第32話 【閑話】国王の話、その2

《閑話:オードルを粛清した国王視点》


 オードルを粛清した後、帝国軍に侵攻した国王は大敗。


 そのストレスによって倒れてしまった。


 だが誇り高き王家の意志をもつ国王は、見事に復活する。


 復活した国王は更なる躍進のため、重鎮を集めて会議を開いていた。


 ◇


「今の王国の現状を、何とか打開した。皆の者よ、アイデアを出せ」


 国王は配下に向かって命令を下す。


 王国は先日の帝国との戦いで、歴史的な大敗を喫した。


 そのお陰で国王の私物の銀山が、賠償金として奪われてしまったのだ。


 しかも最近は軍師や騎士の離反が、多くなってきた。


 このままでは王国の維持すら難しくなってしまう。


 だから何か打開策を、早く見つけなければいけないのだ。


「それなら陛下。私から申し上げます」


 配下の一人が挙手をして、意見を出してきた。


 この者は黒羊騎士団の団長。


 国王の側近の一人であり、裏の仕事を行っている。


 先日も厄介な戦鬼オードルを、見事に暗殺してくれた忠臣だ。


「なんだ、申せ」


「はっ、陛下。帝国は厄介です。そこで隣国の共和国と連携して、帝国に攻め込んではいかがですか?」


 共和国は帝国と同じく、この王国と国境を接する国。


 2年前から共和国と王国は同盟関係にある。


「なに、あんな共和国に援軍を求めるだと? 歴史ある我が王国が、そんな恥ずかしい真似ができるか⁉」


 国王は激怒する。


 何しろこの王国には数百年の、誇りある歴史がある。


 それに比べて共和国は、百年ちょっとの浅い歴史しかない。


 国王は国として格を大事にする賢人なのだ。


「大丈夫です、陛下。共同軍とはあくまでも名目上。実際には共和国軍と帝国軍を戦わせて、双方を浪費させる。その後に我ら王国軍が、両軍を一気に叩く作戦です!」


 黒羊騎士団の団長は、誇らしげに作戦を提案する。


 この作戦が上手くいけば、先日の失った銀山も取り戻せると。


 いや……それ以上の賠償金を両国から得ることができると、断言する。


「なるほど、そうか。それは最高の作戦であるな! おい、さっそく共和国の大使を呼びだせ。この帝国軍に侵攻する準備をしろと」


 この王都内には共和国の大使館があった。


「ぶひひ……これでワシの私財は一気に倍になるぞ……」


 こうして国王は共和国の大使を呼びだすのであった。


 作戦は完璧。


 絶対に上手くいくはずであった。


 ◇


「失礼ながら、お断りする」


 だが共和国の大使は、国王の申し出を断る。


 共和国は王国のために援軍を出せないと。


「何故だ⁉ お前たち共和国は、我が王国の同盟国であろう⁉」


 まさかの拒否に、国王は顔を真っ赤にしていた。


 予想していたシナリオが狂い、声を荒げる。


「この際だから申しますが、我ら共和国が王国と同盟を結んだのは、ある人物の恩に報いるためです」


「ある人物……だと?」


 国王は嫌な予感がした。


 だが聞かずにはいられない。


「はい、鬼神と呼ばれたオードル様です。あの方が3年前の決戦で、我が共和国を救ってくれました。あの方がいなければ、共和国は地図から姿を消していたでしょう。だから我ら共和国は、今まで王国と同盟を結んでいたのです。オードル様の恩によって、私もここに来ました」


「なんじゃと……また、オードルの恩じゃと⁉」


 大使の口から出た人物名。


 嫌な予感が的中して、国王は憤慨する。


 何故、またあの傭兵の名前が出てくるのだ。


「あの男はもう死んだ! 今は関係ないじゃろうが!」


 これ以上あの男に、周りを乱されたくなかった。


 国王は半狂乱となる。


「これ以上、グダグダ言うのなら、共和国を攻め滅ぼすぞ! いいのか?」


「陛下、それは宣戦布告という意味でしょうか?」


「当たり前じゃ! 今すぐに共和国を滅ぼしてやる!」


「かしこまりました。では本国にそう伝えておきます。まあ、こちらも、オードル様のいない王国に、負ける要素はないので」


 そう言い残し大使は去っていった。


 大使館に直行して、共和国に連絡をするのであろう。


 大使館からは高速で飛べる伝書鳥を使えば、本国との連絡も可能なのだ。


(くそ……またオードルか……あんな奴がいなくても圧勝することを、大陸中に知らしめてやる!)


 交渉は決裂した。


 こうして、また国王自らが大軍を率いて、共和国領へ侵攻をしていくのであった。


 ◇


 それから2週間後。


 共和国との戦いは、あっという間に決着がつく。


 国境沿いの戦いで、王国軍は大惨敗。


 軍を率いていた国王は、命からがら逃げ出してきた。


 敵の残党狩りから逃げるために、国王は乞食の格好で逃げてきたのだ。


 数百年の誇りある王家にとって、これ以上の屈辱はなかった。


「くそっ! くそっ! なぜじゃ……なぜ、こんなことになったのじゃ!」


 王都に戻った国王は、半狂乱に陥っていた。


 何しろ今回の大惨敗により、王国軍はまた戦力を失ってしまった。


 また国王が個人的に所有していた金山を、共和国に賠償金として奪われてしまったのだ。


『だから言ったでしょう陛下。オードル様のいない王国は、もう終わりだと』


 停戦協定の場で共和国の大使は、そう皮肉の言葉をかけてきた。


 くそっ! 


 こうなったら聖教会に直談判してやる。


 何しろワシと教皇は竹馬の友。


 親友なのだ。


 聖教会にいる聖女を使って、起死回生の戦略を編み出した。


 シナリオはこうだ。


 聖女は大陸中の市民に好かれている。


 神の啓示ということで、その聖女に王国に都合のよい宣言をさせる。


 これで共和国や帝国にいる市民も、王国の味方になるであろう。


 ぶはっはは……!


 これで王国は、ワシの権威は復活するのだ。


『申し訳ございません、陛下。聖女にして、そのようなことは出来ません』


 だが聖女は国王の依頼を断った。


「お前など、聖山に送ってやる! 不敬罪だ!」


 国王は怒りのままに、聖女を追放した。


 しばらく、あの荒野で頭を冷やしたら、国王の命令を聞くであろう。そういう腹づもりだった。


 だが数日後、聖教会の教皇から、とんでもない事件を聞かされる。


『すまないが、聖女様は聖山に向かう途中、落下事故により死亡した。新しい聖女の選定には数ヶ月かかる』


 頼っていった教皇から


 、そんな事実を告げられた。


 聖女が聖山に向かう途中で、馬車ごと谷底に落下して亡くなったと。


『それよりも国王。聖教会が貸していた金を、返してくれ』


 不幸はさらに続く。


 竹馬の友である教皇から、借金の返済を催促されたのだ。


 たしかに借りてはいた。


 だが、このタイミングでそんな大金を返したら、ワシの私財は無くなってしまう。


「くそっ……これも、死んだオードルの奴の呪いなのか……」


 バタン!


 津波のように押し寄せてきた不幸に、またもや国王は倒れてしまった。


 ストレスにより脳がパンクしてしまったのである。


 国王の髪の毛はストレスにより、老人のように真っ白になっていた。


「くそっ……ワシはこのままでは終わらんぞ……」


 だが倒れた国王は知らなかった。


 オードルを粛清した報いが、まだ終わっていないことを。


 国王を更なるどん底が待ちかまえているのであった。



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