第33話 学園都市ルーダ
聖女リリィを助けた日の午後。
オレたち一行は目的地の街に到着した。
◇
王国第三都市“ルーダ”。
国内で一番大きな学園があるために“学園都市”とも呼ばれる街。
自分の子どもを学園に通わせるために、昔から貴族や金持ちは街に別宅を建ててきた。
その関係者に対して、商品を売る商人や職人が、どんどん増えていく。
その商人や職人を相手に、更に商売をする者たちも住み着いていった。
こうして独自の発展を遂げているのが、ここ学園都市ルーダなのだ。
◇
そんなルーダの街は、堅牢な城壁に囲まれていた。
オレたちは正面にある城門で、通行税を払い街の中に入る。
「すごい! すごい、大きい街だね、パパ!」
街の中に入りマリアは周りをキョロキョロしながら、大はしゃぎだった。
生まれて初めて大きな街にやってきたから、仕方がない反応であろう。
笑顔で目を輝かせている。
「これが街……ですか。街はこんなにも、賑やかなものなのですね、オードル様」
リリィも街並みを見て、深く感動していた。
彼女は幼い頃に、田舎の村から大聖堂に連れていかれた。
それ以来は大聖堂の中だけで、隠されて暮らしてきたという。
だから、リリィも大きな街を見るのは初体験。
こんなにも感動しているのだ。
ちなみにリリィは変装のために、聖女の衣を脱ぎ捨てていた。
今はエリザベスの私服を着ている。
これなら誰も聖女だとは思わないであろう。
「ここが第三都市ルーダか? なかなかの街だな。でも、王都の方が栄えているぞ、オードル?」
女騎士エリザベスはレイモンド公爵家の令嬢である。
だから大きな都市には慣れていた。
冷静に街並みを観察している。
「ん? オードル、あれはなんだ⁉ 大きな塔があるぞ! あんなに変わった建築物は、王都にもなかったぞ!」
だがエリザベスもまだ若い16歳の少女。
初めて訪れた都市の文化に、大興奮しはじめる。
「あれは学園のシンボルタワーだ、エリザベス。この大陸も貴重な古代書が、たくさんあるらしい」
「なるほど。さすがはオードル。博学だな」
このルーダの街にオレは、何度か訪れたことがある。
過去の傭兵団の仕事で、短期だが滞在していたのだ。
だから、ある程度の地理や情報は知っている。
とりあえず、一緒に来たのは、これで全員か?
荷物を積んだエリザベスの愛馬も、一行にいるが。
『ワン!』
ああ、そうだったな、フェン。
お前のことを忘れていたな。
白魔狼族の危険な上位魔獣。
だがフェンの見た目は、普通の子犬。
城門の検査も難なく通過していた。
『ワンワン!』
なんだと、自己紹介じゃないだと?
あっちから、いい匂いがするから、食べてみたいだと?
「パパ。フェンの見ている、あのお店はなに?」
フェンの鳴いている方向を、マリアも気にしている。
「あれは屋台料理の店だ。金を払って、歩きながら食べる」
街の大通りには、出店が沢山並んでいた。
街に入った観光客や、通行人に対して商売をしているのであろう。
売り子たちは威勢のいい声で、客引きをしている。
「歩きながら、食べる? 楽しそうだ! でも、パパ、おぎょうぎ悪くなるよね?」
「屋台では大丈夫だぞ、マリア。どれ、皆で買って食べよう」
大きな街に来たことがないマリアに、屋台料理を買ってやることにした。
これもマリアが成長するための社会勉強。
今回買うのは、こんがりと焼いた鶏肉を刺した串焼き。
これならマリアも食べられるであろう。
ついでに他の2人と1匹にも買っておく。
よし。みんなで頂くとするか。
「いただきます! もぐもぐ……うん、おいしい! おいしいね、パパ!」
初めて食べる屋台料理に、マリアは感動の声を上げる。
大きく口を開けて、口の周りにタレをつけないように食べていた。
こういった気づかいは、少しずつレディーとして成長している証であろう。
「本当ですね、マリア様。屋台料理……本当に美味しいですわ」
同じく初めて屋台料理を食べるリリィも、感動していた。
神に祈りを捧げながら、美味しそうに食べている。
「まあ……ルーダの街の屋台も、なかなか美味しいな」
エリザベスも文句を言いながらも、串焼きをほお張っていた。
よほど王都の暮らしと比較したいのであろう。
だが、エリザベス。
その口の周りに、タレが付いているぞ。
かなり美味しいのであろう。
あまり無理はするな。
『ワンワン! ワンワン!』
一番食いしん坊なフェンは、早くも2本目に移っていた。
本来の白魔狼の食欲は凄まじい。
このままのペースでいけば、屋台ごと料理を食いつくしてしまう勢いだ。
「あっ、リリィお姉ちゃん! あっちの屋台も美味しそうだね!」
「本当ですわ、マリア様。甘くて、いい香りですね……」
「よし、それなら、この私が買ってやろう!」
「ほんとう、エリザベスお姉ちゃん⁉」
「ああ。何しろ私はこの中で、一番のお姉さんだからな! はっはっは……」
マリアとリリィ、エリザベスの三人娘は、いつの間にか別の屋台へと移動していた。
果物を甘い蜜でコーティングしたお菓子を、買って食べ始める。
「美味しいね! ありがとう、エリザベスお姉ちゃん!」
「礼には及ばんぞ、マリア。……ああ、本当に、この菓子は美味いな!」
「本当ですわ。ほっぺたが落ちそうな甘さですわね」
三人はお菓子を食べながら、満面の笑みを浮かべていた。
それぞれ人生に事情がある少女たち。
だが、今は何の屈託もない笑顔で、屋台料理を楽しんでいる。
「さて、そろそろ移動するぞ。このペースだと日が暮れてしまう」
この街には観光に来た訳ではない。
それに住みはじめたら、屋台にはいつでも来ることができる。
オレは様子を見ながら、移動を開始することにした。
「なあ、オードル。まずは、どこに行くのだ? 宿屋? それとも案内所か?」
後ろをついてきたエリザベスは、訪ねてきた。
オレたち一行は引っ越しの道中。
かなりの大荷物を持って移動している。
普通ならエリザベスの言う通り、寝床を探すのが適切であろう。
「いや、まずは学園に向かう。そこでマリアの入学の申し込みをしておく。宿はその後に探す」
だが街の中央に
ある学園に、オレは向かうことにした。
何しろ学園に入るには、入学の申し込みが必要である。
時期的にもうすぐ“入学の儀”もあるはず。
だから宿屋の前に、学園に向かいたいのだ。
「さあ、学園にいくぞ」
こうしてマリアの入学の手続きのために、オレたち一行は学園へと向かうのであった。
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