を見ながら、道中で休憩を多めにとる。


 そんな中でもオレとエリザベス、マリアが会話して、フェンが鳴き声でツッコミをいれる。


 ワイワイした雰囲気。


 移動中、マリアはいつも笑っていた。


 また食事は保存食をベースにして、現地調達。


 野生の鳥やウサギを狩って、その場で調理した。


 初めて外で食べる食事に、マリアも大興奮して笑顔だった。


 そして陽が沈む目に、適当な野営地を探す。


 寝る時はマリアのために、テントを張ることにした。


 鉄大蛇てつだいじゃの皮で作った自家製のテントは、防水性と保温性に優れ快適。


 マリアもテントの中で大はしゃぎしていた。


 エリザベスと女子的な会話で盛り上がっていた。


 ちなみに夜中はオレとフェン、エリザベスが交代で見張りに立った。


 闘気術を使えば、ある程度の睡眠不足も回復できるので問題はない。


 そんな中でマリアは可愛い寝顔で、ぐっすり寝ていた。


 ◇


 そんな道中で、数日を過ごしていく。


「さて、もう少しで街道が見えるはずだ」


 山道をショートカットして、結構な距離を移動してきた。


 予定では今日中に、目的の街に到着するはず。


「その街には、前も行ったことがあるのか、オードル?」


「ああ、そうだ、エリザベス。仕事で住んでいたこともある」


 オレは目的の街には、以前にも行ったことがある。


 だから、この先の道も知っていた。


 少し狭い谷の橋を渡れば、街は目前である。


「きょうで、旅もおわり……さびしいね、パパ……」


 楽しかった野外生活の終わりに、腕の上のマリアは寂しそうな顔をする。


 この数日間は、本当に楽しかったのであろう。


 しょんぼりしていた。


「それならマリア、街に引っ越しても、たまには野外に遊びに行くぞ」


「えっ、ほんとう、パパ? マリア、たのしみ!」


 よほど嬉しかったのであろう。


 暗かったマリアの顔が、パッと明るくなる。


「これから住む街の近くには、景色がキレイな場所がある。そこに皆で遊びに行くのも面白いかもしれないぞ」


「ほんとう、パパ? マリアもたのしみ!」


 旅は子どもを大人にする……そんな古人の言葉がある。


 マリアの純粋な笑顔を見ていると、そんな言葉が正しいと感じた。


 何よりオレ自身が父親として、大きく成長している気がするのだ。


(……んっ?)


 そんな時である。


 前方から何か、嫌な気配を察する。


「エリザベス、フェン。前方で何かが起きているぞ。警戒しながら前進だ」


 まだ気が付いていなかった二人にも、注意を促す。


「なんだと、オードル? ああ、了解した」


『ワン』


 状況を確認するために、全員で足音を消しながら進む。


 この先はたしか、谷の上に橋があったはず。


 そこで何か起きているのか?


 とにかく確認できるギリギリまで接近していく。


(あれは……)


 遠目に状況を確認する。


 嫌な予感は的中していた。


(馬車が、襲われているのか?)


 狭い橋の上で馬車が、野盗らしき連中に襲われていた。


(あれは馬車の方が、劣勢だな……)


 馬車の護衛たちも、必死で応戦している。


 だが野盗の数が圧倒的に上。


 馬車の護衛は、2人しか残っていない。


 残りの護衛は既に息をしていない。


 このままでいけば、馬車側は全滅してしまうであろう。


「オードル。あの馬車の紋章は、“聖教会”のものだぞ」


 隣で見ていたエリザベスが、小さくつぶやく。


 豪華な馬車の紋章に、見覚えがあると。


「ああ、そうだな、エリザベス。それに賊も素人じゃないな」


 紋章にはオレも見覚えがあった。


 更に野盗の動きは、訓練された兵士のものであった。


 汚い格好で野盗に偽装はしているが、オレは一発で見破っていた。


“襲われている聖教会の馬車と、野盗に偽装した訓練された兵士団”


 明らかに問題がありそうな両者。


 何やら王国での面倒な匂いがプンプンしている。


 生きていることを隠しているオレは、これは関わらない方がいい。


「パパ、どうしたの? だいじょうぶ?」


 傭兵時代のオレなら間違いなく、関わらないことを選択していただろう。


「ああ、マリア。大丈夫だ。すぐに済む」


 だが今のオレは違う。


 人の親として。


 このマリアの父親として、恥ずかしくない人生を送らなければいけないのだ。


「エリザベス、少し、マリアのことを見ていてくれ」


「分かったオードル。マリアは必ず守る。だが、あの数の野盗を相手に、お前一人で大丈夫なのか?」


 野盗の数は40人以上。


 しかも全員が、訓練された兵士級の腕前である。


「あの程度なら問題ない。じゃあ、行ってくるぞ」


 こうして野盗の集団の中に、オレは単身で突撃していくのであった。

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