第34話 入学の受付
入学の手続きのために、オレたちは街の中心地にある学園に向かう。
そして厳重な警備の学園の正門に到着する。
「ここは随分と厳重な警備なのだな、オードル?」
「そうだな、エリザベス。ここは王国内の金持ちの子が入学する、特殊な場所だからな。その分だけ厳重なのさ」
この街の学園は少し特殊な創設だと聞いたことがある。
なんでも、ここは元々、古代文明を研究するための場所であった。
だが、いつの間にか勉強を学びたい若者が集まるようになった。
しかし学問には金がかかる。
そのため金持ちの子で、なおかつ学のある子どもが増えていく。
だから今では、貴族か大商人の子どもが、この街の学園で勉強しているのだ。
「そういえばエリザベスは、ここに入学していないのか?」
エリザベスは腐っても公爵家の大令嬢である。
その割には、この街の学園のことに詳しくない。
「わ、私は勉学よりも、剣の方が好んだ。だから、勉強は家庭教師から学んだ」
なるほど、そういうことか。
エリザベスらしい幼少期だな。
それでも彼女と同じように、学園に通わない貴族の子も多い。
ここが“本当に勉強が好きな子ども”だけが入学する場所なのだ。
「さて、入学の受付の場所があったぞ」
学園の正門の奥に、目的の建物が見つかった。
“ルーダ学園、新入生受付場所”と看板がある。
「エリザベスたちは、少しここで待っていろ。マリアと入学の手続きをしてくる」
今回入学するのはマリアだけ。
エリザベスとリリィ、フェンの三人は外で待ってもらう。
ここは警備も厳重である。
それに何かあったらフェンの念話がある。
置いていっても、大丈夫であろう。
「さあ、いくぞ、マリア」
「うん、パパ。楽しみだね!」
こうしてオレとマリアは入学の手続きに向かうのであった。
◇
建物の中に入り、オレは受付の担当者に声をかける。
「ん? 失礼だが……入学を希望するのは、その女の子か? 当学園の初等科は、基本的に7歳から入学だぞ?」
担当者の反応は、あまり良いものではなかった。
まだ幼いマリアを見て、驚いている。
むしろ冷ややかな目で見てきた。
「たしかに、この子は5歳だ。だが聞いた話では、学力があれば、幼い子でも入学できるはずだ、このルーダ学園は?」
そんな担当者の冷ややかな視線を気にせず、オレは反論する。
何しろオレは前にこの街に住んでいたことがある。
その時、この学園に勤めていた旧友がいた。
そいつから前に聞いた話では、この学園は才能ある者を尊重すると。
学力さえあれば、6歳以下でも入学できるはずなのだ。
「まあ、一応はそうですが……じゃあ、この問題を解いてもらいます。全問正解なら、入学を許可します」
担当者は面倒くさそうに、紙を取り出す。
マリアに渡して、受付の横のテーブルを指差す。
なるほど。
あそこで問題を解け……ということであろう。
「ところでお嬢ちゃん。字の読み書きはできるのかい?」
「うん! 字を書くの、マリア好き! テストも好き!」
男の皮肉も、純粋なマリアには通じない。
マリアは嬉しそうにテーブルに駆けていく。
そして笑顔で問題に挑戦しはじめるのであった。
「ところで、あんたが保護者さん? 紹介状とかあるの?」
「紹介状だと? そんな物が必要なのか? 聞いたことがないぞ?」
「貴族以外には必要なのさ。何しろ当学園は由緒正しいからね」
そう言いながら、担当者はイヤラシイ笑みを浮かべていた。
みすぼらしい格好のオレとマリアを、明らかに見下した目つきをしている。
ちなみにオレも平時は覇気や殺気はゼロにしている。
だから一般人に思われているのであろう。
(やれやれ……どこの場所にも、こういうヤツはいるんだな……)
この程度の小物にいちいち反応していては、傭兵などやっていられない。
男の皮肉の視線もサラリと流しておく。
(だが紹介状か。これは困ったぞ……)
そんな大層な物は用意していない。
昔、学園関係者の旧友から聞いた時も、そんな話はなかったはずだ。
(ん……そうだ)
そんな時。
オレはあることを思い出した。
昔の旧友……この学園関係者から貰った記念品が、手元にあったのだ。
(たしか、ここに入っていたよな……あった、これだ)
オレは懐の財布から、小さなメダルを取り出す。
これはこの都市で世話になった旧友から貰った、友好の証。
たしかアイツは学園でも偉い地位にあったはず。
これなら何かの紹介状になるかもしれない。
「このメダルが紹介状にならないか?」
「あん? メダルだと?」
担当者の態度は、もはや悪態に変わっていた。
もうオレたちのことを受け付ける、気持ちはないのであろう。
だが、そんな態度に構っている暇はない。
「ああ、そうだ。この学園にいるはずの、リッチモンドという男から貰ったメダルだ」
「リッチモンド副学園長だと? そんなバカな話はあるか……あっ⁉ 本当だ……副学園長の刻印がある⁉」
担当者の態度が一変する。
オレの出したメダルを確認して、飛び上がって驚愕していた。
目を見開き驚き、次に顔を真っ青にしていく。
(リッチモンドの奴……副学園長だと? 出世したのか、あいつ?)
旧友がそれほど昇進していたとは、オレも予想していなかった。
昔は普通の真面目な研究員だったような気がする。
「パパ、おわったよ!」
そんな時である。
テストをしていたマリアが声を、元気よく上げる。
渡されていたテストを、全部解き終えたのだ。
「先生、できたよ!」
「ああ……そうかい、お嬢ちゃん。随分と早かったな……なっ……なんだと、全問正解だと⁉」
放心状態にあった男は、マリアの解答用紙を見て更に驚く。
口をパクパクさせて、魚のように驚愕していた。
「そ、そんな……これは10歳用の難問だったのに……そんな……こんな小さな子が、この短時間で……」
男は誰にも聞かれないように、そう呟いていた。
だが五感の鋭いオレには、丸聞こえである。
なるほど、そういうことか。
この男は初めからマリアのことを、受け付けるつもりはなかったのであろう。
まだ5歳であり、平民の子として差別していた。
そこで新入生には絶対に解けない、10歳用テストを渡していたのだ。
だが、マリアはまさかの短時間での全問正解。
だからここまで担当者は、度肝を抜かれていたのだ。
「さて、どうする? 念のために、この解答用紙に、メダルで刻印のハンコを押しておいてやる」
形勢逆転である。
オレはメダル
をハンコ代わりに、刻印をバンと押す。
これで男も証拠隠滅はできないはず。
何かあれば詐称になってしまうのだ。
「これでリッチモンドの奴に確認してこい!」
そして最後の部分で、闘気を少しだけ発する。
担当者だけにぶつける指向性の闘気術。
少しだけ強迫性もあるヤツだ。
「は、はい! わ、分かりました! 入学テストは合格です! 明日の朝に、この場所に行ってください。そこで説明があります! あと、来週に入学の儀があります!」
オレの強い言葉に、担当者は震えあがる。
担当の男は一気に態度を改め、急に敬語になった。
丁寧な態度で、紙を渡してきた。
これからの学園生活に必要な内容が、書かれているものだ。
「そうか。それではウチの娘が世話になるぞ」
「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
こうなったら担当者も不正な行為はしないであろう。
安心してオレも任せられる。
「マリア、合格おめでとう」
「ありがとう、パパ! 入学、楽しみだね!」
マリアはルーダ学園に無事合格。
こうして学園生活が始まるのであった。
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